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フルコースは嬉しいな


昼食。


森から外れた場所でドミトル達は食事をとっていた。

周囲に異様な匂いが広がっている。その匂いの発生源はドミトルと補佐達がいる場所だった。

他の者達はその匂いが嫌で、少し距離をとった場所で食事を作って食べている。

その料理の食材は鳥型の獣で、緑の羽毛がむしられ、茹でられ、臭みのなくなった肉に味付けがされて美味しそうだった。


ドミトル達の方は、調理場から少し離れた場所に巨大な蛇の皮が置かれている。

そしてぶつ切りにされた肉は多いので、その皮の上に置かれ天日干しにされていた。


「臭い臭いスープが生臭い!こんなもん食べれるかっ」


補佐の一人、ゲルモンテが鼻を摘まんでお椀を自分から離している。野性味あふれる顔をしているが中身は普通のようで目に涙を浮かべていた。

黒に近い赤い髪は短く、上に向かって立っている。瞳の色は赤色で、今は潤んでいた。


お椀の中には温かい汁があり、その辺に生えていた草と蛇のぶつ切りが浮かんでいる。

白濁とした汁は不味そうだ。


「見ろよ、こんなに濁ってる。臭いからさらに不味く見えるぞ」

「ちょっと、ゲルモンテ黙って。メインの蛇の串焼き。デザートは目玉のゼリー仕立て。わーオイシソウ」


ゲルモンテに似ている姉のアタランテが、棒読みの言い方で昼食を称えている。

波うつ髪は肩まで伸ばしており、まつ毛が長く唇が厚い。瞳は赤色で女性らしい顔つきをしていた。


貶したらドミトルに昼食を追加されそうだと思っているので本音を言わないように気をつけている。回避する能力が高かった。


「嫌だー!!別のものを下さい!」

「鱗は出汁じゃないんだぞ!誰が入れたんだ」


モイスとルドバンが叫んでいる。

ルドバンは紺色の髪をした真面目そうな顔をした青年で、常識的な事を言っている。茶色の瞳は厳しい目付きをしていた。


ルドバンのお椀の汁には鱗がびっしりと浮いているので、見ているだけで恐怖を感じた。


鱗は出汁じゃないと言ったルドバンの皿に、ドミトルはさらに手料理をのせ、そのブツはドクンドクンと動いているので、皿の上を移動していた。


「心臓の甘露煮も美味いから食ってみるといい」


その言葉で、出汁として鱗まで入れたのがドミトルだと気づき、ルドバンは怯んで汗をダラダラと流す。

出した言葉は戻らないので、諦めてナイフを持つと、甘露煮を切って震える手で口の中へ入れる。一生懸命噛みしめるが、口の中の物体は弾力があって固く、すり潰せなかった。


「口の中でピクピクビクッて動いてるんですけど総隊長!これ本当に食べれるんですよね?モグモグ」


「大丈夫だ。俺は食えたぞ」


「信用ならない人が毒味をしてる!!どんなモノでも食える人が毒味をしても意味ないじゃないですか!!おえぇぇぇぇ」


顔色を一気に黒くしたルドバンが倒れ、脱落する。

その背中をドミトルが叩くと、口からポロリと心臓肉が落ちて地面で動いていた。


それを見た補佐達が我先にとやって来てルドバンを医療班の所に運ぼうとする。

争奪戦に収拾がつかないようなのでドミトルは止めろと手を振って補佐の一人に目をやった。


「アタランテ、医療班まで運んでやれ」

「はーい、私が行ってきます」


アタランテは倒れたルドバンを掴んで持ち上げると、地面を引きずりながらも連れて行く。

遠くにいる医療班は、ドミトル達から脱落者が出てくるのが分かっていたように手を振っていた。

笑顔で待っている医療班の様子に補佐達は背筋が凍える。次は自分の番かもしれない、と怖くなった。


「しかし何故、総隊長自ら調理してるんですか?調理担当者に任せればいいでしょ。俺達の為に来たなら全部任せて下さいよ」


アタランテの弟のゲルモンテが不満そうに言う。


ドミトルは分かりやすく説明した。


「こうも大きな獲物になると稀に、体内に巣くった寄生虫が襲って来る事がある。本体よりも強い場合があるから俺が解体する方が危険もないし、どういうものがあるのか最初に目で見ておけばお前達も次から自分で対処できるし、寄生虫にやられる事もないだろ」


「へ、へー確かにそうですねぇー。寄生虫ねぇ」


見た事なかったがゲルモンテは頷く。ドミトルが言う寄生虫の姿とはどんなものだろうか、とその場にいる者達は思う。


食事当番の者なら見たのかと考えていると、突然、ズイッと何か長いものを真正面に出された。

それはブラーンブラーンと空中で揺れている。皆の目はそれを追って動いていた。


「それで、美味かったか?」


ドミトルの手には何かが握られている。それは30センチ程の分厚さをした薄桃色のぶつ切りされたモノで、先頭の中心部分に丸い空洞と、空洞を囲うような牙が無数についていた。

シャーと威嚇する様相でゲルモンテを見ている。ドミトルは顎に手をやり、好みの味を考えた。


「俺はこいつの方が味が濃くて好きなんだがゲルモンテはどうだ?」

「ぽえぇぇぇぇぇぇぇ」


奇妙な声を発しながらゲルモンテの口から、食べたモノが全て噴出される。

ゲルモンテの頭の中には、蛇の肉の隣に浮かんだ薄いピンク色の肉が、思い浮かんでいた。


「こら、汚いだろ。早く拭きなさい」


ドミトルが自分のポケットからハンカチを取り出して、ゲルモンテの口を拭こうとする。


その手にはまだ寄生虫が握られていたので、ゲルモンテは背を反らして逃げようとした。


「ハンカチはいいですから、その寄生虫の顔をこっちに近づけないで下さい!!ああああ、顔につけないで!」

「動いていたら顔が拭けないだろ。大人しくしなさい」

ヒイィ、と言いながらゲルモンテは拭かれている。綺麗になるまで解放されなかった。


それを見てモイスは意地の悪い笑い方をする。自分ではなかったので面白がっていた。


「ゲロモンテ、お前の事は忘れない」

「俺はゲルモンテだ!!!モイス野郎」


ゲルモンテがモイスの茶髪を掴もうとする。澄ました顔をして寄生虫から目線を逸らしていたモイスは、回避しようと体を反らした。

そんな事をしているとドミトルも混ざる。

寄生虫を持って二人の間に入った。


「喧嘩するな。モイスにもやるから」

「おおお俺はいいです。総隊長!やるならゲロモンテに」

「だから俺の名前を変更するな!って思ってましたがゲロモンテでもゲリモンテでもいいんで寄生虫だけはぁぁぁぁ!!」


喋っていたゲルモンテにドミトルが近づくとまた叫ぶ。

元気があって良い事だ、とドミトルは思っていた。

二人は逃げ続け、それを軽く追いかける。そうしていると補佐の一人に止められた。


その者は、岩に座って落ち着いた表情でこちらを見ている。この騒動に加わるつもりはないようだ。


「総大将。それは止めましょうや。腹ぁ壊しやすぜ」

そう言ったのは第六補佐のカイザード。


黒い髪を無造作に結び、粗暴な感じがするが、常に周りを見て動いている気遣いの出来る男で、水色の瞳には知性を感じる。


蛇の汁物を平気な顔をして食べていたカイザードだったが、寄生虫は受け付けないようで手が止まっていた。


「俺は何でも食べる様にはしてやすが、そいつぁ体には良いようには見えませんや」

「ミミズ型の獸でも食べるお前が忌避するなんて珍しいな」

「馬鹿言っちゃいけやせんぜ。一人行動をしてるヤツにとっちゃあ自分の体が何より大事なんでさぁ。慎重に食えるものだけ食ってるだけで、見境なく食べてる訳じゃあないんですぜ。何せ助けてくれるヤツは周りにはいやせんからね。動けなくなったらお終いだ」

「確かにそうだ。危ない事はするものではないな」

「でしょう?さっき一人が脱落して、続いて二人も行ったら向こうも迷惑でしょ。こっちも人数減ったら困るしこの辺ですませて下せぇ」

「そうだなぁ」


ドミトルはそれを見ながら思案し、そして良い事を思い付く。それはカイザードにとっても安全な事だった。


「なら、休みに入る度に山で一人キャンプするのを止めよう。なんなら俺が一緒に行ってやるから危なくないぞ」


良い事思いついたとばかりに言ってくるドミトルに、カイザードはフッと笑みを浮かべる。

その笑みには影があった。


「俺は一人キャンプが好きなだけなんでさぁ。一人で自由に行動する事に意味があってそうじゃないならキャンプなんて行きやせんぜ」

「俺と行くのが嫌ならそう言え。全身が震えてるぞ」


これ見よがしに全身をガタガタと震わせるカイザードにドミトルが呆れる。

降参したとばかりにカイザードは両手を上げ話しは終わった。


その時、一人の女性がやって来る。

緊張感もなく食事を持ってくるのは補佐のファイディだった。


「ドミトル総隊長。ゼリーが出来ました」


毒物を運んでいるかのように体から離しながらデザートを運んでくる。

灰色と青色を混ぜた色をした濃いゼリーに固形物が張り付いていた。


真っ赤な髪は短く跳ね、髪の量も多いので遠くからでも目立っている。金色の瞳は猫型の獣に似ており、悪戯を楽しむような表情をしていた。


「本当に食べれるんですか?一応、調味料は食べれる物を使っていましたけど匂いに刺激臭があるんです。毒味にアルフォンドを使ったら彼が倒れてしまって・・」


ほらそこに。ファイディが指し示す方向には調理台の隅に転がった第四補佐アルフォンドの姿があった。後頭部の長い赤茶の髪しか見えない。


そしてそれを気にしないで料理を続けている金髪碧眼のリランヌの姿もある。肩までの金髪はふんわりとしており、瞳の色は緑で丸みのある顔は優しそうだ。


追加料理を作っているようでご機嫌なのか鼻歌まで聞こえてくる。

自分の料理を楽しんで作っていた。


「よこしてみろ」


ドミトルがファイディから受けとると目玉のゼリーを食べてみる。もちろん普通に食べれた。


「もう少し甘味が強い方が好みだな」

「じゃあシロップ足してきますね」


驚きもなく受け入れる。倒れているアルフォンドは無視だ。


「モイスにゲルにカイザー、ちゃんと食べてよね」

ファイディが睨み付けながら言ってくる。獲物は逃がさないといった表情で、逃走するの言葉で阻止していた。


「アルフォンドとルドバンの犠牲の意味は!?」


ゲルモンテが叫んでいる。モイスはアルフォンドを助けに向かい、カイザードは解毒用の薬を飲んでいた。


食べ物だと思えないものがゲルモンテの前に出される。

俺!?とファイディの目を見るが、笑っていなかった。


「ゲルー。一口食べて」


もはや命令に聞こえるそれに逆らえない。ゲルモンテはガックリと首を垂れた。



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