宿舎3
「どうしてそんな事になるんですか?」
恐る恐る聞くとドミトルが答えてくれた。
「冗談でも言って良い事と悪い事がある。冗談を言うなら自分がどういう人間に見られているか考えて、これからは慎重に発言するんだな」
「俺と二人はそんなに違いませんよ。身分も強さも・・」
「いや、全く違う」
眉間に皺を寄せてドミトルが怖い事を言う。
「モイスは特徴のない見た目と違って、自分の考えを曲げない強さを持った猪突猛進の怖いもの知らずな性格だ。
オスマンドの方も気弱な見た目をしていて優しく見えるが、青ざめた顔色になるだけで、しばらくするとまた通常状態の気弱そうな男に戻る。実は雑草のように強い精神の男だ。そうでなければ隊長にしない」
そしてドミトルはアルフォンドを見る。
「残念ながらお前はな、アルフォンド。モイスのような見た目でもなく、オスマンドのように気の弱い男に見せる事も出来ていない。自分が絶対に助かるように行動する事もしていない。危機感のない男なんだよ」
心に激しいショックを受けるアルフォンド。
「まさか・・そんな・・」
アルフォンドは扉の所で立ち止まっているゲルモンテを見た。ゲルモンテは何も言わずに腕を組んで扉にもたれかかっており、意味深な視線を向けて笑みを浮かべている。
アルフォンドはゲルモンテの態度で、二・三歩よろめいて後ろに下がった。
「皆、大なり小なり自分の持ちうる性格を前面に出している。それが周りに対してどう思われようとも止めはしない。アルフォンド、お前は自分が周りからどう思われていると思う?」
「俺は・・」
「あの真面目なルドバンでさえも虹猫が好きだと誰彼かまわず主張している。虹猫の姿を宿舎の自分の部屋の扉にも貼っている徹底ぶりだ」
「確かに」
「で、お前は?」
「俺は・・普通に訓練をして、普通に仲間と楽しくやっています・・」
「そうだな。他の部隊の隊長から褒められたりする事が多くなかったか?」
「それは他の者達と変わらないと思っていましたが・・え?違うんですか」
「ゲルモンテ、どうだ?」
「俺はそんな褒められませんよ」
「アタランテは?」
「ないです。他の部隊の隊長ってカッコイイから一緒に食事に行く機会を狙ってるんですけどね。なかなか誘ってもらえないんですよ」
「ほら、こう言っているぞ、アルフォンド。お前は本当に自分が他の部隊の隊長にどう思われているのか分かるか?」
油の切れた玩具のような動きでアルフォンドは頷く。
それを見てからドミトルは首に回していた腕を外した。
「だからお前は嫌なら冗談でも口に出すんじゃないぞ。もし言いたいなら冗談を言ってもいい環境を作りだしてから言うんだ。そうすれば問題ない。お前は女性関係でも仕事関係でも危機感がなさすぎた」
ゴクリ、と唾を飲み込んで緊張しているアルフォンドは聞く。
「冗談を言ってもいい環境というのは、どういう状況なんですか」
「例えば、皆に分かるように日頃から冗談を言うようにする。俺に相応しくない男になる。もう一つは恋人をつくるだ。これが出来たならもしかすると全てが解決するかもな」
「総隊長・・」
アルフォンドがドミトルにすがり付いてくる。
捕まれたドミトルの服に皺が寄った。
「俺に誰か紹介して下さいっ、お願いしますっ」
「言った先から俺にすがりつくんじゃない。見られたらどうするんだ」
「俺っ、本当に困ってるんです・・っ、恋人作りたいんです。お願いしますっ。紹介して下さい」
「だから放せと言っているだろ。こんな姿を隠し持ってるなら最初から前面に出してれば良かっただろうに」
体格が大きく力が強いので引き剥がせない。強引に剥がせば自分の服が破れそうだった。
ドミトルに泣きつくアルフォンドの姿を見て、アタランテとゲルモンテは頷いている。鼻が真っ赤になっているので、日頃の格好の良さはなくなっていた。
「百点満点ね」
「俺もここまで無様に総隊長にすがり付く事は無理だなぁ。他のヤツにも教えてやろう」
藁にもすがるようにアルフォンドはドミトルの服を掴んで離さなかった。




