再びメジャーへ!
天才野球選手の飯田伸也は、頭にデットボールを食らい他界した。
それと同時刻、交通事故で跳ねられ息を引き取った中学3年生の男子生徒、田森拓人。
なんの因果か飯田伸也は数奇な運命をたどることになる。
ピッ、ピッ、ピー……。
病院内で両親が静かに見守る中、心電計は0になり医師が顔をうずくめる。
「残念ですが……。」
ピッ、ピッ、ピッ
しかし0になったと思われた心電計は24、35、48と動き始めるのだった。
「ば、ばかな。あり得ない……。」
田森拓人が目を覚ます。
「ここは?」
両親が一斉に拓人に声を掛けるも拓人の聴覚はそれを通さない。
飯田伸也の魂は完全に田森拓人に転移した。
その瞬間、田森拓人の記憶がブワァーっと脳裏を駆けめぐるのだった。
(おれは飯田伸也?いや田森拓人か?泣きながら手を握ってくれてる人達がおれの両親か)
他人の体なのにも関わらず既に一人称はおれになっていた。
全ての記憶が入り込み五感が解放された。
「お父さん、お母さん、心配掛けてごめん」
自分の意志とは関係なく勝手に言葉を発している事に拓人は恐怖を覚える。
(あれ?なんだこれ?思っても無い事を喋ってる?)
両親の安堵した声が脳に響いてくる。
病院、心電計、医師、両親、この状況を一つずつ整理し自分の置かれている立場を冷静に推理した。
(おれは事故にあったんだ。それで病院に運ばれて無事だった?)
頭で考えている間も意志に反して両親と会話をしている自分がいる。
(いや、違う?違くはないか。おれはヤンキースの選手でもあるぞ……。)
拓人は飯田伸也の時の記憶も取り戻した。
(確かデイビットのデットボールを浴びておれは……。)
飯田伸也と田森拓人の全ての記憶を取り戻した。
すると意志に反して言葉を発する現象がピタリと止まった。
「おれのスマホは?」
スマホは交通事故が原因で画面がバキバキに割れてしまった為使えないという。
(ヤンキースの飯田伸也が今どうなってるのか知りたい。それがわかれば全てがわかる)
父親にスマホを借りヤンキースで検索すると、飯田伸也がデットボールを受け死亡という記事が出ていた。
(そうか、もうおれは飯田伸也ではないのか。)
ようやく拓人はこの状況を理解した。
(今ここで本当の事を両親に言うべきか?いや?でもおれは飯田伸也であり田森拓人でもある。言った所で混乱を招くだけか)
拓人は余計な事は言わずにこの場をやり過ごす事にした。
(メジャーで新人賞受賞。果たせなかったか。無念……。ん?そういえばこの体、中学3年か!そうだ、だったら今からまたメジャーを目指せば良いんじゃん!拓人くん、もし良ければ君の体を借りてもいいかな?)
遠慮しながら自分の胸に問いかけると、優しい声で良いよ!と言ってくれたような気がした。
(拓人くんありがとう。きっと両親にも恩返しをしてみせるから!よし、絶対ヤンキースに帰ってやる!待ってろよメジャー!)
田森拓人として再びメジャーリーガーになると決意するのだった。