アラデルギル区域
干渉地帯・アラデルギル区域内。
今、アラデルギル区域にはドミトルしかいなかった。
本来ならば、アラビスレイド光王国とデルモスラウナ神王国の戦士達もここにいるはずだが、今は門を閉ざし、沈黙を守っている。
その光景はまるで嵐が通り過ぎるのを待っているかのようだった。
「誰が嵐だ・・・失礼なヤツらだ」
人がいないのでドミトルは独り言を言う。何故なら文句をつける者達が引きこもって出てこないからだ。
何度、他国に要求しても、国の都合としか返ってこない。
本当の理由を知っているドミトルには、国の都合=ドミトルのお見合い、としか聞こえないので怒りしか湧かなかった。
他国に難癖をつけられたドミトルは一人荒野に立っている。その背中には普段は持たない剣があった。
特別なものではなく訓練用に使っている刃の潰れた剣で、違うとしたらドミトルの背丈に合うように作られた長い剣だと言う事。
ドミトルはリングレアと共に部屋で作ったのぼり旗を袋から出すと、地面に突き刺していった。
そこには、お見合い会場へようこそ、と書かれている。
その文字はドミトルが書いたようで怨念を感じる文字だった。
それを何個も地面に突き刺す。
傍から見ると謎の儀式をしている巨体の男に見えるので酷く不気味だった。
ほぅら望みは叶ったか、とドミトルは思う。これこそが、今の状況になった元凶だからだ。
起こってもいない事でギルデイザイス帝国の皇女が動く事はできない。では、どうするか?
それなら本当にしてしまえばいい、とドミトルは考えた。
やってもいない事で文句を言われるぐらいなら、やってしまえば問題ない。それで何と言われようと、どんな被害を相手が負おうとも知った事ではなかった。
こちらは仕事の時間を潰されているのだ。
今後、こういうふざけた時間が出る事がないよう、ドミトル自身が徹底的に分からせる必要がある。
最後の一つを突き刺してからドミトルは定位置に歩いて行くと、立ち止まり前を向いた。
ドミトルの横から後ろにかけて扇形のように旗が立っている。
完璧な布陣だな、と自分の滑稽さを嘲笑いながら見えない他国を見据えた。
ドミトルは大きく息を吸い込むと一旦止まる。
それから一気に全体に向け自分の魔力とともに声を叩きつけた。
「聞け!!他国の軟弱戦士ども!!!」
声とは思えない轟音が響く。
不思議な事にドミトルの声はアビデスの街には聞こえていなかった。
声を届かせたい相手はアラビスレイド光王国とデルモスラウナ神王国。そしてさらに厳密に言えば、その国にいる逃げ帰っている戦士達だったので、ドミトルは自身の魔力を操作して声を響き渡らせていた。
「どうせ聞いているだろ!!そんなに怖いか!?出てきて力を見せてみろ!!」
ドミトルは背中の剣を取り出すと遠くを見据える。
そして容赦のない一撃を放った。
地面の表面を削り取りながら剣撃の衝撃波が一直線に通りすぎる。
その衝撃波は大地の表面を吹き飛ばし、周囲に土煙を上げた。
それでも止まらずに直進した衝撃波はさらに進む。
ドミトルは地震が起こらないよう、衝撃波が拡散しないよう魔力操作しながら、大地の表面だけ削るように直進させる。
そしてアラデルギル区域の限界位置まで到達すると、他国に入る前に衝撃波と衝撃波によって引き起こされたあらゆる現象を消した。
土ぼこりや削れた地面も雑だが元に戻っている。
そんな中、ドミトルは地面に剣を突き刺した。
「もう一度言う!!軟弱戦士ども!!今から名前を読み上げてやる。否定したいなら出てきてみろ!!勇気ある者、レウィング」
名前を言いながらドミトルは先程と同じように剣での一撃を放つ。
衝撃波も同じように一直線に進んでいった。
そして続けてドミトルは名前を言う。
「猛り狂う者、ランカン!!射抜く者、エリシス!!砕き去る者、サイデイン!!」
名前を言いながら剣を振るとその度に衝撃波が発生し、轟音と共に突き進んでいった。
剣を振るうドミトルの姿は悪鬼のようだ。
「出てこないなら改名しろ!!勇気なき者、レウィング!猛らず逃げる者、ランカン!射抜かない者、エリシス!砕けず去る者、ランカン!良い二つ名だろうが!感謝しろ!」
最後の一撃を放つ。
ドミトルの黒い髪がバチバチと銀色の魔力の光を激しく放つ。
周囲が明るい中でも分かるほど、ドミトルの周りには魔力が漂っていた。
周囲も土ぼこりがたっていたが直ぐに消し、静かな中で剣を鞘に戻すと、その場で真っ直ぐに立つ。
輝いていた銀の魔力が落ち着くと、通常状態の黒髪に銀の魔力が散る程度に収まった。
削られていた大地も元の状態に戻る。
先程まであった強大な存在感が消えると、広い大地に小さな者が佇んでいるように見えるほど、ドミトルは感覚を研ぎ澄ませた。
自国の戦士が侮辱されているのだ。黙ったままいられる訳がないと思う。もしもこんな事を自国がやられたら、抗議するか自国の強者を送り込むか、自らが出て相手を黙らせるかする。
それならば実際にやられた二国はどう動くか、そう考えながらドミトルは静観するように待っていた。