第壱話 黄昏時の来訪人
世界の中心に堂々と存在する島には十二の国がある。
昔はもっと国があったのだが、其々が戦争を起こし、いつの間にか弱き国は強き国に統合されていった。
しかしその中でも島の誕生した時から、他国が滅びゆく中、生き残り続け現在も強い存在感を放つ国があった。
名は霄。神が国を治め、妖と人間が共存する国。
神の名の下、妖と人間の平等が示されすべての人々が賑やかに暮らす。
その普通の人達の中のひとり、暁明は今日も都で猫探しに勤しんでいた。
「姚々?どこにいるのかな〜?」
狭い路地に入ると、先程までの繁華街の賑やかさが一気に薄れ、長閑な景色が目に入った。
此処までの道で服が少し擦れてしまったが、致し方ない。
道を少し進むと、小さめの食堂が見える。
「姚々〜?」
此処のあたりは猫が少なく、姚々のような子猫が逃げるのにはうってつけの場所だろう。
食堂の、小さく開いた窓から小さくにゃー、と返事をする声が漏れ聞こえてきた。
窓に近づくと勢いよく扉が開き魚の生臭い匂いとともに一匹の猫が飛び出してきた。
猫の勢いに押され、姿勢を崩し暁明は路地の壁に頭をぶつけた。
あまりにも勢いよくぶつかったものだから、ゴンッ、という鈍い音が此処の長閑さを打ち消し、心配した食堂の店主が出てくるまでの騒ぎとなった。
「へぇ〜この猫姚々っていうのかい。急に食堂に入ってきたときはどうしたものかと思ったが、飼い主がいたようで良かったよ。」
事情を知った店主は姚々を快く渡してくれた。
こういう場合、猫を返してくれないこともあるので、こういう場合は有り難い。
その上この人は猫を引き渡すどころか頭の傷の治療までしてくれた。
「それにしても、美味しいですね此処の肉饅頭。」
「そうだろ、俺も思った。此処のカミさんが作ってるんだ。」
「此処のカミさん…奥さんいらっしゃるんですね、今何処にいらっしゃるんですか?」
聞いてみると、彼の名前は星秋というらしい。
彼の奥さんは今繁華街で買い物中らしく、最後まで会うことはなかった。
星秋に美味しかったと伝え、眠ってしまった姚々を抱えて飼い主に渡す。
朝に出たはずが、姚々を探しているうちに日が暮れかかっていた。
住宅から夕餉を用意するいい匂いが漂ってくる。
今頃彼奴等は準備をしているだろうか、そんなわけ無いか。と暁明は思いつつ、家に帰る。
帰るや否や…閉まっている店の前にはこの繁華街に不似合いな高そうな服を着た女性がなにやら深刻そうに扉を叩いており、暁明を見つけると切羽詰まった様子で言った。
「助けてください!!いくらでも払いますので!!そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ私……」