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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
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第五話ー激闘ー

 あれから、どのくらいの時間が経ったろうか。


三匹の悪魔を相手に、短剣と魔術一つで迎え撃ち致命傷を与える男と、汗を流し、息を切らし、戦う悪魔達。


熾烈を極めた激闘は、悪魔達の余裕のない挙動と、男の汗を流しながら攻撃を受け流していることから、あと数刻の時で終わると知らされる。


「はぁ………お前まだッッ………!くたばらねぇ、のかッ!」



 詠唱もなく連続で手のひらから打ち出す暗黒の弾。


男はそれをものともせずひらりひらりと躱し、ベリアルの首に踊りかかる。


「口達者よなッ! だがここまでだッ!」


神速で放たれる、空気を切り裂く音すらも置き去りにする短剣での一撃。


レクスの一撃を躱させる為にルシファーはベリアルに魔術を使い念力で吹き飛ばす。


「危ないぞ!」


「何しやがる!?」


 ルシファーの方へ振り向き声を荒げるベリアル。


一方でルシファーは涼しい顔を崩さずにベリアルの声を無視し、杖でレクスの連続した斬撃をいなし、隙を見つけ得意とする火炎魔術で攻撃した。


「喰らうが良い!」


そして――その火炎の魔術を手に受け、そのまま拳で魔力を込めてベルゼブブへと投げるレクス。


 ベルゼブブは投げられたそれを蝿の大群で壁を作り防ぐ。


硝煙の中、焼け焦げた大群の残骸を散らせレクスは構えた短剣を一旦おろした。


「………なるほど、見事だな。貴様らの無尽蔵に涌き出る魔力…魔術の数々…認めよう、貴様らが最強だ」


 レクスは攻撃の手を止め拍手を送る。


「………だからどうした? 今さらなんだ……」


ルシファーが口を開くと、レクスはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、腕を天井へと掲げ指を鳴らした。


瞬間。


音が周囲に響き渡り眩い光が迸る。


悪魔達が目を覆い、あるいは逸らした。



その瞬間、塔が音を立て崩れ、天井がひび割れ瓦礫となって落下していった。



「ックソ野郎俺達を生き埋めにする気か! そうはなるかよ!」



ベリアルは落下物を全て口からの光線で薙ぎ払い、ルシファーは杖を床へ刺し自分の体を結界のバリアで包み込む。


ベルゼブブは、全身の体を蝿の大群へと姿を変え落下物を躱す。


悪魔達は各々で瓦礫に対処している最中、その崩壊していく塔を見物しながらレクスは外で獲物に狙いを定め、構えていた。


「………てめぇ…この塔をさっさと爆破させなかったのは……!」


ベリアルは光線を射つのを止め、出口に居るレクスを睨み付け指を指す。

「そうだ、弱った隙にこうして瓦礫の対処に集中させ、その合間に自分の武器で確実に仕留めてやるつもりだったのだ」


と、笑みをたたえ口に出した。


「野郎ッ!!」


その眼光を前に走る。


傷をものともせず、瓦礫が体に当たり、視界はどんどんと土埃にまみれ、遮られようとも目の前の人間に直接手を下さずには居られなかった。


「くたばりやがれェッ!」


 宿敵まで、残り僅か数歩といったところで


視界は、光に包まれ真っ白になった。


 ………目を開けると、目の前にはルシファーが自分の前に仁王立ちしている。


その隣では、ベルゼブブが立っている。


「………考えもなしに飛び込むな、お前はいつもそうだったじゃないか………学習しろ」



 掠れた声で、笑い混じりに背後に居るベリアルに言う。


その後ろ姿にある六枚ある筈の翼が、翼が二枚焼け焦げ、骨を露出させ四本になっていた。


ベリアルが足元に目をやると、杖にひびが入っているのが見えた。


「………僕の可愛い蝿ちゃんをいじめないでくれるかなぁ~……いや、僕自身、かな?」


 隣に居るベルゼブブは、体の半分が抉り取られたかの様に無くなっており、断面からは蝿の死骸と蛆が集まっていた。


「………光の呪文………まさかここまでの威力とは恐れいっ………た」



その場に倒れこむ、ルシファー。


それとほぼ同じタイミングでベルゼブブは足をピクピクと振るわせ、ブブ、という音だけ鳴らしてパタリと断面を上にして蛆を産み落としながら倒れた。


「ベルゼブブ! ルシファー! お前らッ!!」


 目の前で倒れたルシファーとベルゼブブの体に寄り添い、顔を見る。


「……この塔、完全に没落するまで時間がもうそうかからん………出ていけ、ベリアル」


ルシファーは口から血反吐を滴しながら、ベリアルを見つめる。


 ベリアルはそれを聞いて声を振るわせ、あらん限りに怒鳴った。


「何が出ていけだ! お前が………命令するんじゃあねぇ!」


「ウジが垂れながらで申し訳ないぃ~……でも、一旦言うこと、聞いとくべきかもよ……ししっ、げほっげほっ」


頭と足をビク、ビクと振るわせ口から蛆と蝿を吐きながらベルゼブブの目はベリアルを向いていた。


「………レクス、てめぇを必ず地獄に落とす。悪魔の数は魔族の中でも相当だ、ダークと名前のついた奴はバイモン、アスモダイ、パズズ――アヴァドンだって居たな……てめぇに倒しきれるかよ? なぁ? ……俺が殺らなくてもそいつらに殺られる。悪魔の報復に震えていろ。この腕、ルシファーの翼、ベルゼブブの半身………その代償のツケは、全て払ってもらうぞ……」


憎しみを込めた、呪詛に近く、負け惜しみの様な言葉を拳を握り、自らの血で手を染めながら浴びせる。


レクスは、ベリアルの歪み、食いしばった口許をみて笑う。


「生きていたら、また会おうか。今殺しておいては、見せしめにならんからな、フハハハ………」


瞬間移動魔法を使い、消えていく後ろ姿をよそに、ベリアルはルシファーの体を背負い、ベルゼブブの羽を口で咥え、引きずり塔から脱出しようとした。


「ルシファー、ベルゼブブ………お前らは俺が必ずまた勝負できるようにしてやる。……俺様が時期魔王だが、勝負も無しじゃつまらねぇ、お前らが居なきゃつまらねぇ……意地でもこっから連れ出してやらぁ。]


ただひとつの決意、執念を糧として、満身創痍の身体に鞭を打つ一匹の悪魔の姿が、そこにはあった。


「グァァァ!!」


「ぐぇあああ!」


「キィエエエ!!」


魔界に、あらゆる魔族達の悲鳴が轟く。


魔王城へと進行するため、魔獣族の多くすむ地帯へ移動しつつも、一方的な虐殺を続けるレクス。


 障壁になるもの、目障りなモノは全て薙ぎ払う。


ふと後ろを振り替えると、魔獣族の魔物の無惨な死体が、大量に転がっていた。


「……ふん」


慈悲もなく、冷淡に死体に唾を吐き捨てまた前進する。


 すると、上空からこの世のモノとは思えぬほど猛々しく、おぞましい雄叫びが聞こえた。


雄たけびは、周囲の木々に生い茂った木の葉を散らすほどの衝撃となってこだまする。


「やかましい、弱い犬ほど良く吠えるのだぞ。自己紹介か?」


上空を飛ぶ巨大な獣に向かって言うと、その獣は急降下し、炎をまといこちらへ接近してきた。


感心しつつ、相手の一撃が目の前に来るまで腕を組んで待つ。


轟音を立て、流星の如くレクスに襲い掛かる獣。


そして、寸前で瞬間移動し攻撃を躱す。


すると、獣の姿は煙に隠れ人の姿となる。


「………我の攻撃をッッ!!」


目の前のそれは、茶色い外套を着て、毛皮の腰巻を穿いた荒れた長髪の女の姿をしていた。


「我が名はダーク・キマイラ、この魔獣族の現魔王だ! 何か胸騒ぎがすると思って会議を抜け出してきたのだが………こういう事だったとはな」


「ほぉ? 許せないか。この俺が」


そう言うと、ダークキマイラは鼻で笑い答えた。


「いいや、強いものは残り、弱いものが死ぬ。それだけだ。別になんとも思わん……自然の摂理に私情は関係ない」


 意外にも、冷たく淡々と語る。


その語り口に愛想を尽かし、レクスは直ぐに腰から短剣を引き抜き刃を向ける。


「……では、お前が今から死んだところで文句は言えまい?」


「あり得ないな、我が血肉となって果てろ人間ッッ!]


 爪と牙を立て、蛇の尻尾をうねらせ構えるキマイラ、しかしそれを見てレクスはひたすらに笑っている。


その笑みには、今にも獲物を捕食せんとする獣の目をしていた。


 キマイラはその笑みに背筋が凍り付く感覚を覚えながら、背中を曲げ“狩り”の姿勢を取る。


命を喰らい尽くす者と、肉を食らい尽くす者の狩りが始まろうとしていた。

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