第伍話 後宮にて
そして今日は後宮に行く日。
買ってもらった服を身に着け、待ち合わせをしていた場所へ行くと、もう既に全員揃っていた。
桜綾さんは元々持っていた服を着てきたらしい。…なんでだろう、朱蕾さんはおいておいて、同じ庶民なのに桜綾さんと僕とでは天と地の差がある気がする。
「なんか…暁猫が正装してると変に見えるんだが。」
「なっ…」
折角買ってもらった服を着て、多少は形だけでも朱蕾さんに近付けたと思ったのに。
桜綾さんが僕を見て最初に言った言葉がこれだ。
悔しいけど、桜綾さんが言っていることは事実なので言い返せない。
「商人、やめてやれ。」
「泊詠さん…!」
「猫だから仕方ないだろう。慣れてないんだ察してやれ。」
「泊詠さん……」
泊詠さんが代わりに言い返してくれるのかと思い、感動していたがやはりそんな事はなく、ちょっと悲しくなった。そんな僕を見て桜綾さんは嘘だと言って笑っているが、どうもこの人胡散臭いのはなんでなんだろう。
「泊詠様、そろそろ後宮へ行ったほうがよろしいかと。」
「分かってる。」
「あと…桜綾さん、暁明さん。今日は泊詠様の従者として後宮に入ることになりますので、決して泊詠様に失礼ないように。」
「はいよ。」
「分かりました!」
そうか、今日は泊詠さんの従者として入るのか。となると…言動も直したほうが良いのかな?
…僕は別に出来るけど、本当に桜綾さんが従者として行動出来るのかどうか不安になってくる。
「それじゃあ、行くぞ。」
泊詠さんの後に続き、宮廷の門へ向かった。
門の前には沢山の馬車があり、貴族らしき人が乗っているものもあれば、そうでないものもあった。
門の前に立っている兵士に話しかけると、すぐに中に入れて貰えた。
そのまま案内され、奥へと進んでいくと、他のところより豪華絢爛な部屋に着いた。
「ここは玉座の間だ。とは言っても皇帝とは一切関係ないんだが。」
「凄いな……。」
扉を開けると、そこには大勢の貴族の人達がいた。
その中には、僕の知っている顔もあった。
「暁明さん。」
「あ、詞夏さん!?どうしてここに?」
「お迎えに上がりました。」
そこに居たのは、依頼人の詞夏さんだった。まさかこんなところで会うとは思わなかったから驚きながらも、落ち着いているようで安心した。
詞夏も、暁明が着ている服はとても庶民に買えるようなものではなく、やはり驚いている。
それに、会ったことない人を引き連れやってきたのだからさらに驚きだろう。
「えっと暁明さん、そちらの方々は?」
暁明は、僕の後ろにいた泊詠さん達に目を向ける。すると、桜綾さんが一歩前に出て挨拶をした。
「初めまして、私は桜綾と申します。泊詠様の付き添いで参りました。」
「同じく、泊詠様の使用人でございます朱蕾と申します。」
「泊詠様……?」
暁明は首を傾げていたが、それも無理はないと思う。
だって、泊詠さんは後宮とは一切無縁らしい。一応そこで働いてるけど知ってる人は少ない、と本人が言っていた。
泊詠さんがここで普段働いている事、あまり後宮の女官たちとは関わっていないことを話した。
最初は信じられない様子だったが、ここに入れているのが証拠だと思ったのか詞夏さんは信じると言ってくれた。
「それでは……秋妃様の所へお連れします。」
そういって詞夏さんが歩き出した後をついていく。
きっと急いでいるのだろう、僕らも早く着いていかなきゃ。