アビデスの街2
「部屋に戻ってもいいが・・干渉地帯を見てから行くか」
収監所から出たドミトルは近道をする為に狭い路地を歩いて行く。薄暗くほこり臭いがゴミなどは落ちていなかった。
壁に寄りかかっていた女や男がドミトルを見るなり頭を下げて脇による。
街に長く住んでいる者達なので顔を見れば名前も分かるが、そのままドミトルは通りすぎた。
路地を何度か曲がりながら抜けると大通りに出る。
そのまま街の者達と同じように歩き始めた。
干渉地帯が閉鎖になっている事で街の者達がどういう話をしているのか知りたいと思っていたので、ドミトルは人通りの多いこの通りを選んだ。
だが街の者達はドミトルの巨体を発見した瞬間、早歩きになって離れて行く。
「俺にとっては犯罪者も優しいのかもな」
自分に向かってやってきてくれるのだ。今度は感謝の抱擁をしてから檻に送ってやろうとドミトルは考えた。
王獣討伐に来る犯罪者達も、出来るだけ長く戦えるようにサポートをするのもいいのかもしれない。怖がらない者達もドミトルにとっては貴重な人材だ。
そんな事を考えながら足を進めていると、そこまで離れた場所ではなかったので問題なく到着する。
結界の効果のある網が街を守るようにして長距離設置されているので、万が一攻撃を受けても街には被害がでないようにされていた。
「干渉地帯に入る境界門はきちんと閉じられているようだな」
ドミトルの視線の先には警備隊とは違う色の制服を着た、ギルデイザイス帝国の派遣部隊所属の八人の隊員が境界門を管理している姿があった。
全て女性で構成された部隊だ。
仰々しい出迎えを受ける前にドミトルは手を振って普段通りの指示を出す。
隊員達はそれを見て楽な姿勢で出迎えた。
「総隊長、早かったですね。もう少し時間がかかると思っていました」
黒紫の髪を後頭部の半分まで刈り込んだ一人の隊員がドミトルに話しかける。
アラデルギル境界門管理第四派遣部隊所属・隊長カミラダだった。
「今日は少し確認をしに来ただけだ。本番は明日だな」
「それじゃあ明日は派手な攻撃が見られそうですね。特等席で見物させてもらいますよ」
「任せろ。こうもはっきりと分かるぐらい俺に喧嘩を売ってきたんだ。期待はずれで終わらせるつもりはないから安心しろ。他国の状況はどうなっている?」
カミラダは一息吐いてからもう一度口を開いた。
「よほど自国の強者を持っていかれるのを嫌がったのでしょうね。このアラデルギル区域で出会った他国の人間との結婚も普通にありましたから、この場所に総隊長が来たらどうなるのか、と考えてしまったのも無理はありません。
総隊長は今まで参加した事はありませんが他国の有名人は結構参加してますよ」
「それは気にしていなかったが確かにそうだった」
ドミトルは調べた情報を思い出していた。
カミラダは続ける
「アラビスレイド光王国では良かったシーンなんかは国民に放送される場合もあるので、人気が欲しい人達からは喜ばれているようです。対人戦を学ぶにも、この場所以上に適した場所はないのでしょうし、医療関係も充実しているので、犯罪グループを取り締まるより安全だそうですよ」
「この場所は武器の持ち込みにも制限があるからな。それに加え禁止事項も山のようにある。大規模攻撃禁止、倒れた相手に攻撃禁止、救助中の攻撃禁止、食事中の攻撃禁止。まだまだ禁止事項はあるが、それに抵触しているか判断するのは監視者だ。
まともな戦場とは口が裂けても言えんだろうがこの区域は必要だ。獣相手ばかりして対人戦を忘れれば、万が一、知能を持った相手との大戦争が起こった場合、対処のしようもなくなってしまうからな。
さすがに他国相手に本気の戦争を吹っ掛けて練習とはいかないだろ」
「それは止めてくださいね総隊長」
「やる事は一生ないから安心しろ」
カミラダ達は目線で意思疎通をするかのように互いに見合わせている。ドミトルが本気かどうか判断がつかないようだ。
「総隊長の任された部隊・・第一突撃部隊は大変そうですね」
「可愛いぞ、ひよ子どもの世話は。少しつついてやると反応が面白いぐらい返ってくるぞ」
「はぁ、第一皇女殿下がドミトル総隊長の将来の為に揃えた恐怖の部隊と呼ばれていますからね。第一突撃部隊は軍の中でも断トツ有名で、何なら一番過酷だと言われている殲滅部隊隊員でさえも近寄りたくないそうですよ」
「今度、殲滅部隊の半数を第一突撃部隊に所属変更しておくか。まだまだ余裕がありそうだ」
「冗談が過ぎますよ、総隊長」
「本気にするな」
半眼で見てくるカミラダにドミトルは軽く言う。
「あいつらならもっと激しく反応してくるのにな」
やれやれ、と首をすくめた。