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宿舎8



「アタランテ、アルフォンド。オスマンドも加わる事になったから仲良くやってくれ。俺の補佐官になるかもしれないから丁寧にな」


ドミトルが二人の方を見ると、アルフォンドもアタランテも拒否なく受け入れる。オスマンドのような優秀な隊長についてきてもらえるなら安心だった。


「よろしくお願いします。オスマンド隊長」

「よろしくお願いしますね」


アルフォンドとアタランテが挨拶をする。その表情にはオスマンドに対する信頼も見てとれた。

二人から挨拶されたオスマンドはしばらく固まっていたが、それから何度も喉の調子を確かめた後、姿勢を正す。

それに触発されて二人も姿勢を正したが、アタランテとアルフォンドは首を傾げていた。


オスマンドは表情を貴族らしくすると、伯爵家の子息らしく優雅にお辞儀をする。


「アタランテさんとアルフォンド様。少しの間、よろしくお願いします」


自分に対しての丁寧な姿に、アルフォンドは頭に一撃を加えられたぐらい精神ダメージを負う。

今はオスマンドよりも、アルフォンドの方が血の気のない顔色をしていた。


「ちょっと待って下さい、オスマンド隊長。アルフォンド様って何ですか?それと何で敬語なんですか!?」


純粋に不気味で、オスマンドを指差すアルフォンドの腕は上下に揺れている。するとオスマンドは優雅に微笑んだ。


「これは私が尊敬している、エリオスト遊撃部隊隊長に教えていただいた接し方なんです。アルフォンド様は将来皇族の一員になるやもしれないので、実践訓練は欠かさず行いたいと思います」

「こわいっ。その皇族の一員って何ですか!?俺は隊長格の人達に何て噂されているのか聞くのが怖すぎるっ。総隊長、俺は一体どうすればいいんでしょうかっ助けて下さいっ」

「だから俺に張り付くんじゃないっ」


アルフォンドの服を掴んで外そうと引っ張る。二度目なので服が完全に伸びていた。


「オスマンド、アルフォンドを無闇に脅すな。女性問題を抱えて心が弱っているんだ。冗談も大概にしなさい」

「え?隊長格同士では普通にアルフォンドの話をしてますけど。だからモイスも俺もアルフォンドには心の底からの感謝を・・」

「総隊長っ!!」


ビービー泣きながらアルフォンドがさらに強くすがり付く。大木に飛んでくる足長蝉のようで離れる様子がなかった。それに気づいたモイスがドミトル達の方を向いてオスマンドに気づくとやって来る。

心配そうな顔をしていた。


「いつからいたんだ?こんな所にいたら捕まるぞ」


自分を思って言っている事が分かり、オスマンドはそれを嬉しく思う。友人を逃がそうとするその性格は好ましく思えた。


「俺もモイスと一緒に行くから心配いらないぞ」

「そうなのか!でも本当にいいのか?大変そうだぞ」


ちらちらとドミトルの方を見る。

今までの嫌がりようは何だったんだ、という勢いでモイスは大人しくなっていた。


いい弟だなぁ、とオスマンドは思う。

オスマンドが行くなら自分も行かないといけない、と思っているのが丸分かりな表情だった。


「さっきからアルフォンドが泣いてるけど、どうしたんだ?」

「自分が総隊長の婚約者候補上位だと知って泣いてるんだ」


正直にオスマンドが答えると、合点がいったとばかりにモイスは大きく頷く。姿勢を正すとアルフォンドに向かって貴族らしく頭を下げた。

幼い頃から教育を受けている完璧な礼で、表情も口元を微かに微笑ませている。

日頃の平凡なモイスとは別人に見えるほど洗練されていた。

モイスの周りにキラキラとした空気が飛んでいるように見える。

アルフォンドの泣き声が大きくなり、こちらも日頃と同じ人物には見えなくなっていた。


「やばいな、アルフォンドってこんなに面白いヤツだったのか」


感心したようにモイスはアルフォンドを観察している。オスマンドが注意しようとしたがドミトルの方が早かった。


「こらっ、モイス。アルフォンドに謝りなさい。皆で寄って集って可哀想だろうが」

「アルフォンド・・ありがとう」


モイスはドミトルの言う事は聞かずに礼を言う。

ドミトルはモイスの側まで歩いて来ると、頭を掴み持ち上げて自分の悪鬼の表情と対面させる。するとモイスは震えながら言葉を変えた。


「ダイジョウブだぞ。アルフォンド。総隊長が味方だから心配いらないサ」

「そう・・だな、心配いらないよな、モイス」

「ソウソウ、ダイジョブ。俺、嘘つかないよ」


機械のようにモイスはアルフォンドに言い続け、基本的に優しいオスマンドはそれを苦笑いをしながら見ていた。








そんな茶番をやっているとリングレアがやってくる。

緊急な件が発生したのかもしれないと思ったが、雰囲気がそうでもなかったので緊張を解いた。


「総隊長」


ドミトルを見つけたリングレアが心なしか嬉しそうに近づく。

掴み上げていたモイスの頭から手を離してドミトルはリングレアの方を向いた。

今日の仕事は終わったので解散したはずだが何故こんな所にいるのか分からなかった。


「どうした?まだ帰っていなかったのか」

「総隊長のお見送りをしてから帰ろうと思い来ました」

「・・大丈夫だと言ったはずだが?」


ドミトルの感知能力は高いので、例え味方からの警護でも見張られていると気が散る。

そもそも警護を外されるのが許されているのは、ドミトルが警護をしている者を助けてしまう事が原因だった。

しかも先に敵を見つけ制圧するので、ただの同居人状態になってしまう。そうしている内にドミトルからは、これが家族か、とまで言われるようになり、警護という役目は事実上崩壊した。


そんな事を考えながらドミトルはリングレアを見る。どうせ同じ事になりそうだと思っていた。

勝手に家族(皇族)の一員にされそうになった、暗部部隊の隊員と隊長がルナミリスに泣きを入れて、完全解散となった経緯がある。


ドミトルは体内の魔力操作も得意なので、排泄物も消す事ができ、体についた汚れもとる事が出来るので、隙をつくらない状態にする事は容易だった。


トイレにも行かなくていい。風呂にも入らなくてもいい。眠らなくてもいい。

これだけそろえば護衛の意味がなくなるのは当然の事で、だからドミトルは一人行動を許されている。


リングレアの事は一時的には護衛を受け入れたが、夜間の警護などは完全拒否をしていた。


そもそも眠らないので、温泉宿にいてもドミトルは持ってきた仕事をしてる。それにも関わらず、リングレアは帰ってからもドミトルの護衛を強硬しており、強い意思を持っているので何度説得しても聞かず、自分の時間が空くと側に来ていた。



ドミトルとリングレアのやりとりを、全員大人しく聞いている。ドミトルは基本誰もつけないので珍しかった。

食い下がるようにリングレアは、ドミトルの側に来ると見上げる。補佐官の邪魔になりそうな者は場所を空けた。


これはまずい事になりそうだ、とドミトルは見下ろしながら思う。この状況は自分に対して不利になっている事に気づいた。


腕を斬られてしまった話に加え、リングレアの口から他の者に知られたくない情報もある。

それを知られてしまうと、自分に味方する者がモイスぐらいになってしまいそうだ。


これはすぐさま撤退すべきだ、と判断する。


リングレアを押さえる為に眼力を上げると、その圧力で相手の言葉が鈍った。


「それでも・・っ」

「黙れ、リングレア。この場で議論すべき問題じゃない」

「申し訳ありません、総隊長」


リングレアは殊勝な顔をして目線を外す。

口を封じる事に成功したドミトルは、次の行動に移り、リングレアを宿舎の外に連れ出す事にした。


「ついて・・・」

「しかしながら、アラデルギル区域でもあったように第一神子が降臨するような事態が突然起こる事もあります。身辺警護をしたいのでさせて下さい」


ついて来い、と言う前にリングレアが被せてくる。

どれだけ自己主張が強いんだ。普通は総隊長の言葉を黙って聞くはずだろ、とドミトルは思った、が、もう遅い。

隠しておきたかった第一神子の降臨が知られてしまった。


「「はぁぁ!?」」


補佐達が叫ぶ。


さすがにこの展開が続くと、次どういう事になるのかドミトルでも予想がついた。


直ぐにこの場を離れようとするが目の前にリングレアがいたので、右に行こうとするがアルフォンドがいて、左に行こうとすれば設置用のモイスがいる。これは後ろに下がるしかないと思うが、その前に実力のあるオスマンドから掴まれた。


「どういう事か聞いても?」


いや誰だよお前は、とドミトルはオスマンドを見て思う。

困った顔は捨ててきたのか、下から睨み上げるような表情をした男がいた。



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