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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
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第三話ー蹂躙ー

「ここか、おぞましき怪物どもの巣窟は」


 二mはゆうに越える背丈の男は、魔界の空を裂き、ふわりと大地に足を降ろした。


絢爛豪華な装飾がされていた痕跡の残る赤黒く汚れた鎧を、異形の怪物の骨で彩る深紅の髪をした、鋭い目付きの男。


彼の名は『レクス・ヘロス・ブロード』人間界では様々な異名を持つ王である。


ある国では[狂乱の処刑人]またある国では[英雄王]、[死体の玉座に座せし王]、[大王]……そのどれもが彼のある性格と、行動、常軌を逸した強さから来ている。


「空気が淀んでおるわ…………………」


レクスが魔界の空に手をかざし軽く力を込めると、魔界の空を覆う雲は全て消え去り、魔界全体を照らす紅い月が姿を表した。


「ほぉ、魔界の月とは血の如く紅いのか……………ッハハハハハ!!!」


 彼は、頭を押さえて笑った。


否、嘲笑うという方が正しいだろう。


何故なら、この男は魔界を一人で滅ぼす気でいるのだ。


 紅い月に照らされた魔物達の世界が、同族の赤い鮮血で染まり地獄へと変わる。


その様子が目に浮かび、嗤わずには居られないのだ。


一人で嗤っていると、男の周囲に五匹の幼い子供の悪魔がこちらを見ていた。


「ねぇ、おじさんだぁれ?」


 無邪気に質問をしに躍り出た一匹の子供の悪魔に、男は――。


無慈悲な、手の指による突きで返事を返した。


眼球のあった窪みはさらに陥没し、一本の槍のように鋭く放たれた一撃により、子供の薄い頭蓋骨はそれに貫通し風穴を空けられた。


「……………ふん、貴様に教えてやる道理もないわ」


 男は悪魔に貫通させた手をそのまま持ち上げ、掲げた。


ぷらんと力無く項垂れた四肢、虚空を見つめ、ピクピクと痙攣する目、全てを見せつけるように怯え、そのまま立ちすくむ四匹の子供の前に、男は近付け、その様子を見て嘲笑する。


「助けてぇ!!」


一匹が逃げ出そうとする。


それを見て男は掲げていた悪魔の体をその悪魔に向かって投げつける。


「ひいっ!?」


その体は見事に悪魔の背中に当たり、怯む。


「助け………………て……………くる…ひぃ…いた…ひぃ」


かすれた声で、必死に助けを乞う。まだ子供の悪魔は生きているのだ。


否、あえて”生かされた”のである。


重症を負った子供の悪魔は、逃げようとした個体にしがみつく。


「いっひょに…にげよ…ぉ?」


悪魔はおぶってもらい、逃亡を図った。


「わ、わかった!」


子悪魔を背負い、もう一体の子悪魔はその場から全力で逃げる。


だが、それが無駄だと悟るのはほんの一瞬の事だった。


「おいおい、信じていいのかぁ?」


なんのことだ、構うものかと言わんばかりに走る。


すると、背負っていた仲間はいやに静かになり、気がつけば走っても走っても、自分の下半身だけが向こうに行っている。


すぐ後ろから忌々しい光が身を焦がす。


 仲間の体は、頭部に光の魔力の塊を注入され二段階構造の音の無い時限爆弾と化していたのだ。


痛みを感じず、目の前の意識が薄れていく。


耳を最後に犯していくのは先程まで一緒に遊んでいた仲間、大人の悪魔、魔族のものとおぼしき悲鳴が聞こえてくる。


血で真っ赤に染まる大地の上を、臓物や骸が飛び交っている。


この世の地獄とも言える光景だけが、哀れな子供の悪魔が最期にみたものだった。


「フハハハハ!! おいおい! その程度かお前達魔族とやらは! やはりどこもかしこも雑魚ばかりよ!!」


 しばらくすると男は虐殺を続けながら魔界の初代魔王を称える記念の塔へと歩みを進めていた。


そこに居るのは、魔王の候補者たる“純血なる魔族”のみ。


魔族は、その塔を魔術や戦闘技術を磨くための練習場としていた。


男はそれらを排除するつもりで向かうのだ。


「させるかよぉ!!」


男に飛び蹴りを食らわせる若く、屈強なリザードマン。


しかし、その足は手で軽々受け止められそのまま――握り潰された。


「グァァァ!?」


悲鳴をあげた瞬間、男はその足を握り潰し元の形を完全に崩された足を捻り、千切り、ごみのように投げ捨てた。


「つまらん、勇猛なリザードマンかと思えばこの程度とは」


「おのれぇぇ!!!」


 無理矢理痛みを堪え、携えた斧を全力で大きく振りかぶる。


(目の前の侵略者を叩ききってやる)と。


あらんかぎりの力で真正面から振り落とした。


「くたばれえぇ!!」


一撃を、与えて頭を、割った。


 それは決して奴の頭じゃあない。


自分の頭だ。


「何が……どうなってる…………」


確かに、当たったはず。


それが、なぜ。


 脳天に深くえぐりこまれた斧を抜こうと両手に力を込めていると、男は首に手を当てて答えた。


「ふふふ、簡単。しばらく危なっかしいので物理攻撃を全て倍の威力で反射させる魔術を使ったのだ」


それだけ答えると、リザードマンが目の前で起きた不条理を理解する前に男はリザードマンの長い首に手刀を打ち、命を終わらせた。


「……………この程度か」


 自分よりも巨大な体の、首を無くしたソレのだらんと力無く見せる胸元を掴み、目の前の塔の入り口へと放り投げると、まるでじゅうたんのように体を大の字にさせ床に転がる。


その様をみた男は塔へと入り、自らが生み出した死骸を容赦なく踏み潰し塔の階段を上っていく。


「邪魔くさい…………」


 階段の段差を二段上がったところで、男は腕を組み、段差を思い切り蹴った。


すると、その勢いに任せ跳躍し狭い塔の階段、壁を一気に駆け上がった。



「重力魔法と結界を張っていないとは無用心よな、魔族どもォ!」


 一人、大声で自分の存在を敢えて示すように声を放った。


そして、片腕に魔力をこめ手のひらから弾丸を放つ。


放たれた弾丸の数々は爆発音を響かせ、塔の壁を焼き崩していく。


 その弾丸は、もはや連射される大砲と呼ぶに相応しいほどだった。


弾丸は閃光を放ち、命中したもの全てを破壊していく。


レクスは、塔を駆け上り上級魔族を葬るついでに、内側から破壊する気でいたのである。


「おい、待てよそこのデクの棒」


 声が聞こえた瞬間、男の顔の皮膚を、何かが裂いた。


「……………!?」


 男は階段を五千段下の先にある広間へと降り、自分の頬を撫でた。


そしてその切り傷は、皮膚を裂き、肉を抉っていた。


「……やりよるな、貴様名を名乗れ」


頬を撫でた手に付いた血を握り、己の背後を取った“何か”に語りかける。


「俺か? 俺様の名は………」


「………っておいおい、自己紹介するってのにケツ向けるバカが居るかよ」


 低く、脳を叩くかのような声。


それを聞いて、男は背後をゆっくりと振り向いた。


「………ほう? 貴様、悪魔属か」


 悪魔属の特徴、強さは千差万別、姿も十体十色――統一された特徴はない。


ただ、目の前の者はその悪魔属の中でも、悪魔を知らない人間でも“強大な悪魔”だと感じとらせる強大なオーラを放っていた。


「……フッハハハ…俺様は時期悪魔属魔王――」


 巨大な爪を伸ばし、鋭い目を微笑に歪ませ、地獄の業火の如く燃えるような長髪を、気だるげに片手にかきあげ、名乗りだす。


「ベリアル、魔王の器(ダーク)ベリアルだッ!」


「……………ダーク?………ふはははははは!!! この俺に相応しい相手がようやく現れたという訳だ!」


 ダークとは、魔界の原初より貴族として扱われてきた“純血”の魔族が付ける家名のようなものである。


そして、その名は特に、強大な魔族だということを示している。


各種属の“魔王”の素質があるもの達の証。


「…………雑種どもばかりだと思っていたが、よもやこの時代に生きていようとはな。俺は、お前と会えて嬉しいぞ…?」


 男の顔は、笑みを浮かべる。


「……………俺様もだ、この俺様の舞台を汚してくれた奴を直々にブチのめしたかったんだよッ!」


 獣の如く、爪を立て向かう魔界の王者。


それを素手で受け止めんとする人間の王の姿。


魔界の蹂躙は、今まさに始まったばかりである――。

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