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ヤブラン

俺は元々平民出身だった

両親はもの心ついた時にはもういなかった

引き取られた男爵家の家では奴隷のように扱われていた

家事に畑、やれることは全部俺がやった

雪が降るような寒空の下、水を求めて裸足で外に出た

少しでも遅れたら奥様の持っているムチで全身を叩かれた

毎日毎日、身体がボロボロになるまで働いて

給料は1日硬いパン1個のみ

それでも食べさせてくれるだけありがたい

明日も生きていくため、しょうがないと俺は割り切っていた

愛なんてものは所詮、絵空事だと思っていた

…………姉上に出会うまでは








今日はこの国で1番偉い方々が来るらしい

ここの家の人達はその出迎えの準備で忙しく、俺に構っている暇はないようだ

……正直、少し助かった

お偉いさんがいる間、俺は地下から出ることを禁止された

理由は俺が汚いかららしい

……外から話し声が聞こえる、どうやらもうついたみたいだ

いつも俺に話してる声ではなく欲にまみれた醜い声

……ホント、生まれてきたとこで全部決まるなんて不公平だ

「まったく嫌になっちゃうわ!貴方もそう思わない?」

俺の声を代弁するかのように鈴の音のような声が聞こえた

俺は急いでその声の出処を探った

俺しかいないはずの地下牢に、綺麗な洋服をきた少女が隣に座り、俺の顔を覗き込んできた

なんで、ここに?という疑問よりも驚きの方が強かった

「あら、貴方怪我してるわ」

少女が俺に触れてこようとしたので、反射的に伸ばされた手を振り払ってしまった

(終わった……)

人生終了のゴングが鳴り響いた

(さらば、俺の人生……)

全てを諦めて少女に目を向けた

少女は何をされたかまだわかって居ないようで手を見つめながら固まっていた

「貴方……」

何を言われるのか身構えていると的外れな事を言われた

「ちゃんとご飯食べてるの!?」

呆然

「……えっと…?パンを毎日ひとつ……」

とりあえず目の前の少女の機嫌を損ねないように返答した

少女は顎に手を当てる素振りをして俺の腰周りに抱きついた

……抱きついた!?

俺が困惑してるのもお構い無しに、俺の背中を撫でた

(なんだろう……心が暖かい)

「やっぱり……」

少女が何やら呟いた

「貴方、ここ好き?」

……質問の意図が分からなかった

本来は好きと答えた方が良いのだと思うけど

この少女を前に、どうも嘘をつかない方が良いと俺の感が言っている

「……嫌い……です…」

俺がそう言うと少女は目を見開いた

「どうして?」

答えたくなかった……

でも答えなければこの少女の機嫌を損ねてしまう

「……」

俺が何も言えないでいると少女は無理に言う必要は無いと

笑ってくれた

「じゃあ、私の質問にはいかいいえで答えられる?」

それくらいならと、俺の意思を示すように頷いた

「じゃあ、貴方のご家族は?」

家族?そんなもの覚えてすらない

「いない……です」

この人はなんの為にこんな質問を……?

「ここの人達は貴方に嫌な事を言ったり、したりしている?」

……ッ

この少女は何処までここの事を知っているのだろう……

もしも彼奴らにこの事がバレたら生きていける保証は無い

「は、い……」

それなのに、なんで俺は……

「そう……、なら此処を出たいと思う?」

それはもちろん!でも、俺が外で生きられるわけがない

もの心ついた時から明日を生きる事で精一杯

能もないし才能もない

こんな俺を雇ってくれるとこもないだろう

「……」

「そんな顔しないで?ほら、笑顔笑顔!」

そんな顔ってどんな顔だよ

目の前の少女は眉を下げて不器用に笑って見せた

「ねぇ……、もし貴方が良かったら私の弟にならない?」

おとうと……?

なんでこの人は急にそんな事を……

だって、俺の容姿は普通じゃない

「気持ち悪く、ないんですか?」

数秒止まって

「なんで?」

と聞き返してきた

「目、色も違うし、髪の毛が所々赤いし……皆おかしいって」

「そうかな?私はそう思わないよ」

拍子抜け

おそらく俺は今、とても間抜けな顔をしているのだろう

「だって」

少女は続けた

「黒曜石のような長い黒髪も、宝石のように色ずく青と赤のオッドアイも、とっても綺麗よ!

それに、私を見て怖がらない人は始めてみたの」

怖がる?こんな綺麗な人を?

すると驚き照れたように

「ありがとう」

と言った

……

「声に出てましたか……?」

ニッコリ笑って

「えぇ」

みるみる自分の顔が赤くなっていくのを感じた

「で?どうするの?」

さっきの問いの答えを催促するように笑った

「いきたい、です」

生きていたい、貴方について行きたい

いきたい

そして何より、俺はこの酷く美しい人に俺の人生を捧げたいと思ってしまった

夜空に溶け込むような青く艶のいい長髪

月のように美しい金色の瞳

それらを際立たせる、きめ細やかな肌

俺は外の世界を知らない

だけど女神のような人とはこの人のことを言うのだと思った

見た目も中身も純粋で綺麗な人……

「そういえば貴方、名前は?」

………まだ、言ってなかったっけ?

「リアムです」

そう言うと固まってしまった

「?どうかしたんですか?」

「いや、なんでもないわ」

心做しか顔が少し青い……ような……

「これからよろしくね、我が弟リアム

私の名前はセレスティア・テラー・プレイスよ

好きに呼んでね」

これが俺……いや、僕と姉上との出会い

この決断は正しかったと思える日はきっと遠くない未来なのだろう

貴方は僕のヒーローです

貴方を穢す者がいようなら、その者を葬りましょう

そして僕は貴方を何者からも守ると誓います

たとえこの身が朽ちようとも

なので何も知らない貴方のままでいてください






















「(無知は罪なのよ、リアム)」

そんな事をセレスティアが思っていたとはリアムはこれから生涯知らないのだろう







ヤブラン...「隠された心」「謙虚」「忍耐」


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