第四話 お出かけ(下)
テスト終わったのでまた書き始めると思います。
そして今、僕は繁華街から少し離れた場所にある、とても豪華な店の前に立っているのだが。
「は、泊詠さん、僕如きがこんなところに行って良いんでしょうか…?」
泊詠さんに前日言われたとおり、持っている服の中で一番高価なものを着てきたが、正直この店に出入りしている人と比べると見窄らしい。
心做しかクスクスと笑われているような…
「心配するな、あの店から出た頃には彼奴等きっと笑うことはないだろうからな。」
泊詠さんはそう言って笑うけれども此方は気が気でない。
僕みたいな平民が行ったら、きっと笑われて外に放り出されてしまうだろう。
行きたくないなぁ…
「暁明さん、泊詠様がお待ちなのでそろそろ覚悟を決めてくださいませんか?」
これからのことにお腹を痛めていると、朱蕾さんがいつもの声で、でもいつもよりすこし圧のある雰囲気で声をかけてくれる。
朱蕾さんからの威圧に耐えられず、結局覚悟を決めないまま店の中に入ることになってしまった。
「いらっしゃいませ。」
そう声を上げた店主は泊詠さんを見るなり、最上級の礼を尽くす。
「私めが貴方様の顔を見ることを許可くださいますよう。」
「許す。」
泊詠さんってそんなに偉い人なの…?いや勿論偉いことは知ってたけれども。
高そうな仕立屋の店主は最上級の礼を尽くしてるし、先程まで賑やか、まではいかずとも楽しそうに買い物をしていたお客さん達はひそひそと泊詠さんをみて噂話をしている。
目立たないように隅の方に立とうとするが、朱蕾さんの勧めで泊詠さんの後ろに立ったままでいることに。
「泊詠様、一つ宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「そちらにいる少年は、何者でしょうか?僭越ながら従者様には思えないのですが…」
店主が言葉を発すると他のお客さんの視線が一気に僕へ向かってくる。
確かに隣で堂々としている朱蕾さんに比べると、お世辞にも従者とは思えないだろう。
言わずもがな立派な服を着て、翡翠だと思われる石を首飾りとしてつけている泊詠さん、皺一つない朱の素晴らしい反物で作られた服を着ている朱蕾さんと、すこし灰色になってしまっている黒色の反物を着た僕。どう見ても従者には見えない。
俯いていると、泊詠さんが代わりに返事をしてくれた。
「この者には少し恩があってな。礼に従者として雇うことにした。今日はこの者の服を買いに来たのだ。」
「そういうことですか、では採寸を致しましょう。」
「序に良さそうな装飾を頼む。」
よくもまあそんな嘘が言えるものだ、と隣で朱蕾さんが呟いたが、僕にしか聞こえていないようだ。
そうこうしてるうちに、店員さんがやってきて、直ぐに採寸をしてくれる。
他の採寸待ちのお客さんを抜かしてやってもらってるから少し気まずい。
「……では、次は生地を選びましょう。こちらへどうぞ。」
採寸をしてくれていた人が別の部屋に案内してくれる。
その部屋に入ると、思わずわぁ、と声をもらしてしまうほど綺麗だった。
色とりどりの生地。刺繍が入ったものや、珍しい外国のものまで。
「それではごゆっくりお選びください。」
店員さんはそれだけいうバタン、と扉を閉め採寸待ちの客のために去っていった。
好きなものを選べ、と言われたので何気なく一番近くにあった朱の生地を手に取る。
手に取ると、紙切れがひらひらと床に落ちてしまう。
慌てて紙を掴み、中の文字を見ると……それはもう、驚きの金額が描かれてあった。
「どうした猫?魂が抜けた人形みたいになっているぞ。」
どうした、じゃないですよ泊詠さん…
もう一度見渡すと、ありえないような値段が当たり前かのように記されている。
だめだ、驚きすぎて頭がくらくらしてきた…
「待ってるだけなら暇だな、俺の服も仕立ててもらうか。朱蕾、お前の服も仕立てて貰え。」
「私はそこまで困っておりません。」
「案ずるな、猫のついでだ。」
そう言って当たり前かのように、布を選んでいる泊詠さんと朱蕾さん。
どうしよう、住んでる世界が違いすぎる…
「どうしましたか?」
固まっていた僕に朱蕾さんが声をかけてくれた。
「朱蕾さん、どうしましょう…僕、どれ選べばいいのかわかりません…」
「そうですね…」
朱蕾さんは少し思い悩んだ末、幾つか注意点を話してくれた。
具体的に言うと、藍色の服は皇帝陛下と被るので絶対に禁止、泊詠さんと似た色のほうが厄介に巻き込まれにくい、四季妃には色があり、緑・朱・黃・白を着ているとそこの派閥だと思われ、先程とは変わって厄介事に巻き込まれやすくなるので禁止など。
「まぁ、泊詠様は黒の服が礼服なので、無難に黒で良いかと。」
「あ、ありがとうございます。」
お礼を言うと、泊詠さんの荷物持ちに戻る朱蕾さん。
結局一番やすかった黒色の反物で僕の服を一着作ってもらい、泊詠さんと朱蕾さんのものも序に作ってもらうことになった。
ちなみに宝飾は僕の目と同じ黄水晶。これまた、目が飛び出るような価格でした。
それをたやすく払う泊詠さんって一体…
そんなこんなで買い物が終わり、帰路での一時。
「明後日には出来るらしいが、生憎私は取りに行くことができない。だからお前に頼みたいのだが。」
「あ、わかりました。」
「あと、これが服分の代金の金子だ。」
泊詠さんは何やら巾着を取り出すと、気安く投げてくる。
落ちそうになった巾着を慌てて掴むと手に重さが一気にかかる。
少し空いている巾着の中を見ると…見たことのないほどの金子が。
「え!?これ僕に渡して良いんですか!?」
「暁明さんなら盗むこともないでしょうし大丈夫だと思いますが。」
「ああ、余ると思うからそれは使い走りの給金としよう。」
…給金多すぎませんか泊詠さん。
それを伝えたが真剣に取り合ってもらえず、その後泊詠さんは朱蕾さんに連れて行かれた。
仕事があるのにすっぽかして今日の買い物に来たらしい。…お疲れさまです。
その後、帰ると桜綾さんに羊羹を買うことを約束していたことを思い出し、慌てて買いに行きました。