クリスマスの朝
「サンタさん え」
サンタさん。
はやとはいちねΛかん、いい子にしてました。
ままのおてつだいも、ぱはのおてつだいもがんぼりました。
ぷれぜんとζださい。
はやとはボケモソのアルデηλか”ほしいです。
はやと
画用紙いっぱいにクレヨンで書かれた手紙を見て、サンタさんは楽しそうに笑った。
12月25日午前5時45分。
まだ薄暗い寝室で颯斗はパチリと目を覚ました。朝の寒さをものともせずに起き上がると、時計を確認して目を輝かせた。
クリスマスの朝だ。
ぐーぐーといびきをかいているパパの横を通り抜けてリビングに向かう。リビングでは、みんなで飾りつけをしたクリスマスツリーがキラキラと輝いている。
明かりをつけて急いでツリーへ近寄ると、そこにはサンタクロースの絵が描かれた袋が置いてあった。
「うわぁ!サンタ!サンタさん、きたぁああ!!」
颯斗は満面の笑みで、袋を持ってぴょんぴょんと跳ね回った。途中、袋が滑り落ちては慌てて拾ってまた跳ねる。
しばらくして落ち着いたのか、颯斗は床に座って緊張しながらも袋のリボンを解いた。
袋の中から出てきたのは、一抱えもあるぬいぐるみだった。
颯斗は目をまんまるにして見つめたあと、顔を歪ませた。目から大粒の涙が溢れる。強張った顔が赤くなり、颯斗は大声で泣いた。
「どうしたの、颯斗っ」
こっそり覗いていたママが大慌てで颯斗に駆け寄る。
颯斗は持っていたぬいぐるみを力任せに投げつけて泣き喚く。抱っこしようとするママの手を振り払い、床に転がってわあわあと泣いた。
「ちがうもんっ!サンタさんのばかあ!これじゃないぃぃ!!」
泣き喚く我が子をどうにか抱っこしたママは、落ち着かせる為に背中や頭を撫でて優しい声であやした。
すがりついて泣く颯斗を、窓際まで放り投げられたぬいぐるみが申し訳なさそうに見ていた。
すっかりむくれた颯斗が一人で遊んでいる横で、パパはママに怒られていた。
「だから、アルデウスって言ったじゃない」
「似たようなもんだろ」
「違うわよ、あれは進化前のアルデミア。颯斗と映画観たじゃない」
「あの手紙じゃサンタだって読み間違えるって」
「あら、私は読めるわよ?愛が足りないのよ」
しょげるパパを見てママは思い出した。一緒に映画を観たのは途中までで、後半パパが寝ていたことに。
だから、もう少し颯斗のボケモン好きに付き合えと何度も言っていたのに。憤慨しても今更だ。
「でも、どうすんだよ」
「どうしようもないわよ。サンタさんからのプレゼントなんだもの」
「交換、してくれるかな?」
「店に問い合わせしてみてよ」
「まぁ、それしか無いよな」
困り顔のパパはふぅとため息を吐き、ママは発破をかけようとその背を軽く叩いた。
颯斗はブロックを嵌めながら飛行機を作っていた。作った飛行機の上にボケモンの指人形を乗せていく。
手に取ったお気に入りのアルデウスを先頭に乗せ、次々に乗せていく。
次に箱から取り出した指人形はアルデミアだった事に気がついて、知らず口が尖がる。
反射的に投げた指人形はコロコロと転がっていった。
次の指人形を取り出そうとして、部屋の隅に置かれたぬいぐるみが目に入った。
丸いフォルムの可愛いそれはサンタクロースからのプレゼントだ。
進化したアルデウスは強そうでかっこいいけれど、進化前のアルデミアは丸くて柔らかくて可愛い。
本当はアルデミアも好きだった。ただ、思っていた物と違ったから怒っただけで、嫌いじゃない。
颯斗は立ち上がると投げた指人形を拾ってポケットに入れる。そのままぬいぐるみの前にしゃがみ込んだ。
そっと手を伸ばして触れると、ふわりとして柔らかい感触に驚いた。そろりと抱き寄せればふわふわした感触が颯斗を包んだ。
「ごめんね」
なげてごめんね。きらいじゃないよ、すきだよ。
心の中で謝りながら、颯斗はぎゅうとぬいぐるみを抱きしめた。
いいよ。大丈夫だよ。
そう聞こえた颯斗はぬいぐるみを抱っこしたままころころと転がって遊んだ。
電話を終えたパパがリビングに戻ってくると、台所にいたママを小さな声で呼んだ。
「交換はしなくて良さそうだな」
「そうみたいね」
パパとママは、ソファの上でぬいぐるみを抱きしめながら寝ている颯斗を見て微笑んだ。
*おわり*
お読みくださりありがとうございます。
メリー・クリスマス。そして、良いお年を。