第玖話 犯人は?side泊詠
side 泊詠
部屋に戻ると、泊詠はすぐに手紙を書く準備を始めた。
筆を走らせ、書き終えるとそれを封筒に入れる。そして、蝋で封をした。
「これで良し。」
それを持って、泊詠は外へ出る。向かう先は後宮の門。
見張りに用事、とだけ伝え、泊詠はその中へと足を踏み入れた。
外は既に日が落ちており、真っ暗だ。月明かりだけが頼りである。
暫く歩くと、泊詠は立ち止まり目の前にある大きな建物を見上げる。それは後宮の中心に建つ、後宮で一番大きく豪勢な造りの建物だった。
「さてと、仕事を始めるとするかな。」
泊詠はそう言い、建物の中に入っていった。
その表情はいつもとは違い、真剣そのもの。
彼の視線の先には、とある人物の姿があった。
「……あぁ、貴方様ですか。」
「お久しぶりです、詩佳殿。」
後宮の主人であり、冬妃でもある蘭 詩佳がいた。彼女は泊詠に一礼をする。
「わざわざご苦労さまです。それで、何用で此方に?」
「貴女に渡さなければならないものがありまして。」
そう言って泊詠は懐から先程書いたばかりの手紙を取り出す。
「これは?」
「私の知り合いから預かったものです。」
「では拝見しても?」
「はい、勿論です。」
そうして詩佳は手紙を受け取り、その中身を見る。そこには、ある女性について事細かに書かれていた。
「……」
「この女性は今、この度の事件の犯人と思われる人物。後宮の主人である貴女ならば監視することも可能でしょう。」
詩佳はじっと文を読み進めていく。すると、その顔色が変わった。
しかし、泊詠はそれを見てもなお淡々と話を続ける。
手紙を読み終えた詩佳は黙り込む。泊詠はその様子を見て、その場を去ろうとした。
が、詩佳はそれを止める。泊詠は再び振り向いた。すると、彼女は微笑んで口を開いた。
此度の件、手伝いましょう、と。