アビデスの街3
「意外とうまくやれているんですね。驚きました」
「激流で腕を広げて待っていたら一人も流れてこなかったがな」
「それはそうでしょうね」
カミラダにはその光景が目に浮かんだ。
「そう言えば・・」
ふと、ドミトルは考える。
「カミラダを見て思い出した。もうそろそろ温泉に行く時期じゃないか?」
「思い出すきっかけになって嬉しいです。皆、楽しみにしていますよ」
話が温泉になったので皆の目が輝いていた。
「この件が片がついたら話を進めるか。皆で行ったのは一年ぐらい前でギルデイザイスでも有名な広い温泉だったな」
ドミトルは温泉を思い浮かべる。
ランドロスロウ温泉と言う二キロメートルぐらいの広さがある温泉で、膨大な量の水水晶の原石と火炎水晶の原石が地下に存在しているので、水水晶から出た水が火炎水晶に温められ地上に涌き出ているという普通の温泉だが、地下に埋まる原石が多いせいで他の場所の温泉よりも規模が大きかった。
「あれは気持ちが良かった」
夜に入って空を見上げるのもいい、とドミトルは考える。カミラダもにこやかな様子だ。
「男性達は好きに行動したいと言っていましたから女性限定で行きましたけど、子供も連れて行けたので本当に喜んでいました。またいいですか?」
「もちろんだ、何人でも連れてこい」
ドミトルは軽くそう言った。
子供は魔力の力が強く、感情の制御が上手くできない事があるので、大人数を集めるのは許可を取るか、幼児学園に入る年齢まで待つ必要があった。
一年かけて男は卵からでた魔力を浴びながら生活して弱体化した体を回復させ、子供が卵から出てくると、男と女が交互に卵から出た子供の世話をする。
しかし目を離した隙に子供が間違って外へ行ったりすると、魔力暴走のせいで爆発が起こる事があった。
ドミトルがリングレアに注意したのはこの事だ。
爆発程度で人が死ぬ事はないが、怪我をしたり建物が壊れるので注意する必要がある。
察知能力の高い者は家を自分の魔力で守る事が出来るが、出来ない者は家を壊され喧嘩になる事もあった。
その喧嘩のせいで、さらに壊れる事もあるので速やかに子供を守り、鎮圧する能力がいるので、民家の見回りをする警備隊には繊細な気遣いのできる者が就く。
ドミトルは魔力操作が得意なので子供が千人いようが二千人いようが怪我をさせずに守る事ができる。なので、子供をもつ隊員から頼りにされる事があった。
「総隊長がいると子供をもった親は心の底から安心できます」
「温泉に行った時ぐらい夫婦共に家でも温泉でもゆっくりするといい。子供は見ていて面白いからな」
「そう言ってもらえると温泉に行くのがとっても楽しみになりました」
カミラダは後ろにいた女性隊員の方を見る。子供のいる者達は喜んでいた。
「子供のいない者には俺から花束を贈ろう。もちろん既婚者は金一封をやるからお互い買ってもらえ。温泉に参加できない者達には金一封と休みをやる。干渉地帯の問題が終わったら軍の調整をやるから全てはそれからだな」
「では私達はそういう事を総隊長が言っていたと噂を広めておきますね」
「ああ、頼んだぞ」
ドミトルは続ける。
「殲滅部隊の方には全員の休みが終わってから俺が仕事を代わると言っておいてくれ。休みの期間は一週間。俺も伝えるが連絡が遅くなるかもしれない」
「わかりました。友達がいるので気軽に伝えておきますよ。でも総隊長の方が殲滅部隊にはご友人が多くないですか?」
「ああ、大体が前線にいる連中だから邪魔をしたくないのと、仕事では総隊長として対応しなければならないからな。休みも合わないし、直接会った時だけ話すようにしている」
「友達と敬語で話すのもちょっと考えますよね」
「いや、あいつらにそんな繊細な心は存在しないからいいんだが、他の者の目もあるから俺なりのけじめだ。馴れ合いが過ぎると軍の統制が危うくなる。あいつらに俺がぴっぱられたらどうなるか予想がつくだろ?」
「滅茶苦茶になりそうですね。総隊長はそのままでいてください。私が連絡しておきますね」
「頼んだぞ。俺も少しは訓練をしないと体が鈍るからな。あいつらと交換して戦闘に加わるのも悪くはない。今回のが少しは足しになるといいけどな・・・」
首を左右に傾けながらドミトルは言う。夜にも訓練しているらしいが全然足りないようで、ドミトルはブツブツと文句を言っていた。
「アラデルギル区域の中で大規模攻撃は禁止ですけど、あれは人に対してですからね。今は一人もいませんから、やりたい放題できますよ。もしかしたら相手国の人物が出てくるかもしれませんし、訓練になるかもしれません」
カミラダは言うがドミトルの表情は明るくなかった。
「ならないだろ。どうせ他国も秘匿しておきたい戦力は表に出さないだろうから俺の目的は干渉地帯の正常化。あとは・・」
ドミトルは眉間に皺を寄せた。
「参加した事もない俺を、他国が、直接、喧嘩を売ってきた事が許せないだけだ。これで黙ればギルデイザイス帝国自体が甘く見られる事にもなりかねん。
自国は守るべき国民だからいいが、他国は許さん。俺を馬鹿にした事を後悔させてやる」
アラビスレイド光王国とデルモスラウナ神王国を見据えてドミトルは言うが、相手としている規模の大きさにカミラダは苦笑した。