5 マリエールと王子
学院入学だ。王子と一緒だ。王子と一緒にいると楽しい。
5 マリエールと王子
マリエールは以前ほどコミュニケーションに熱心でない。王子の隣がいいんだ。何時も王子と勉強している。目立つ2人の周りには人が居るが相手にしない。マリエールの友人はマリエールに文句をいう。
「マリエール、学院に入ったら一緒に遊ぼうと言ってたのにそのざまは何。」
マリエールはへへんと笑う。
「私は私の一番居心地のいい場所を見つけたの。ごめんなさい。」
マリエールの友人達は呆れて去っていく。とはいえ一日中一緒にいるわけにもいかない。王子と離れたら何時ものマリエールだ。快活で優しく粗忽なマリエールだ。体育などで顕著に現れる。身体能力自体は高いが、例えばボールが掴めない。跳び箱が飛べない。物が上手く操れない。一種の発達障害なのだろうが、何が出来て何が出来ないのか今一つはっきりしない。どれも真剣にやっているので出来る事は飛び抜けて出来るが出来ないことはまるで出来ない。周りから見ると巫山戯ている様に見える。でも決して巫山戯ているわけではない。必死に努力しても出来ないのだ。
身体感覚の一部が麻痺しているかも知れないと医者は言う。確かに思う様に手が動かない、足が動かないことで粗忽が起きる。魔法で補うことは出来ないだろうか。でもそこまでの魔法をマリエールはまだ使えない。今のところ王子の前で粗忽なところは見せてない。主に出るのは女子だけの科目体育と家庭科だ。同じ実技でも芸術や音楽は得意だ。
今のところ王子の前ではぼろをだしていない。しかし、永く付き合えば必ずぼろが出る。今までぼろが出ることに恐怖はなかった。しかし、王子の前でぼろが出て嫌われたら私はどうなるのだろう。王子無しの生活など考えられない。王子がいなければ死ぬしかない。その時何かが決まった様な気がした。
王子との時間が穏やかに過ぎていく。王子との会話でこんな話題があった。
「また、きみとの婚約を破棄しろと言って来た貴族がいたよ。もちろん破棄する気はないと言ったけどね。きみは私の見てないところで粗忽をやっているそうだ。別にきみが粗忽だって嫌いにはならないけどね。きみが粗忽だと言う話は昔から良く聞いているよ。実は一見完璧そうなきみの粗忽なところ見てみたいと思っていたところさ。はっきり言うよ。きみがどんなに粗忽でも、私はきみを愛する。婚約破棄なんかするものか。」
それがどれほど私の胸に響いたか。表現が難しいほど心に染み渡った。暖かい言葉だ。でもだからこそ粗忽を治したいと思った。この人のためならどんなに困難でも治せると信じたい。
王子と別れ帰宅して自室に戻ると、奴隷だった女性が掃除をしている。
「ありがとう。ここの仕事大変でしょう。」
彼女はあの生きる気力を失った様な顔から真剣に生きていく顔に成っている。
「そんな事ありませんよ。天国の様な生活とまではいいませんが前の暮らしと違って希望が持てます。檻がありません。お嬢様のお陰です。」
私は大した事はしていない。ただお願いしただけだ。
「私はただお願いしただけ。本当に感謝すべきは公爵と王子様よ。」
彼女はやや不満そうだが頷いた。
屋敷に帰ると、奴隷だった女性が私の部屋の掃除をしている。マリエールを見ると感謝の言葉を述べたが、感謝すべきは公爵と王子だと話た。