カレンダーの隣の花が可憐だ
居間に置かれた安物の洋服箪笥。
その上に置かれた写真と、卓上カレンダー。
そしてその隣に、今月も飾られた小さな花。
そのカレンダーは毎月同じ日に、赤い丸で印がつけられている。その日になると彼女は決まって、ベランダガーデニングの中で一番可憐な花を摘み、カレンダーの隣に置かれた小さなコップに飾る。
そんな男の事など、早く忘れればいいのに――
その花を眺めながら、俺はいつも思う。
その男は、最低な男だった。
馬鹿みたいな夢を語り、命をかけた挑戦に明け暮れ、いつもその身を危険に晒していた。ただ前ばかり見ていたから、背後から向けられる不安な視線には、生涯気付くことができなかった。
浅はかな男だと、俺は思う。
その結果、男は若くして死んだ。
彼女を一人置いて、その心に一生消えない傷を残したまま、呆気なく死んでしまった。
くそったれ。
俺はカレンダーの隣に飾られた花を睨みつける。
こんなもの、握りつぶして、ゴミ箱に捨ててしまいたい。カレンダーを破り捨て、写真を丸めて、窓の外に投げ捨ててやりたい。
彼女はまだ若い。
これからいくらでも素敵な出会いがある。
愛や恋に溺れ、誰かのぬくもりを知り、満たされた日々を送る権利が、彼女にはある。
それが――この自分勝手な男の存在によって奪われてしまうなんて、歯痒い。
でも俺には、この花を、写真を、カレンダーを、彼女の前から消し去ってしまう事なんて出来ない。
出来ないのだ。
背後でドアが開く。
振り向くと、彼女が立っていた。
カーテンを開けた窓から日の光が差し込み、細い彼女の髪を金色に染める。
安い洋服箪笥の前に立った彼女は、男の写真に笑いかけ、しばらくの間それを見つめる。そして、花びらに指先で触れ、力無く微笑んだ。
「なんで、死んじゃったの……」
俺はその隣りに立ち、どうしようもない気持ちで、彼女の所作を眺めている。
彼女は、この男の事など忘れるべきなんだ。
でも、馬鹿で自分勝手で浅はかな俺は、今でもまだ思ってしまう。
俺の命日に印をつけた、カレンダー。
その隣に飾られた小さく可憐な花。
そして、それを見つめる彼女の横顔もまた、抱きしめたくなるほどに、可憐だと。
彼女の肩を抱こうと伸ばした手は、何にも触れる事なく宙を切る。
小さな花がゆれた。
何かに気付いたように彼女は振り向く。
その視線は、俺の瞳を抜けて、窓から見える遠くの空へと向いていた。
カレンダーの隣の花が可憐だー、ってダジャレ、あったよね(*´Д`*)