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シンデレラに転生してしまった

 ゴーン、ゴーンと鳴り響く鐘の音を聞いて、少女はパチリと目を覚ました。


 何とも言えない不安感を覚え、寝付けなくなった少女、グレイ・ガディネは月明かりに照らされた古い壁かけ時計に目をやった。


 もっとも、深夜だろうと関係なく音が鳴る壊れたその振り子時計は、うるさいからとグレイの居室となっている屋根裏部屋に押しやられたものなのだが。


 埃とカビの臭いのする古い木のベッドから起き上がり、長針と短針が重なった時計をぼんやりと眺めていると、突然視界がグラッとゆがみ思わず頭を抑える。


 その時突如頭に頭に浮かんだのは、元居た世界の絵本のタイトルと、現在の義母の怒鳴り声であった。


灰かぶり(シンデレラ)!』


 ちょうど今日の昼にその怒声を浴びせられながら、あかぎれだらけの手で冷たいバケツの水で雑巾を洗っていたのだが、その場面は映画で、絵本で、小説で、朗読で、教科書で。現代日本に暮らす日本人なら誰しもあらすじを知っているであろう物語のものと酷似していた。


「私、シンデレラに転生したの…?」


 刹那、驚くほど自然に、グレイの頭の中には前世、榎本果歩であった頃の記憶が流れ込んできた。平凡な家系に生まれ、何でもない日に突然交通事故に巻き込まれて死んだ女子大生の榎本果歩。それなりの学力、それなりの容姿、それなりの運動神経、それなりの学歴で、それなりにゲームや漫画をたしなんでいた果歩は、それなりの長寿を全うしてそれなりの死に方をするのだろうと自分自身の人生を俯瞰していた。


 それがどうだ、バイトに向かう途中、暴走した車がガードレールをぶち破ってまっすぐ果歩のもとへ突っ込んできたところで記憶が途切れている。


 あれは死んだのだろうか、それとも入院でもしていて長い夢でも見ているのだろうか。だが、ゼロ距離に迫った車の運転手が真っ青な顔で私の姿をとらえており、目が合った記憶まであるのだ。あのスピードで車がぶつかってきて無事でいられるほど超人離れした肉体も反射神経も持ち合わせていなかったことを果歩は自負している。

 それに、果歩にはグレイとして生きてきた10年分の記憶がばっちりとあるのだ。夢にしては現実味を帯びすぎていると夢説は却下する。つまり果歩は死んだのである。


 そして同時に、原作のシンデレラのように悲しいとは思えども、怒りの感情や継母や義姉に対する恨みの感情は一切湧いてこなかった先ほどまでの自身に対し穏やかな怒りが湧き上がってくる。


 実母の形見は全て取り上げられるか売られてしまい、手元に残っているものは何もない。お金なんてものは勿論持っておらず、食事は一日一回、使用人が食べているもの以下の硬くなったパンと冷めたスープ。

 朝から晩まで言われるがままこき使われ、使用人には見下され、外出も許されず屋敷に軟禁状態。もちろん、このままでは16歳を迎えても夜会への出席は許されないのだろう。


 この現状を甘んじて受け入れてよいのか。否、良いはずがない。


 果歩という人間は、それなりに普通の人生を歩んできたと自負しているが、ただ一点、性格だけはヒーロー気取りの熱血漢であった。自ら進んで面倒事に首を突っ込み、曲がったことは許せない。だが、感情に任せて場をかき回すタイプでもなく、綿密に計画を練って物事を解決していくという冷静さや慎重さも持ち合わせている。


 その為、果歩の頃の記憶が戻った今、彼女が自身の置かれた不遇な状況を許せるはずもなく、沸々と湧き上がる怒りを胸に決心する。


 王子に見初められてハッピーエンド?冗談ではない。この状況にあと何年耐えろというのだ。容姿に一目ぼれされ王子に求婚されるその前に、何としても自らの力で

 今の状況から脱してみせる、と。

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