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外伝連載再開記念番外編 : 淑女たち、オーブリー家にて

だいぶ間が空いてしまいました。

外伝のほう、ようやく再開しました。

『ッセイ!』


『ッセイ!』


『っソイ!』


『っソイ!』




「………?」



部屋の中から漏れ聞こえる珍妙な声に、

レイフォードは戸惑いを隠しきれず扉の前で立ち尽くした。



「あら、ようこそお越しくださいました、

 レイフォード様」



通りかかったのはティアンナの侍女、通称婚活調査員である。


大きなトレイに冷たいレモン水をたくさん乗せている。



「申し訳ございませんが、

 お嬢様方は現在お取り込み中でございます。


 日を改めて頂くか、

 少々お待ち頂けますでしょうか」



「はあ…はい……」




『まだまだですわよー!

 この程度でヘバッてどうします?!』



扉の向こうからゲキが飛んでいる。


「なんですか…?

 ていうか、今の声…」


「お気になさらず」



そう言って侍女はうっすらと扉を開け、

その身体を滑り込ませるように入っていった。


パタン。



立ち尽くすレイフォードの前にはいくつかの選択肢があった。


①待つ

②帰る

③覗く


彼の気持ちは一瞬で固まった。


そっと扉に近付き、音を立てぬようわずかの隙間を開け、恥も外聞もなくへばりついて覗き込んだ。



「あーもームリー!」


「諦めてはなりませぬ!

 美しいカーテシーは足腰が命!」



中には動きやすいラフな乗馬服を身に着けた恋人ケイナが、なんだアレ…スクワット?


腰を落として両手を前に突き出しプルプルしている。


教官は…あれ、キーラ・ゴーシュ伯爵令嬢(脳筋一族)?



つい、と視線を動かすと、



「古くて重ぉいドレスを着てる割には、

 体幹がなってないと思っておりましたのよねぇ…」


「ヒィ…!…ヒィ…!」



床に這いつくばって爪先と肘だけで体重を支える形になっているのは…あれはウィンダム家のレティシャ嬢?


その前に仁王立ちしているのはティアンナだ。




さらに視線をずらすと、


「リズムがなっておりませんわ!

 ほらまた本が落ちた!

 背が丸い証拠ですわ!下を!見ない!」



ア…アミー・マクライネン公爵令嬢…?!



その傍らで頭に分厚い書物を数冊乗せ、ハイヒールでウォーキングしているのはあれは確かヒルトン家のミンディ嬢…。



口を開くと本が落ちるらしく、口を引き結んで涙目で歩いている。



い…いったいこの部屋で、何が…?!



「淑女トレーニングでございます」


「!!!」



レイフォードが覗き見ているすぐ側で、姿は見えぬが調査員(侍女)の声がする。



バ…バレている…



「ケイナお嬢様ご希望の淑女作法授業です。

 

 最初はティアンナ様が教鞭を取っておられましたが、

 ケイナ様には筋力が足りぬとのことで、

 あのように武家のゴーシュ伯爵令嬢がコーチとして招かれました。

 その後何故かわらわらと令嬢たちが集い、

 このような合同トレーニングへと」



はあ。仲良くて何より……。 



「美しい所作の礎は筋力にあり、ですわ!」



レイフォードはそっと扉を閉め、

その日は自宅へ戻ったのであった。



ーーーーーー




ーーーーーー



「ちょっと無理が出てきたんです」


ケイナは夕食の際、家族に申し出た。


「ありがたくも貴族の娘として茶会などに呼んでいただくようになったんですが、王城での祐筆職との調整が上手く回らなくなってきまして」


「ああ、なるほど」


オーブリーの義父は合点する。


「できれば両立したいのですけれど」


「まずはできることがありましてよ?」


ティアンナが口を出す。


「ケイナお義姉様の侍女を選ぶのですわ」



あれよあれよと言う間に選考会がセッティングされ、幾人かの候補者が集った。



重視するのは予定調整能力。

求む、秘書。


とは言ったものの、

集ったのは軒並み美容自慢の候補者ばかり。


自己アピールには化粧の腕や給仕の上手さを推しだす者が大半であった。



いいんだよ、凄いんだけど…!

今欲しいのはそれじゃないのよ…!



そして最後の候補者となった。


「よろしければ、仮想のもので結構ですので、

 1週間分の予定をスケジューリングさせてください」


最後の候補者は見事に、貴族令嬢としての茶会の選抜、祐筆としての出勤可能時間とテレワークの交渉案、ケイナの休息や自由時間も含めた時間調整をやってのけた。



「では、この日とこの日、私が急に熱を出したらどうしますか」


「その場合こうします」


プランBも迅速かつ適切に立案。


文句なしであった。



「私は彼女にしたいわ」


ケイナが言うと、


「お待ち下さい!

 彼女はどうかおやめください!」


調査員(侍女)が珍しく声を荒げた。


「ええ?

 でも、私の調整役としてはもってこいよ?」


「それはそうですが!

 障りがありまして!」


「え、どんな?」


「……もうとです」


「え?」


「お恥ずかしながら、

 アレは私の妹でございます」



チョウさん一族キターーーー!!


「恐らく父の指令です。

 ケイナ様にお仕えしながら、

 ティアンナ様の様子を父に、ひいてはウィリアム様(良ければ外伝読んでね)に流すつもりなのです!」


「ああ、なるほど」



ん?もしや?


「もしかしてあなたも、最初はお父さんの命で来たの?」


「その通りです。

 ティアンナ様のご様子を父に逐一報告しておりました。

 ちなみに今はそのような真似はしません」


「そうであってほしいねぇ…」


「ですので御考え直しを!」


「でもわたし、チョウさん一族なら安心だなぁ」



別に私に影響ないしなぁ…


ウィリアム様のことは割と応援してるしなぁ…



「やっぱり、彼女がいいなぁ…」


「わたくしも賛成ですわよ」



ティアンナもアッサリ賛成する。


「しかしティアンナ様!

 あの男に情報が!」


「別に嫌じゃなくってよ?」


「な…!な…!」


「じゃあいいじゃない」



きーまり!



「それではよろしくお願いいたします、

 ケイナ様、ティアンナ様、

 そして姉上」


「ぐぬぬ…!」


「誠心誠意お仕えいたします」


「うん、よろしくね」


「わたくしのことは調整役とでもお呼びください」



そうして新たなチョウさんが、仲間になったのであった。







チョウさん一族は子爵家。

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[気になる点] 食べ物を顔に貼るのは食物アレルギーの一因とも言われています。もちろんアレルギーになるかどうかはそれぞれの性質に左右されますが、推奨はされていません。 過去にはアレルギーが事件になったこ…
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