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宿舎


ドミトルは第一突撃部隊の宿舎に来ていた。

両手には土産を沢山入れた大きな手提げ袋を持っている。


食堂の机の上に置いておけば全員で平等にわけるので、土産を買った者達は同じように置いていた。


「あ、総隊長だ。帰ってきたのかよ」


ゲルモンテがドミトルを見つけ駆け寄ってくる。軍から支給されている黒のパンツをはいて白いシャツを着崩しており、黒に近い赤色の短髪は上に立たせている。

赤い瞳がドミトルの方を興味深そうに見ていた。


「温泉どうでした?」

「良かったぞ。お前達も来れたら良かったのにな」

「げっ、俺は遠慮します。食堂まで持ちますよ」


そう言われたのでドミトルは片方の手に持っていた土産だけを渡した。


「土産の中身なんっすか?」

「別に特別なものじゃないぞ。期待させてすまなかったな」

「特別なものじゃなくていいんですっ。普通がいいんです」

「そうなのか?聞いた話しと違うな」

「誰から聞いたんですか?」

「リランヌだ」

「ああ・・」


ゲルモンテは第七補佐のリランヌの姿を思い浮かべる。肩までの金髪はふんわりして、丸みのある顔は優しそうな愛嬌のある顔をしているが、その中身は天然で勘違いの塊だった。


「ゲルモンテはリランヌの作った菓子を美味しいと言ったらしいじゃないか」

「そりゃ可愛い女の子に貰えたら美味しいぐらい言いますよ。俺も恋人欲しいですからね」


背の低い女性から上目使いで見られる中で、貰った菓子を食べたら不味いなんて言うはずがない。


「中身にアゾマンゾルドで捕れた食材を使ったらしい」

「おおぇぇぇ」


今さら吐き出しても遅いが、ゲルモンテは壁に手をついて吐くマネをする。

本当に面白いヤツだとドミトルは思った。


「俺の土産は店で買ったものだから大丈夫だ」

「内容物をぉ・・見せて下さいぃ。俺はもう信用しない」

「ゲルモンテが疑い深くなって俺は嬉しいぞ」


ドミトルは一番上の箱を渡すとゲルモンテは顔を歪めた。


「温泉虫って書いてるじゃねぇですかっ!!温泉虫!!虫っすよ!」

「安心しろ、その下の土産も調べてみろ」

「これは・・・普通ですね」


ゲルモンテが手提げ袋の中を探ると、上にあった土産以外普通だった。


「ああ、最初に来た者に見せようと思って特別に一つだけ買った温泉虫団子だ。お前にやろう」

「いらねぇーーー!!」


叫ぶゲルモンテを置き去りにしながらドミトルは食堂に歩いていった。






ーーーー


「総隊長、お帰りなさい。私の弟がすみませんね」


姉のアタランテが立って出迎えてくれた。弟と同じ色の波うつ髪は肩まで伸ばしており、まつ毛が長く唇が厚い、魅力的な顔をしている。

服装はゲルモンテが着ていたものとあまり変わらず、違うのは女性用というだけで色などの変更もなかった。


小さな首飾りをつけて、耳には赤いピアスをつけている。爪にも光沢のある透明色が塗られているのでお洒落している事が分かった。


ドミトルから土産の沢山入った手提げ袋を受け取るが、全く重くなさそうに片手で受け取る。女性でもこれぐらいは普通だった。


「元気なのは良い事だ。温泉虫の土産を喜んでいたぞ」

「ああ、それで。これは違いますね」

「それはごく普通の温泉キイロ饅頭だ。旨いぞ」

「ありがとうございます」

本気で嬉しそうにアタランテは言った。


「カイザードは山にキャンプだろうが、他の補佐はどうしてる?」

「ファイディとリランヌは他の友達と一緒に街に服を買いに出掛けましたよ。モイスも友達と出掛けて、ルドバンは家にいる虹猫に会いに帰ったようです」

「ルドバンの家の虹猫も百歳を越えたんじゃないか?」

「今日、百歳の誕生日会をするらしいですよ」

「それは目出度いな。後で声をかけるか。アタランテはどこにも行かないのか?」

「私は街に出掛けて帰ってきたんですよ。食べ物巡り、楽しかったです。途中、カイザードにも出会いましたが直ぐに行ってしまいました」

「本当に山が好きだな」

「山の本まで片手に持ってましたよ。その時、私は串肉を片手に持ってましたけどね」

「どこの串肉だ?」


興味があったので聞く。


「もちろん有名な極旨もくもく串焼き店です。タレが絶品ですし、店の雰囲気も最高ですね」

「それは良かったな。俺も友人と行った事があるが確かにお前の言う通り味は良かった。掃除も行き届いた綺麗な店だったな」

「そうなんです。普通の串焼き店は少し廃れたイメージがあるんですけど、あそこの串焼き店は女性も好むような綺麗な店内なんです。どこの席に座っても鉢に植えられた珍しい植物が見えて良い感じなんです。

相席で良い男にも出会えて一緒に食べれたし満足です。ウフフ、これだから一人で食べ歩きが止められないんですよ」

「食べ歩きというより相席巡りしてないか?」

「だって、良い男と食べたいじゃないですか。相席最高ですよ」

「美人なアタランテと食べたいヤツはその辺に沢山いるから誘われるだろ」

「会った事もない人と偶然相席するのがいいんです。運命の出会いって感じしますよね」


頬を染めて嬉しそうにしている。

そういうものか、とドミトルは思っていた。


そうしていると食堂の閉まっていた方の扉が開く。入ってきたのは第四補佐のアルフォンドだった。

背が高く、鍛えた体をしており背中までの赤茶の髪を後ろに流している。切れ長の青い瞳の端正な顔立ちをしていた。


軍から支給された服を着て、自分に似合うように上のボタンは外されている。指には魔力を制御する黒い指輪がつけられ、首にも銀色のチェーンをつけていた。


表情は暗く、精彩を欠いている。

いつものような清々しさはなかった。


「アルフォンドは元気がないみたいですね。どうしたんだろ?」


アタランテも理由を知らないようで心配している。

ドミトルとアタランテがいる場所にまで歩いてくる足取りは酷く重かった。


「これは聞いてみた方がいいかもな・・」


心を病んで辞める者もいる。だからそうならないように新人の内は特に注意して見守る必要があった。


「総隊長が悩みを聞くんですか?」

「不思議そうな顔をするな。これでも相談された事は何度もあるんだぞ」

「そうなんですか。実力行使って感じだったから、てっきり力で解決するんだと思ってました」

「ほとんどの場合、強さと筋肉で解決する事が出来るが、そうじゃない時もある。そういう時は話し合いだな」

「やっぱり筋肉で解決してたんだ」

「獣相手なら大概そうだろ?それ以外なら、そもそも顔面を破壊されれば誰だって黙るだろうし話し合いたいなら防御するしかない」

「ちょっと総隊長!どういう人と会ってきたんですかっ」

「凶悪犯罪者なら普通だろ。綺麗事など通用しないぞ。誰が顔を破壊されて話し合いができる?攻撃してこない相手としか話しはできないぞ。

アルフォンドやお前達ならゆっくりと話を聞いてもやれるし、相談を聞く事もできる。困った事があったら言ってくるといい」


「わかりました。仲間って大切なんですねぇ」

「その通りだ。だから相談ぐらい聞いてやらないとな。それで元気になってくれたら嬉しいじゃないか」


ドミトルの様子にアタランテも頷く。

そしてのそのそとやって来るアルフォンドに目を向けた。


かなり落ち込んでいるのか目線が下を向いている。


ドミトルは腕を組んで待っていた。




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