ヤブデマリ
しばらく馬車に揺れて家に着いた
あぁ、今日は濃い一日だったな
まさか父上が頭を下げてまで迎えに来るとはね
とりあえず、母上と弟に挨拶しなきゃ!
約5年間家出してたんだから
あ~
二人とも怒ってるだろうな……
母上、普段凄く優しいのに怒ると超怖いんだよ
私はそんな事を呟きながら、廊下を歩いていた
父上はどっか行った
興味ないけど←まだ根に持ってる
「あ、ねぇロム、久しぶりね ちょっといいかしら?」
ちょうど近くに通りかかった顔馴染みの執事に話しかけた
彼はロム・ローリエ
この人はよく私に尽くしてくれたなぁ……
「セ、セレスッ……セレスティア第一王女殿下!?」
ロムの目が飛び出そうなほど開かれた
まぁ、5年もいなかったんだから当然よね
でも……
「よく私だって分かったわね」
面影はあるにしたってもう5年
当時私は11歳で今は16歳
成長期真っ最中だったのだけど……
「そりゃあ、貴方様ほど美しい人はそうそういませんから!!?」
くわっと詰め寄ってきた
「あら、ありがとう」
「どういたしまして!?ご無事で何よりです!」
と思ったら泣き出した
情緒不安定じゃないの
「ところでロム?私はリアムと母上の居場所が知りたいのだけれど……」
リアム・テラー・プレイス
我が愛しき可愛い弟の名前だ
と言っても義弟だけどね、その話はまた今度
ちなみに私の名前はセレスティア・テラー・プレイス
愛称はセティ
何故か私の名前だけ長いのよね……
「う……グズ……グズ……リアム第一王子殿下とレジーナ王妃は
おそらく談話室でティータイムかと」
「そう、私は二人に挨拶してくるわ
またね、ロム」
「!はい、お待ちしております!」
あら、笑顔になった←
談話室……確か二階の本棟の一番奥だったかな
今いるとこが二階の分棟だから……
意外と近いわね
不思議と談話室まで誰とも出会わなかった
談話室の扉に拳をあてコンコンと、叩いた
「失礼します、セレスティア・テラー・プレイス
ただいまご帰還いたしました」
一言かけて、扉を開けた
すると入った途端腹部にすごく圧がかかった
「グッ……」
下に目を向けると、私のお腹に顔を埋めている
一つ下の弟がいた
「姉上ぇ……」
腹部に冷たい感覚がしたから泣いているのだとすぐ分かった
そして目線を戻すと棒立ちになって涙腺を緩ます
我が母、レジーナ・テラー・プレイス王妃の姿が
私は母上に微笑み
「母上、ただいま戻りました」
とうとう母上は宝石のような瞳からポロポロと涙を零した
「……ッお帰りなさい、我が愛しきセレスティア
あなたが帰ってきてくれてホントに良かった……ッ」
「姉上ッ!もう、どこにも行かないでくださいね……」
二人からの懇願に胸が暖かくなった
「えぇ、これからはずっと一緒よ」
あぁ、私って最低ね
こんなにも愛されているのに
自分の欲を優先させてしまうなんて
でもね?私は決めているの
モブとして生き、モブとして死ぬと!
この志を掲げるのは理由があって
これはつい先日思い出したことなのだけど
この世界は私が生前やっていた乙女ゲーム
”愛と光で闇を打つ”の世界線で、
私は乙女ゲームの主人公…………
の、天敵
悪役令嬢セティだってこと
もう最悪!
だって”あの”セティだよ!?
良くて国外追放、悪くて死刑!
良いことなんかひとつもないわ!
まぁ、セティがやって来たことを考えたら妥当な判断なのだけど
ー悪役令嬢セティー
良いところと言えば、容姿とチート能力だけ!
性格はクズ
自己中女で、自分より下のはずの平民の主人公が愛されているのをみて数々の嫌がらせの範疇を越える嫌がらせを主人公に行う
王道の悪役令嬢
例えば、主人公の飲み物に麻痺毒を仕掛け、悶え苦しむのを笑って見ていたり
主人公の誕生日に匿名でプレゼントを渡したり
ここだけ見れば良い人なのだけど、問題は中身にあって
なんと主人公の両親を殺して、その首をプレゼントとして渡したのだ
とまぁ、ちょっと所じゃない事をやって最後は攻略対象者に
殺されるか、国外追放になるのだから
それに攻略対象キャラには、それはもう歪んだ愛を向けるのよ
……(‐д`‐ll)オェ
我が弟も攻略対象キャラなのだけど、今のとこは仲も良好だし大丈夫ね
でも、やっぱり目立っちゃダメなの
いつ殺されるかわかんないから
モブとして影で主人公の恋を応援する役に徹するわ!
ヤブデマリ...「年輪を美しく重ねる」「私を見捨てないで」「隠された美」「覚悟」