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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
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第七話ー戦場ー

「じいじ、本読んで~!」


 無邪気に、ソファーの後ろにある赤い表紙の本を抜きそれを目の前に差し出す孫娘。


(それは、お前にはまだ早い魔術書だよ)


儂はそっと本を孫の小さな手から元の場所へ戻し、代わりに昔読み古した簡単な魔法の書かれた魔術書を手に取った。


「僕にもきかせてっ!」


足元に抱きついてくる幼い体。


「じゃあ、皆で読もうか」


そう言ってソファーに腰をかけ両肩に乗る孫に視線を向け、本を開いて読み聞かせる。


時計の揺れ動く針の音と、孫の笑い声が響く部屋のなんと暖かいことか。


この一時が、永遠に続けばいいのに。


そう思いながら魔術書を読んでいたその時だった。


部屋が揺れ、爆発音が聞こえた。


「なに………なになに?」


「怖いよ………」


「なに、きっとベリアルとルシファーあたりが喧嘩でもしてるんだろう。

あやつらのことだ、きっとそうに違いない。少し儂が叱って来るよ、すぐ戻る」


 そう孫たちに言い聞かせ、ガイバは瞬間移動魔法を使い外に出ることにした。



「………じいじ、なにかあったら呼んでね?」



「呼んでね?」



大丈夫だよ。と振り返って孫達に微笑み魔方陣の中へ入り移動した。

爆発の起こった場所は、城の玄関付近らしい――。


 城下町には、魔王達の無惨な姿が公開されていた。


「……ガハッ……」


銀の巨大な十字架に縛られ、胸には銀の短剣が十本、深く突き刺されたドラキュラ。

その右隣には一際巨大な十字架に鎖で縛られ、角を折られたケンタウロスの姿があった。


「こんな……オデの、力でこんな……………」


更にドラキュラの左隣には、無言で首を短剣に刺され息も絶え絶えのダークリザードマンが居た。


 彼らは、自身の強さを見せつける為の見せしめにされたのだ。


「魔術で聖銀を巨大化させ封印してやったがさて、あそこだな城は」


全身に魔力を回し、空中浮遊させる。


その様子を見た翼を持った魔族は一斉にレクスへ襲いかかる。


[いかせるかぁ!]


「おっかあと妹のカタキー!!」


「こちとら息子を殺されてんだァ! 失うモンはネェ!」


各々の恨みを込め、力いっぱいに武器を当てる。しかし、無慈悲にもその攻撃は跳ね返され自分の身を傷つけていく。


「阿呆! 魔族である時点でこのオレに勝とうと思うな」


そう吐き捨てた瞬間だった。


轟音を引き連れて、暗黒の弾丸が男の体を横切ったのは。


「誰だ? もはや王は居まい?」


[悪魔は………復讐を忘れねェ……ハハハハ!!」


角を生やし、口を片方だけ耳まで裂いた片腕の悪魔。


ベリアルの姿である。


「しぶといッ!」


レクスはすぐに短剣を構えようとした、がそれには及ばず首に悪魔の腕が掴みかかっていた。


「ルシ、ベルの分たっぷりと仕返してやるッ!!! この地獄に片方突っ込んだ手でなァ!!」


口から光線を吐き、片腕のあった方に向ける。すると、魔力によって練り上げられ燃え上がり腕の形

を成した。


「ッ! くっどいぞ………オレに……よって………殺されるべきだったな……!?]


わずかにある酸素をひりだし、口を開く男。


それを聞き、ベリアルは嗤う。


「フハハハ……どうした? いつもみたいにやってみろよ? ほらほらほらぁ!!]


怒りを燃え上がる腕に込め、思い切り殴る、殴る、殴る。


何度も。


レクスの体に、いくら血が噴き出ようとも。


「こんだけじゃ足りねェなァ!!」


「ふっ、負け犬が食い下がるか………かっははは……」


首を絞められながらも、なお煽る。


 だが、ベリアルはそれを聞きまた嗤いで返す。


「ハハハハ、これで済むと思うか? 俺様は、80の軍団を持ってる………お前の国にけしかけてやったらどうなるかなァ? ……それに、戦車だって持ってる………お前は、俺様に喧嘩売った時点で負けてんだよォ!」


燃え上がる腕で、レクスの頭を握りつぶさんとする力で掴み、城の屋根に向かって急降下した。


「ッ自惚れるなッ! 悪魔の王!」


全身に光の力を放出する。


煙をあげて焦げていくベリアルの体。


 しかし、全くものともせず掴んだ腕の力を緩めない。


「食らいやがれ!! 消えろ! 潰れろォォ!!」


 まもなく、屋根が背後に迫る。


激しい衝突共に屋根が崩壊し、レクスの体は地面にめり込んでいった。


「はぁ、はぁくたばり……やがれ………はぁ……ルシとベルは病院で寝てるかな」



片腕は既に無くなり、燃え尽きていた。


またしても、一本だけの腕となる。


だが、そんな事はどうだってよかった。


仲間の仇を取れた、これで部下が無駄に死んでいくことも無い。


犠牲者の中には、ベリアルの軍団の部下と、その家族が居たのだ。


「ははっ……あーあ、またナメられるな……あいつらの為に………こんなことした、だなんて」


力無くいい終えると、ベリアルはその場に倒れこんだ。


[…オレがこの程度で殺られると?…勘違いも甚だしいわ!]


めり込んだ地面から拳が突き出され、体を這い上がらせる。


「ここまで追い詰めるとは……いいかよく聞け大悪魔………お前は確かに強い、だが悪かったな相手はオレ。…………鍛え上げられた熟練の戦士とて、お前を相手取れば死んでいただろう」


「…………ッ! 野郎うぐっ!」


 無理をした体は動けるはずなく、倒れたまま睨み付ける事しかできなかった。


「貴様には敬意を表し、見せしめにはせずこの場で消滅させてやる……故郷に伝えておこう。貴様だけは強かった、とな」


男は一言言い、手のひらに魔力を溜め、攻撃魔法の体勢を整える。


「魔王ベリアルよ、永遠なれ」


 ベリアルが唯一、死を覚悟した瞬間。


どこからともなく、ハエの大群が翔んできた。


「!? なんだこのハエはッ!」


ハエの大群はベリアルの体を包み込むと、その場で散り散りになり何処かへと姿を消した。


「……チィ!!」


「何事かね、人の城で舌打ちをするとは」


城の中に轟く、その声と共に目の前に魔方陣と共に現れた角の生えた体格の良い、マントを羽織った筋肉質な老人がレクスの前に現れる。


「問おう、貴様も王か?」


その言葉を聞き、老人は穏やかに答えた。


「元、だがね」


「ならば、潔く時代と共に消えよ化石!!」


闇滅せし光ダーカーズキラーシャイニングッ!]


再び魔力を腕に込め、飛ばす。


腕から放たれる閃光は、確実に老人に命中した。


が、老人はものともせず片腕で暗黒の壁を張り、涼しい顔をしている。


「!? 何!? オレの力を受けて……!!?」


驚愕の声を思わずあげるレクス。


挙げ句バリアは閃光そのものを包み込み、球の形を取った。


「……………そら」


その球を老人が投げると、一瞬の静寂の後、凄まじい爆発が起こった。


(あいつ、今何をした!?)


目の前での爆発に目を疑うレクス。それを見て笑む老人。


「貴様、名はなんという?]


老人は、指を鳴らし自分の体を暗黒のオーラに包む。


すると、老人は若々しくも荘厳な雰囲気をまとう男の姿へと変化した。


「儂の名はガイバ・テネブリス………先々代魔王だ……」


「城の修理代は、その体で払ってもらうこととしようか」


ガイバはため息まじりに言葉を放つと、指先から暗黒の弾丸を出し、それをどんどんと膨張させた。


その大きさは、三mあるガイバ自身の体がすっぽりと入る程だった。


「粋がるな! オレには敵わん」


短剣を数本取り出し、それを魔力を込めて投げる。


しかしそれらはガイバの身を包む暗黒のオーラによって無力化された。


銀の刃が、一瞬にして腐り溶け、落ちたのだ。


「なに……」


「…消えよ、人の子よ」


指を降ると、凄まじい轟音と共にエネルギーの塊がこちらへ向かってきた。


「……オレが……負けるのか……?]


圧倒的質量を前に、戦意を喪失させる。


「…………オレは……オレは……!!」

その塊が数歩、先といったところで走馬灯の様に過去の記憶が甦って来る。


オレは、何故ここまできた?


何故、ここまでの残虐な行為をしてきた?


名誉の怪物退治、いつもの事だ。


………いつもの事なら、必ず逆転させてやる。


…………オレこそが、英雄だ。


体全体に魔力を回し、光を最大限に溜める。


「うおおおおおお!!! ……負けるかァ!」


――誇りと、意地の闘いの火蓋が切って落とされた――。

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