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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
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第六話ー破壊ー


獣の王であるが故に、牙と爪による攻撃しか知らぬ。


それが、敗因だった。


下腹部に貫通した、手刀。


「………ウガアッ!?」


腕を動かし、尻尾を動かし悶えその場で仕留めようと跑く。


しかし、眩い光の力を身体に放出させたレクスには攻撃は届かず、逆に自分の腕と尻尾を焦がす。


「ほれほれ、どうした犬。ご主人様はここだぞ?」


ぐちゃぐちゃと内臓を掴み、弄ぶ男を前に、体を振るわせ最大の殺意を向ける。


「ッッ!!お前だけは生かしておかんッッ!!」


よだれと血の入り交じった液体を口から垂らし、叫ぶ。


レクスはその叫びを聞くと、腹の手刀を一気に中で下ろし、肉を裂きそこにある臓器を掴んだ。


「頂いていくぞ?本来おぞましくて到底掴め無いものだがな……」


レクスは下腹部にあった”それ”を躊躇すること無く引き抜き、腰の革袋へと仕舞いこみ目の前の獣を思い切り蹴り飛ばした。


その蹴りは、キマイラの骨を砕いた。


勢いのままに、手足が動けるはずもなく地面に体を落としていくのをキマイラは感じた。


「……ゴバァッ……がえ”ぜっ………がえ”ぜ……っ………コヒュッ」


吐血混じりに怨嗟の言葉を唱え続け、体を動かそうとするが臓器を抜き取られた痛みと負担は大きく、地べたの上で手足を動かすばかりで腹から血を流していく獣の王。


そこには、王などと呼ばれた一匹の獣の姿があるだけだった。


「悪くない収穫だったぞ。安心しろ、こいつでより優秀な兵器を作るだけだ。……光栄に思えよ?貴様の体の一部が人間の手で、人間を救うための物へと変わるのだからな…フハハハハ!!!」


勝利宣言とばかりに、男は目の前で嗤う。


しかし、森林に響くその嗤い声がキマイラに執念を沸き立たせる。


こいつだけは、生かしてはおけない。と。


「ガルルル……!!!」


四肢を震わせ、体を奮わせ、穴の空いた腹から垂れる自身の血肉、臓物を気に止める事無く体勢を整え、獲物へと狙いを定める。


狙いを一点に定めたキマイラの瞳は、血に染まったが如く煌めき昼なお暗い森林の影を照らし色ずかせた。


「……許さぬぞニンゲン!!」


元の獣の姿へとその肉体を変化させ、風すら切り殺すほどの高速で男の腹めがけ飛びかかる。


「ッ! 往生際の悪いイヌがッ!」


レクスは瞬時に魔力を放出させ、光の壁を展開し防御の姿勢を取る。


だが、防ぐには遅すぎた。


先の戦いにより、鎧は既にひび割れ、一部は溶けきり、今にも鎧全体の形状が崩壊せんとしていた。


そこに、まるで隕石の様な爆発力と速度で迫る獣の爪。


その爪は男の腹を容易に裂き、背後には自身の血飛沫の痕が地面についていた。


「………?」


男は自分の腹に手を当て、血を手につけてそれを見た。


血。確かに真っ赤な自分の血が付いている。


「……」


血の付いた手で握りこぶしを作り、震えた。


しかしレクスを震えさせたそれは決して恐怖ではなかった。


「………獣畜生風情がッ!!!」


激昂し、短剣を取り出し背後で爪に付いた血を舐めとるめがけ男は飛びかかった。


「グルル!!」


キマイラは唸りで返し、飛びかかる男に対し自身もまた翼を広げ、地面を蹴って跳躍した。


「城の絨毯にしてくれるわ!」


がむしゃらに、短剣を降りそれを爪で弾くキマイラ。


「ガルルルオオオオオ!!!」


男の顔に向かい、口から灼熱の炎を吐き怯ませる。


「ぐあっ!?」


防ぐ間もなく、至近距離からの火炎を食らいキマイラから目を背けるレクス。


「ガオオオオオ!!!」


目を背けた瞬間に喰らうは、全霊の攻撃。


キマイラは怯んだ隙を狙い、体当たりし、レクスの体を地面に叩きつかせた。


「………ほほう………認めるしかないな………獣の王………!」

自身が追い込まれているにも関わらず、攻撃したキマイラに称賛の言葉を送るレクス。


その言葉を聞くわけもなく、怒りのままに口を広げ喉へ噛みつこうとキマイラは迫った。


 その瞬間が、命取りだとも知らずに。


口を広げた一瞬、鋭い痛みを感じた。


「………ゴァッ?」


口を閉じようにも、閉じれない。


何が、起こったのだろうか。


理解できぬまま、男の蹴りを受け体を飛ばす。


「最後まで、獣だな」


「………!?」


男から離れて姿を視認して気づいた。


男の手には、短剣が握られていない。


即ち、その短剣がある場所は――――。


「ガァァァァア!!!」


口の中で縦に刺さった短剣。


炎で溶かせば、聖銀の刃が溶けだし更なる致命傷を負う。


抜こうにも、光の魔力が込められていて触れられない。


口を閉じれば、確実に貫通し重傷を負う。


「ガァァァアア!!! ゴアアア!!!」


悲鳴、というよりも絶叫だった。


救い様が無く、どうしようもない絶望からくる。


「殺して欲しいか?苦しいだろう………?」


落ち着いた声で腕を組みこちらを見つめるレクス。


それを睨みで返すと、レクスは腰からもう一本の短剣を抜き握った。


「イヌは、棒で遊ぶのが好きだろう? くれてやる。」


短剣をキマイラに向かって投げ、キマイラは翼を使い地面から翔び立とうとした。


が、そのあがきは最悪の事態を招いた。


短剣が刺さったのは、後ろ足である。


「ガァ!?」


容赦なく、肉に刺さる。


反射的に地面に降りると、自分の体重により更に後ろ足に刺さった短剣が深く突き刺さる。


それは、地獄の痛みだった。


肉を裂き、骨を断ち、奥の肉すら魔力で溶けていく。


後ろ足が痛みと共に失われていくのは時間の問題となった。


「グルルルァ!! ゴァァ!」


「ここまですれば十分か。喜べ、今は生かしておいてやる」


不敵な笑みを見せつけ、痛みにもがくキマイラをよそにテネブリスの待つ魔王城の方角へと向かっていく。


「……屈辱……だッ!!!」


翼をはためかせ、その場から去る。そうせざるを得なくなった自分の無力さをひしひしと感じながら。


 「お助けを!」


「許してくれ!」


「子供だけは………」


そんな声を無視して、城下町の家に光の魔術を放ち魔族を消し去っていく。


無慈悲に、散歩で草花を踏んでいくように鼻歌混じりに歩みを進めながら襲う。


レクスは、災害と化していた。


「そろそろか?」


そう独り言を言っていると、ドタドタという足音と空中からはコウモリの大群が舞い、真正面からは鎧を着た大男がやって来た。


「……なんだ、貴様らは」


 その言葉にすぐに反応したのは、コウモリの大群だった。


「なんだ?なんだとはなんだよ。町をこんなにしといてよ~ォ?」


コウモリの大群は、高い家の屋根に集まると美しい貴族の男性の姿へと変わった。


「オレはダーク・ドラキュラ、またの名を、ヴラド・ツペシュ。元ニンゲンの王様だ。ワラキアの………といったらわかるか?………まぁどうでもいいか」


「ほう、貴様も王。となれば吸血鬼属の王か。では、お前の自己紹介も聞こうか」


レクスは後ろを振り向き、足音の主に目をやった。


その主は、牛の頭をした大男だった。


[オデはダーク・ミノタウロス………………亜人属の王ドン!」


自己紹介を終え、ドスン! と、足を踏むと地響きを鳴らし鼻息を荒くさせる。


「……ふん、我が国の牛の方がまだ勇ましいわ。ところで、先程から槍を持って無言でいる貴様は? 名乗れ」


腕を組み横目に鎧を着た青年に視線を向けた。


青年はただ、無言でこちらを睨むばかりでピクリとも、口を開かなかった。


「………口を利く脳すらも無いわけか、わかったぞ」


 そう言うと、レクスの目に向かって槍の矛先が音もなく向けられた。


「ずいぶんと速い槍さばきだな…………? そこは評価してやろう」


「……ダーク・リザードマンだ……亜竜属の王だ、覚えておく事だな……」


低く、凛とした声でそれだけ答えると槍を上へ持ち上げ元の三mの長さへと戻す。


 槍は伸縮自在らしかった。


「では、おしゃべりはここでおしまいだ。さっさと、やるぞ」


「……串刺しがいいか?それとも即死が良いか? 焼死が良いか?! 両方してやろう!!」

 

最初に躍りかかったのはドラキュラだった。


高所から滑空し襲いかかる。


「オデが潰すドン!」


 それを皮切りにミノタウロスはレクスへ向かい突進する。


「……」


ダークリザードマンはその様子を冷たい目のまま、表情を動かすこと無くじっと眺め様子を伺っている。


「………どうしてやろうか」


血を浴びる者(ミノタウロス)


血を欲する者(ドラキュラ)


血を冷ややかに持つ者(リザードマン)


血を流してきた者(レクス)


血を賭けた者たちの狂宴は、続く――。

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