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不思議探偵暁猫と招かれざる事件達  作者: ぽんでぴよっこ
第一章 高嶺の花
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第玖話 犯人は?

それから数日経ったある日の事だった。

僕はやっとのことで集まった書類を見ていた。

でも全て、詞夏さんが犯人だと思われることしか書かれていない。

明鈴さんと元々仲が悪かったとか、現場で言い争っているのを見ただとか、秋妃様に気に入られている明鈴さんが気に食わなかっただとか…

やはり、悪口を見ていると気分が悪くなる。少し散歩でもしようか。


「……あぁもう、何なんだよ!!」


いつものように桜綾さんの部屋を訪ねると、彼は不機嫌になっていた。


「どうしたの?何かあった?」

「彼奴等だよ!!まったく……!」


彼が言っている"彼奴等"というのはきっと隹以羅さん達の事だろう。

彼と出会った日以来、桜綾さんはずっと彼を毛嫌いしていた。


「また喧嘩したの?」

「別に喧嘩じゃないけどさ……なんか腹立つっていうかさ……。」

「まぁ気持ちはわかるよ。でも仲良くしないと駄目だしね。」

「わかってるよ……ただ、アイツ一切手伝ってくれないんだよ…後ろについてくるばっかでさ…」


はぁっとため息をつく彼に苦笑しつつ、僕はお茶の準備をする。


「ほら、今日は疲れてるみたいだし、ゆっくり休んで。」

「あぁ、ありがと。」


彼の隣に座って、ゆっくりとお茶を飲む。その横顔は疲れているように見えた。


「そういえば、泊詠様達には報告しに行ったのか?」

「いや、まだだけど。」

「そうか……じゃあ会いに行くか?」


そう言われて少し考える。

なんの成果も得られていない今、正直あまり行きたくはない。けれど、いつまでも避け続けるわけにもいかない。

そんな事を考えていると、ふとある考えが浮かんだ。


(そうだ、いっそ吹っ切れて手がかりをもらったら良いんじゃないかな)


そう思い立ち、早速行動に移すことにした。

後宮の奥へと足を進めながら、桜綾さんに話しかける。

あの後、僕は桜綾さんに頼み込んでついてきてもらっていた。

本当は一人で行こうと思ったのだが、何故か頑なに拒否されてしまったのだ。

後宮の更に奥まで進むと、そこには大きな門があった。

そこにいる見張りに軽く会釈をし、中に入る。そして、泊詠さん達がいる部屋へと向かった。

扉の前で一度深呼吸をして、意を決してノックをした。

コンコンという音が部屋に響く。暫く待つと、朱蕾さんが扉を開けてくれた。

彼に案内されるがまま、奥へと足を進める。

沢山の本が散らばっており、なにやら大事そうな書類や、走り書きで「要検討」と書かれている紙など。

奥の机で僕らには一切目もくれず、書類を呼んでいる泊詠さんがいた。

普段はメガネをかけていないし、普段より静かなので別人にも見える。しかし、すぐにこちらに気づいてくれたようで、僕たちに視線を向けた。

どうしようかと考えていると、泊詠さんから口を開いた。

彼は僕たちに向かってこう言った。


「……何を聞きたいんだ?」


僕たちは互いに顔を見合わせてから、口を開く。


「後宮の中で起きた事件についてです。僕達じゃ探しても手がかりがつかめなかったんです。泊詠さんなら知ってるかと思って。」

「それで?」

「犯人について何か知らないですか。」

「……そうだな。手助けぐらいなら出来るかもしれない。」


泊詠さんはそう言うと、真剣な眼差しで僕らを見た。


「明鈴の遺品を持っていないか?なんでも良い、首飾りでも服でも。」

「えっと……これですかね。」

そう言って僕は袋から明鈴さんの遺髪を取り出した。

それを手に取り、じっと見つめた。すると、その髪が水のように手から溢れそれは再び個体となる。

「……。」

「……この人は、明鈴さん…?」

「あぁ。だが…」


彼女の見た目は酷いものだった。首元が裂かれ、着ている服も血塗れ。髪の毛は血で固まってしまっている。


「これは…幽鬼か?」


隣で桜綾さんが呟く。幽鬼というのは未練が原因でこの世界に留まり続ける者のこと。


「あぁ。だが厳密に言えば幽鬼ではない。」


泊詠さんの言葉に疑問を抱く。確かに、普通は死んだら幽世に行くことになるはずだ。

そこに行けない、もしくは未練でこの世界に留まっているから明鈴さんは幽鬼になったはずじゃ…


「どういう事なんでしょうか?」

「明鈴は、私が勝手に幽世から呼び出しただけで幽鬼にはなっていない。」

「え?」


思わず間抜けな声を出してしまう。泊詠さんは一体何を言っているんだろうか。

泊詠さんによると、彼は一度のみ幽世から魂を呼び寄せることが出来るらしい。二回以上すると現世との結びつきが強くなり、幽鬼になってしまうとのこと。

至極当たり前かのように泊詠さんは言うが理解しきれていない僕達を無視し、泊詠さんは話を続ける。


「だが、困ったことに首元を裂かれているなら喋ることができない。然もこちらの声がまるで聞こえていない。」

「あぁ……」


そこで理解した。泊詠さんが何を言いたいのか。

明鈴さんの声を聞くことで犯人を突き止めようとしていたのだ。


「こちらの都合で呼び続けるのも悪い。はやく幽世に戻らすか。」

そう言って泊詠さんが手を振り、明鈴さんの姿を消そうとしたとき…

明鈴さんが扉の方を見て急に叫ぶ。

そこに立っていたのは秋妃様と侍女達…それに明鈴さんを見て青ざめた詞夏さんだった。



驚いたけれど、荒ぶる心を抑えて詞夏さんの話を聞く。どうやら僕達を探していたようだ。

少し連絡をした後、彼女達は直ぐに帰っていった。

僕達も泊詠さんの部屋を後にする。


「明鈴さん…叫んでたよね…」


部屋に戻りながら桜綾さんに問いかける。


「あぁ。恐らくは……」


彼女はそれ以上何も言わなかったが、多分その通りだろうと思う。……いや、きっとそうだ。

犯人はきっと…依頼人本人、詞夏さんだ。

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