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カメとなみだ



帝都から五万キロほど離れた場所にアロマの村がある。


農業を主体としているが、宿経営と食堂経営もしている活気のある村で、他の村との交流もさかんに行われており、色々な村から来た者達が露店を出して、その村の特産品が並び、それを求めてやってくる旅人などもいた。

畑から離れた場所には、巨大な白い木が生えて枝を伸ばし、緑の葉と桃色の実をつけている。その下には同じ木が数多く生えており収穫している者達もいた。


転移陣は村の門の近くの建物の中にあって派遣部隊の隊員に管理されている。


派遣部隊の制服の色は灰色ではなく、主な色は翡翠色で帽子もかぶっていた。


頑丈で伸縮性もある翡翠色の皮で作られた膝の辺りまである長い服を来ており、裏地の部分は灰色だが、前は閉じられているので見えず、ボタンの部分は表から見えないように作られている。

その上から灰色のベルトを腰につけ、剣を装備している。灰色の皮の靴は他の隊と同じだった。


白い円柱の形をした頑丈な建物は、生半可な攻撃ではびくともしない造りになっていた。


転移塔と呼ばれる建物には隊員六人が常駐し、一日三交代勤務で管理され一日中使用できる状態になっているが、夕方以降使用できるのは軍に所属する者と、許可の手続きを行っている者だけで、使用時には転移許可証が必要だった。


発行の手続きを行う必要があるが、登録されているギルデイザイスの国民は、一定の年齢に達すると一般転移許可証を転移塔の中に併設された管理施設で受けとる事ができるようになっている。

その管理施設は国から派遣された国務員が働いていた。

許可証にも多くの種類があるが、大体の国民は一般転移許可証を使用している。一般転移許可証は国民が行ってもよい村や街などで使用できるようになっているので、苦情がくる事はほとんどなかった。


転移塔の中は天井自体が光っているので明るくなっている。

転移陣は床から少し浮いた状態でうっすらと光っていた。複数ある転移陣は全て違う色の光を出して、静止している。

白い光の転移陣が天井に向かって光を放つと、誰かが転移してきた。

それはドミトルで転移陣から出てくる。

ドミトルは簡単に隊員と挨拶を交わすと、今度は鉱石発掘場所の転移陣を一度見たが、行かずに別の方向を見る。

建物内には扉があるが、その一つを見ていた。


「確かこの転移塔にもあったはずだ」


そう言ってドミトルは倉庫に向かい歩いて行く。

倉庫に着くと扉に手を付けて魔力を送ると、簡単に扉が開いた。

扉が開くと、光を放つ水晶が置かれているので常時明るく中が確認できる。螺旋状の棚に色々な物が規則正しく置かれており、埃のたまった場所もあるが、比較的綺麗に掃除されていたので目的のものも直ぐに見つかった。


それは紐の付いた茶色の大きな袋で、中に何も入っていないかのように厚みがなく軽そうだが、ドミトルは迷いなく手に取ると肩に担ぎ、倉庫から出て行く。


転移塔からも出て、村の外の鉄鉱石がある岩場まで歩いて行った。










ーーーー


アロマの村から五十キロほど離れた平地の場所に、鉱石を発掘する為の大穴がある。

直径二キロ、深さは二十キロほどあるが底は明るく茶色の岩のようなものがあった。

遠くの方には建物があり大穴で働いている者達が休んでいる。

建物の側には、それより高い草が生えているが誰も刈り取る事をしていないので鬱蒼としていた。

泊まる場所はアロマの村の宿屋なので、建物も綺麗にはされておらず土などで汚れている。

乾燥しているが苔も生えているので見た目は廃墟に近かった。


建物から少し離れた広場に、掘っ立て小屋あある。

その掘っ立て小屋に転移陣があるが、今は誰もいなかった。

転移陣が光るとドミトルが出てくる。

肩には大きな袋があるが他の物は持っていなかった。

掘っ立て小屋から出ると建物の方には行かず、大穴がある方向を向く。

ドミトルは地を蹴り空中を移動しながら大穴がある場所まで短時間で行った。


辿り着くと地面に着地する。


大穴を覗き込むと下から風が吹き、ドミトルの黒い髪を揺らした。

「行くか」


ドミトルはそのまま穴の中へ飛び込むと、体は風に煽られる事なく垂直に降りて行く。

どんどんと地面が近づき、魔力をまとった体は衝撃もなく底に着地した。


そこはタラントの甲羅の上で奥を見てみると頭が見える。

タラントの頭が持ち上がりドミトルの方を向くと、その目は赤く染まっていた。










ーーーー



「おお亀神よ!天は我を見放す事なく慈悲を与えたもうた事を最大限感謝し、地べたに這いつくばって靴でも何でも舐めますので助けてください。あの男が来るんです。掘らせろぉ、掘らせろぉ、掘らせろぉって。もう怖くって怖くって毎日恐ろしくて目も開けられないんですよぉ」


亀型の獣、タラントが泣きながらドミトルに訴えている。ノイローゼ気味になっているようだ。

タラントが泣き言を吐き散らして二十分ほど経つが、まだ止める様子はない。


ドミトルはタラントからかなり離れた場所で腕を組んで見上げながら大人しく聞いている。

巨大な空洞はパルテン達が掘って作ったようだった。

タラントの背中の中心部分から頭の部分までの周りが、全て空洞化されている。

下も掘ろうとしたのか、タラントから少し離れた地面に穴が空いていていたのでパルテン達の狂気を感じた。

ドミトルはそれを見て、タラントが自分の下を掘られまいとして魔力壁を広げ守ったのだと、状況を見てもいないのにその時何が起こったのか手に取るように分かる。

つぶらな瞳から黄土色の涙が地面に落ちており、それを見たドミトルは、哀れだ、と思う。それは無機物のスコップにも感じたものだった。


タラントは切々と続ける。


「一年に三十センチしか動かないって言った時の掘らせろ男のあの表情の消えた顔が忘れられません。あれは私ごと穴開けてやるって顔をしてました。いや、実際開けようとしたんですけど、私の魔力壁を突き破る事が出来なかったんです。

もう恐ろしくて恐ろしくてブルブルブル。だって岩を食べて生活してるから動かなくても生きていけますもん。何なら岩も自分で作れますし動く事が退化しても仕方ないと思いませんか?」


「その割には口は達者だな」


「子供の時からのお友達でピキーっていう土妖精がいるんです。その子が地上であった話や、他の妖精から聞いた話も教えてくれるんですよ」


「それでか。良い友達だな」


「そうなんですよ。えへへへ。そういえば自己紹介はまだでしたね。私の名前はタル。よろしくお願いします」

「俺はドミトルだ。で、話を続けるが、動けないんだな?」

「小さい頃はもっと自由に動けたんですけど今は無理です」

「じゃあ移動させるぞ」

「え?どうやって?」


ドミトルは自分の頭にある核から魔力を引き出して地面に伝わせる。

そして行き渡らせるとタルの前方の岩と土を殴りつけた。

すると前方にだけ衝撃が行き、岩と土が一気に破壊される。

その破壊されたものは、ドミトルが背負っていた大きな袋の中に恐ろしい勢いで吸引されていった。それを繰り返す。

通常は地響きがするものだが土に染み込ませた魔力が制御しているので、大きな振動すらも起きなかった。

その攻撃力にタルは唖然とする。

タラントは防御に特化し、攻撃は自分の重さを使ったものしか出来ないので、ドミトルの攻撃に使える魔力の量と威力、そして制御に驚いて口が開いていた。


ドミトルは自分の持っている袋を掲げてタルに見せる。

「これは主に穴掘り用の空間袋だ。パルテンもよく使っていただろ?」

「いやぁ、使っていたのは私の甲羅の上なんで、初めて見ましたよ。その袋、凄いんですね。ドミトルさん、貴方も」

感動したようにタルは空間袋とドミトルを見ていた。


「少し待っていろ。前方の土をのけたら、今度は甲羅の半分部分から下の部分の土もとる。それから移動しよう」

そう言ってドミトルは作業を続けた。


そんなに時間もかからずにその作業は終わり、次の作業に移る。

ドミトルはタルの甲羅の下の部分まで歩いて行くと、上に手をかざし声を掛けた。


「次にタル。お前の下に長くて丸い棒を置くぞ」

この棒というのはアロマの村でドミトルが作った鉄の棒で、壊れないように強化されている。

慎重にタルの体を魔力を使って持ち上げると、ドミトルは空間袋から巨大な太くて長い棒を出していった。

タラントの下に何本もの長い棒が差し込まれタルは初めて地面から浮く。


「おお!」

初めての経験に興奮するようにタルから声があがった。


「次に軽く後ろから押す。注意しろ」

「分かりました。やって下さい」

ドミトルが尻尾に手を掛けて魔力を込めて少しずつ前に押し出す。

するとタルは前に進みだした。


「これで私は助かるんですね」

「そうだな」


四十分経った後には、タルの体は完全に大穴の部分から外れる事に成功した。


「体に問題はないか?」

ドミトルがタルに聞く。


タラントはほどんど移動しない生物なので、移動させる事によって体にどんな影響が起こるかドミトルにも分かっていないので慎重に事を運んだが、それでも完全に上手くやれたかは自信がなかった。

生体調査した資料を一応読んではきたが、タラントの生態はほとんど分かっておらず、そもそも長期間、外の空気にさらされた事すらなかった。

確実に分かっている事は、タラントは防御に特化している事。

その一点だけは分かっていたので、ドミトルは移動させた。


「問題ないです。ありがとうございました。これで自分の体を掘られなくてすみます」

嬉しそうに目を細めるタルにドミトルは安心した。

「帝国もパルテンのヤツに出資している事だから気にするな」

「ドミトルさんに感謝したいんですが、私の持っているものと言ったら食べてる岩しかないんです。どうしたらいいでしょう」


困った様子のタルを見ていたドミトルは一つ思いついた。


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