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        1 粗忽令嬢

 粗忽なマリエール、今日も茶碗を割る。失敗談は限り無く多い。でも巫山戯ているわけではない。

          1  粗忽令嬢



 今日も今日とてマリエールやらかす。朝から茶碗を片付けようとして落とし割る。片付けようとして手に怪我をする。殆ど毎食同じ事をする。公爵令嬢、しかも他の追随許さぬほどの経済力、政治力、軍事力を持つ公爵家の第1夫人には2人しか子どもがいない。天才と呼ばれる長子エドモントと天災と呼ばれるマリエールの2人だ。マリエールが小さい頃に第1王子と婚約するのは当然の流れだ。エドモントは順調に才能を伸ばし、方やマリエールは順調に仕出かす。マリエールの粗忽な事件を数えれば切りがない。家畜の囲いの扉を解放して家畜を逃がす。公爵家秘伝の壺を落として割る。平民に嫌がらせする貴族を切りつける。毎食皿を割る。片付けようとして怪我をする。マリエールもう10歳だ。粗忽が収まってもいい頃だと思うが返ってエスカレートする。何処で聞いたか貧民街にクッキーを配りに行くと言って聞かないしかも自分で焼くと言う。ここまでの話しからマリエールはとんでもない愚か者のようだが、考えは理知的だし学科、芸術、体育の素養はあり、人間的にも優しく明るい誰でも好かれるタイプだが、粗忽で決めたことはてこでも動かない頑固さが周りを困らせる。

 クッキーは垂らすだけマリエールがやる事で妥協した。マリエールは常時メイドが10人護衛が10人それに回復魔法師までついている。マリエールは美少女だ。何もしなければ憧れる少年もいるかも知れない。クッキーは4ヶ所で合計100枚焼く。高貴な貴族令嬢の戯れと思うかも知れないがマリエール何時も真剣だ。

「じゃあいい垂らすわよ。」

メイドからOKが出た。マリエールは垂らし始める。何とか無事終わりそうだと思ったら台から降りようとして転けた。予想されていたので護衛が受け止めた。クッキーは無事焼けた。

 クッキーを持って貧民街へ行く。22人の大所帯だ。馬車が5台、貧民街は河原にある。マリエールは先頭を走る。途中で見つけた子どもにクッキー上げるからみんな呼んでおいでと声を掛ける。わさわさと20人あまりの子ども達が集まる。クッキーを1枚づつ配る。

「今から幻影を見て貰うね。最後まで見た子にはクッキーをまた上げるよ。では始まり始まり。」

子ども達の目には氷の張った湖が見える。空から白鳥達が舞い降りる。白鳥達は舞い踊る。やがて白鳥達は少女に姿を変える。少女達が舞い踊る。東の空が白む頃少女達は消える。

 子ども達が歓声を上げる。マリエールにとって至福の時間だ。この姿を見、声を聞くために頑張った。

「みんな良く見てくれたね。クッキー上げるよ。家族のみんなの分もあるからね。」

マリエールは子ども達にクッキーを配る。子ども達もマリエールもみんな笑顔だ。マリエールは真剣に演技して心から笑う。貴族令嬢の戯れではない。貧しい子ども達に出来る事は何でもしたい。真剣に考え、真剣に練習した。子ども達が喜ぶ笑顔を見て喜ぶ声を聞くために。マリエールは何時も真剣だ。

 貧民街の子ども達に幻影を見せ、クッキーを配った。マリエールの至福の時間だ。

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