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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
25/25

最終話ー交響ー

 戦を終わらせ、プエルラは各種族から恐れられた。


だが、それと同時に希望の象徴となっていた。


敗北宣言の後の、反抗する本気の魔王を含む全員を前に傷一つつけずに力でねじ伏せたからである。


レクスを超える脅威として。


魔界へ帰ったプエルラは、人間との戦争の終結を大々的に宣言した。


「レクスは、死んだ。しかし余は王として負けたのだ」


この言葉は瞬く間に、魔界を駆け抜けた。


プエルラの持ち帰った、”彼の王の短剣”は、しばらく悪魔属魔王城の城下町に展示された。


当然、プエルラ以外に触れられるものは居なかった。


展示初日に、キマイラはユンガを連れ、延々と自身の口からその短剣と同じものをユンガが引き抜いたのだ、と群がる民衆に自慢していた。


一方、城下町の酒場でルシファーとベリアルの話をベルゼブブはただ笑って聞いていた。


戦争に敗北した。


されど、脅威である人間が消え、強大な魔族が出現した。


魔界中は、凱旋の活気に満ちていた。


――たった、独りを除いて。


賑わう町は、城へこもる自身に、王として失格だという烙印を押しているかの様だった。


どれほど嘆こうとも、魔界で犠牲となった者は戻ってくるはずがない。


プエルラは、城の柱を撫でる。


ひび割れた、その柱に思い浮かべるはかつての記憶。


幼い少女でいられた、あの時。


モノクロに映る記憶をたどり、プエルラは眉間にしわを寄せる。


プエルラは、賑わう町を再び窓越しに眺めた。


戦の跡が刻まれたそこに目を向け、プエルラは決意する。


階段を上り、魔王の謁見の間へゆっくりと進む。


仮面を着け、大きな玉座へ座する。


瞳に浮かぶのは、ひたすらな強さへの渇望だった。


最強と呼ばれるに至ってなお、全てを守り切るにはまだ足らぬ。


魔王――プエルラ・テネブリスは、その日以来自身の全てを変えた。


魔界で頻発する、争いを防ぐために自らが抑止力となり―――暴君を演じた。


魔界の爵位、階級、豊かさに傲り堕落する貴族を罰するために――狂気に身を投じる。


それには、もはや種族の境も無かった。


悪魔属の支配だけでなく、他種族までも完全に支配したのである。


逆らう者は、殺す。


規律を乱すものは、処刑する。


傍若無人にして、残虐非道。


それを実行するだけの力を備えたプエルラは、やがて……人類と魔族、人間界の守護神と伝わる竜すらも殺すだろう種族“禁忌”の一体に数えられるまでとなった。


その恐怖政治は、二万年続いた。


二万年の時が流れてもなお、魔界の姿は変わりなかった。


プエルラが、魔界を守り続けていたのである。


「ユンガ~、あそぼ~!」


テネブリス城に響く、ベルゼブブの声。


ユンガは、ただ壁の近くでぼうっと城の天井を見上げていた。


「ユンガ君どうしたのぉ? ししっ」


羽音を鳴らしながら、ぴょこぴょことユンガの周りを反復横跳びし訊ねる。


「いや……姉様の事でさ」


目をそらしながら、返す一言はどこか無機質さを醸し出していた。


「なに? まぁた家出したの?」


「違うよ…………昔に比べて、すっごく……厳しくなったなって」


ベルゼブブはそれを聞き、口を押えて笑った。


「ししししししっ!! なんでだと思う?」


「なんでだよ」


ベルゼブブは答える。


「……あの子さ、前にも言ったろ。……強さと責任ってものに、呪われているのさ」


ユンガは何かに気付いた様子でうなずいた。


「恐ろしい奴を装って、あの男の真似をして、追いかけて――……あの男があの子にとっての王としての完成形だったんだろうね」


「じゃあ、ベル……僕、姉様を楽にしてあげたいんだ。なんとか、できないかな………」


切実に、震える声を出すユンガをベルゼブブはその場でしゃがみ込み眺めた。


ベルゼブブは、ユンガの腕にある変化があることに気が付いた。


ユンガの腕は、包帯で包まれていたのだ。


「? それなぁに?」 


ベルゼブブが指さすと、ユンガは包帯をほどき始めた。


「あぁ、これ―――姉様の貴族の報告書とかの仕事が楽になるように……念動魔術を練習してたんだけど暴発してばっかでさ」


か細いその腕は、やけどのような傷がびっしりとついていた。


「あと、ちょっと……最近食べてないんだよね」


「ええ……虐待ぃ?」


ベルゼブブは心配した様子でユンガに言った。


「いや、姉様のあの様子ってさ、病気のせいもあるんじゃないかって思って……姉様が寝てるうちは色々魔術の練習をしてて……食べる暇が無かったんだ」


ユンガの笑みは、幸薄き者のそれだった。


「困ったねぇ……じゃ僕が伝えとこうか。プエルラちゃんに”ユンガ君が心配してる”って」


ベルゼブブがプエルラの元へ向かおうとすると、伸ばされた腕がベルゼブブの服の裾を掴んだ。


「待って、言わないで。姉様が心配しちゃうから……」


ベルゼブブは頭を搔った後、眉を顰めながら手を擦る。


「ほんと、お互い大好きなんだね。……お互いの悩みの種になるくらい」


「? 僕が姉様の負担になってるってこと?……確かに、僕は姉様にくらべられないほど無能だけ__」


ユンガが言葉を放つ前に、ベルゼブブは人差し指をユンガの口に持っていった。


「しーっ……そんなことないさ。そんなこと言っちゃいけない。君みたいな頑張り屋さんが、無能なはずないだろ?」


ベルゼブブが背中に手を組み、ユンガからそっぽを向いた。


「腹を割って、一度話し合うことが大事だと思うな。……魔王の器たる、魔神ベルゼブブの命令だ、ししっ」


それだけ言い残すと、ベルゼブブは体を分裂させハエの群れに溶けていった。


「………姉様」


 思えば、長い間ずっと姉様とまともに会話をしていなかった。


顔を見合わせれば、礼をして見送る。


呼ばれれば応じて、命令をこなす。


それだけだった。


 ユンガの足は、階段を駆け上がっていた。


消極的な、ゆっくりとした歩み。


それでも、ユンガにとっては大きな一歩だった。


壇上に置かれた、壊れた古時計はユンガを見守る。


すれ違い様、動かぬはずの古時計の針は、少しだけ動いたかのようにユンガの目に映った。


ユンガは、重い謁見の扉をノックした。


「……姉様、お話があります」


扉越しの、くぐもった声で返される。


「なんだ、処刑した者の総体数ならとっくに知れている。持ち場に直れ、ユンガ」


「違います、少々……お話が」


ユンガの声は、冷たい声に流されかけていた。


「話? さっさとこの場で済ませろ。でなければお前だろうと殺す」


冷淡な声が聞こえたと同時に、扉に何かが複数刺さったような音と衝撃が伝わった。


「ならば、言います__……姉様、少し気を緩めては如何かと」


ユンガの一言は城全体に反響していた。


「……気を緩める? 緩めればどうなるというのだ、愚弟が」


扉越しに伝わるそれは、今すぐに話題を止めろと言わんばかりに低く、より冷たかった。


それでも、ユンガの瞳は、まっすぐと扉に向かっていた。


「ええ、愚弟です。ただ、僕は姉様に楽になっていただきたいのです。……長い間、その毎日を王としての責務に費やされているご様子ですので」


「ほぉ!! 今年一番の冗談だなユンガ! 先ほど殺した道化よりも笑えるわ!!」


発言とは裏腹に、扉の先からは灰色の魔力が漏れ出ており、扉がいよいよ軋み始めた。


「姉様、いい加減にしてください……いつも勝手に自分だけで何か決めて、いつも目の前から消えて……!!」


ユンガは、拳を振るった。


久しく振るう事の無かった、骨ばったその腕はぼろぼろになった扉を壊した。


謁見の間には、魔法陣が壁と床中に隙間なく展開されていた。


「……ユンガ、止せ、来るな!! お前も死ぬぞ!」


「大体、なんなんですかこれ……説明を要求します!」


ユンガはあえてゆっくりと、玉座に近づく。


すると、魔法陣から刃の雨が降り注いだ。


上下左右、縦横無尽に飛び交う刃の雨に打たれながら、ユンガは怯むことなく玉座へ進む。


「やめろ!! もう良い!!」


「……これが、姉様の味わってきた苦痛なんですね。……はは、思えば僕が傷つくことはありませんでしたもんね」


細く小さな体に身に余る程の強烈な魔術。


「姉様の、全て……思っている事を全部話してください!! なんでいつもいつも僕の前から遠ざかっては、消えるんですか!」


ユンガの目から出る、涙。


それは、痛みから来たものではないことを、プエルラは知っていた。


「……ええい!! その前にそこをどけ!! 余はお前まで失いたくない!!」


プエルラは両腕を広げ、魔法陣を消していく。


仮面で塞がれた肌からは、汗が噴き出ていた。


全ての魔法陣を消したころには、ユンガの体は今にも崩れ落ちそうなほどに傷ついていた。


「ユンガぁ!!」


プエルラはユンガの体に抱き着く。


「これくらい、痛くないですよ……へへ、この根競べは僕の勝ちですね」


ユンガの力なく垂れた腕は、返答を嘘だと訴える。


「痛くないはずないだろう!! お前までこの病に罹ったらどうするつもりだったんだ!」


プエルラが必死に叫ぶと、ユンガは優しくプエルラの頭を撫でる。


「それはそれで、いいかもしれません。姉様の気持ちが理解できるならね」


ユンガの、貫き通された、“自分にあり得なかった”ものを前にプエルラは涙を流す。


「……ごめんなさい、ごめんなさい……一方通行過ぎたな……」


仮面が、顔から落ちる。


美しく、宝石のように輝き濡れる瞳が、露わになる。


実に、二万年ぶりの事だった。


「……二人きりで、話しましょうか。そうだ、昔みたいに_談話室で」


片目を瞑り、ユンガはプエルラに笑顔を向ける。


「……しばらく、抱きしめていても良いか? こうしてたい………今は、こうしてたいから……」


誰にも見せない、否、見せられなかった素顔がそこにはあった。


「ふふっ、うまくいったみたいでよかった。……さて、コバエめが覗くのもこれ以上は野暮ってもんかな」


一匹のハエは、そう呟くと窓の隙間から飛んでいった。


「お前を、失いたくなかった。でもそれには強さがどうしても必要だったんだ」


プエルラは、ソファに腰をかけ、隣で横になるユンガにブランケットを被せながら語る。


「……捕食者とも戦ったし、魚人共とも戦った。……キマイラやドラキュラとも戦ったか」


「え!? あの魔王の器を相手に!? うっ……げほっ」


ユンガが思わず興奮し、咳ばむとプエルラは胸をぽんぽんと叩く。


「こらこら、無理するな。……挙句あのレクスも、ベリアルもルシファーも、ダークリザードマンも倒した。でも………」


「真なる強さとは、何かを思い知らされてね。戦いに勝ち、心の在り方で負けたのだ」


そう語るプエルラの瞳は、暗く沈んでいた。


「真なる強さ?」


「そうだ。……あいつは、余の在り方の理想だったのだ」


プエルラの顔が、ユンガを向く。


「そんなあやつの追い求めていたものはなんだったと思う?」


卓上のろうそくにぼんやりと照らされた顔は、夢物語を聞かせんとしているようだった。


「想像もできませんね、人間の考える事なんて」


「なに、目指すものは案外近いものだ」


プエルラは、ため息をつき、口を開いた。


「……世界最強の存在となって、人々をまとめて、世界を統一させる事だとさ」


「それって_」


ユンガは、続きをいう事を躊躇い、ばつの悪い様子でブランケットに顔を埋めた。


「しかも、その続きがあってな。……貧しさを無くして、傷つけに来る敵から愛する人々を守る事だと」


「貧しさを、無くす……」


ユンガは、言葉に反応せざるを得なかった。


ユンガは似たようなことを言っていた、飄々とした二万年前からの知人を思い浮かべた。


「……実際、それを成し遂げたのだからすごい。対して余は、自分の事ばかり考えていた……愚かよな」


「あいつの死を、目の前で見届けた後余は決めたのだ。あやつの様に、自分の理想を実現するために暴君をあえて演じようと」


ただ黙ってプエルラの話を聞くことしかユンガはできなかった。


そして、聞かされたその悉くに悲しみを感じざるを得なかった。


 考えを改めるにも、己を殺すしか道は無く。


守りたいものを守るために、一部を殺すしかなかった為れの果て。


それが、禁忌の存在とさえ称されるプエルラの正体だったのだ。


「辛く、無かったんですか?」


そう言いかけると、プエルラは震えた声ですぐに返した。


「つらくない……といったら、ウソだ」


「本当は、もう魔族を殺したくないし……嫌だ。でもこうしなければ、余を恐れて敵視されなければその矛先はまた敵対している者同士に向く」


「余にできることは、これしかない。故にこうあり続けるしかないのだ」


 “強さ”という呪縛に囚われた、ひび割れた魔界の王冠の主を前に、ユンガはやっと、返した。


「これは、僕の友の話……なんですけどね」


プエルラは頷き、ユンガの背中を撫でた。


「強くて、真面目さんって影響されやすくて弱いんですよ」


プエルラは疑問を浮かべた様子で、無言で小首をかしげた。


「あぁ、誤解しないで。というのも、僕の友……ベルは人間の生活に深くかかわって……畑を肥し、害虫から穀物を守っていたんですよ」


「そのころは、とてもまじめで、自分が絶対にその人たちを守らないと って思ってたんだそう。……そう思えたのも、彼がその人たちを家族だと思っていたから」


「でも……ある時、ありもしない噂が広められて、ベルは悪魔だと罵られ、魔界へ自分から閉じこもった」


「……ベルは、人間が大好きだったんですよ。だから今でも好戦的な三魔神の中でもベルだけは、人間とは戦わない道を選んできた」


「姉様も、他の種族に触れて感化されてそこまで至った。けど、相手が悪すぎた……もっと他に方法があるはずなんです」


ユンガは、プエルラに提案を持ち掛ける。


「もっと、色んな種族を見てまわるべきなんです。……もう戦争はとっくに終わったのですから」


「馬鹿か!? そんな事誰が許す!! ……テネブリス家に汚名を着せる気か?」


プエルラは激昂するが、ユンガは冷静に言う。


「そんなこと、誰が許さないんです?……テネブリス家の未来、魔族の未来を決めるのは、今やあなた自身でしょう?」


ユンガの紅い瞳は、じっとプエルラの顔を見据えていた。


「もっと、その力を活かした別の統治法があってもいいはずなんです。この広い魔界の色んな所へ行き、民を愛せるように。民を家族だと思えるように触れ合って」


「義務的に守らなきゃって思うんじゃなくて、そう心から想えばきっと、あなたの理想に近づくと思うんです」


「……ふっ、お前のそのまっすぐさには敵わんな……あいわかった。明日、余は魔界を出るとしよう」


「しかし、余が居ない間……どうするのだ? ユンガ」


ユンガは力強く、プエルラの前でソファから背中を起こし言った。


「……大丈夫、このユンガ・テネブリスは、誰の弟だと思ってるんですか」


プエルラは微笑み、ユンガの額を軽く小突いた。


「ふっ、馬鹿者。そこは余を超えると言って見せろ」


温かく揺らめく蠟燭は、姉弟の笑顔を照らしていた。


―――魔界の夜に浮かぶ、紫色の雲達は小さなその門出を静かに見守っていた。


城の玄関で、ユンガはプエルラを見送る。


 今度は、しっかりと。


 「次の魔王選挙戦まで七〇年……余は選挙戦の前々日に帰ってくるが……ユンガ、本当に大丈夫か」


プエルラは、革袋を腰に携えユンガの肩に手を置く。


「大丈夫ですよ、あなたが帰ってくるまで、この玉座は僕が守っておきます」


プエルラは息して、懐から短剣を取り出した。


「これを」


その短剣は、あの男が持っていた最後の一本の武器だった。


ユンガに渡す直前に、プエルラは短剣の柄を握り強く念じる。


すると、短剣の黄金の柄は、みるみる内に灰色へと変わった。


「余の魔力を込めておいた、これで触れるだろう」


「何故、これを?」


ユンガは短剣を手に取り訊く。


「……もう、余には用済みの代物だ」


「ユンガ、未来を見据えるお前に――宿敵から受け継いだこれを渡そう。目的へ邁進していたあいつの象徴だ」


それを語る時、停滞していた魔王の歩みは再び進みだしていた。


「真の意味で、王という物を理解し、余はあいつを超える。その短剣は、お前の目的を叶える礎となるだろう」


「ユンガよ――お前の目的は何だ?」


プエルラは、ユンガの瞳をまっすぐに見つめ言った。


「……それは、姉様の役に―――」


「違う、お前自身の夢だ。お前の、夢は何だと聞いている……それとも、これから見つけるというのか?」


微笑み、プエルラは訊ねる。


ユンガは、自分の拳に目を落とし__……プエルラに、穏やかな声色で言った。


「……皆と暮らした、この魔界を、ずっと平和にしていたい…………!」


「なんだ、余と一緒か」


歩む道は違えど、姉弟の目指すものは同じだった。


お互いに、目指すものを語り終えプエルラは、ユンガに背を向ける。


開かれた魔法陣に身を投じるその背中を、ユンガは黙って見届けていった。


過去に囚われた、孤独なる魔王はもうそこには居なかった。


かけがえのないものを、魔王は守ることを誓いながら新たに旅立つ。


 やがて、プエルラ・テネブリスは魔界の全ての種族と出会い、その文化や価値観を知る。


武力による強制的な支配ではない、法と道徳による統治。


それは、戦う事しかできなかった二万年との決別を意味していた。


(力を無暗に、誇示する暴君である必要など、最初から無かったのだ。余に足りなかったのは……)


プエルラ・テネブリスは、旅の末に気付いた。


そして、プエルラ・テネブリスは五十万年の長きに渡り魔界に君臨し続ける事となった。


プエルラの采配によって、魔術学の知識も発展され、反転浸食病・属性治療・そして光の魔術の対処法についての知識が民衆に広まっていく事になった。


これにより、魔族の民はあの戦の傷跡に怯える事無く、日々の営みに戻ることができた。


それだけでなく、プエルラはこれまでの魔界の法を次々と改訂させ、より他種族とのつながりを深く、近づけさせていった。


異種族との婚姻の許可、人間界での殺戮及び暴行行為の禁止、指定された日、場所以外での決闘ならびに戦争行為の禁止……。


どれもが、魔界にとって全く新しいものだった。


しかし、すぐに受け入れられ、魔族の支持を集めた。


魔界では少数派の、争いを好まない種族や、異種族と積極的に関係を持つ種族、そして、人間界に興味を持っていた魔族の声を、反映させていたのである。


魔界史上最強にして、最優だと魔族は口を揃えて言う。


魔王の器達さえも、プエルラに黙って従った。


「跪け、頭が高いぞ、雑種ども」


かつてのその声は、恐怖させる一声だった。


片目の隠れた、長身の巨大な角を生やした黒髪の美しき魔王の声。


「ははっ!!」


しかし、誰もがそこに恐怖する者は居なかった。


翼の生えた者、鹿の角を生やした者、蛇の様な姿をしたもの、足を八本生やした者、筆舌に尽くしがたい程の醜い怪物、巨大なワニの様な者…その場から半径50kmはある距離に居た魔族にすらも声が響き即座にひれ伏す。


魔族らが一度に頭を垂れ、ひれ伏すその様。


魔王を仰ぎ見る、民たち。


城の前の演説場で、プエルラは笑みを浮かべる。


「……姉上、何がおかしいのです」


隣で、長髪の麗しい外見をした青年魔族となった、ユンガが静かな声でいう。


「おかしいのではない、見るが良い、民たちの充足に満ちた……安心した様子を」


「……余にも、できたのだ。 種族を問わず、民を愛することが! だからこその光景よな!これは!」


仮面を、民衆の前でプエルラは握り潰す。


「……告げる! ここにプエルラ法典の発行を記念する塔の完成を! そして見るが良い!! これまで見せなかった我が素顔を!!」


歓声に沸く、魔族の民。


プエルラが片腕を上げると、演説場のあった場所はどんどんと盛り上がり、塔が姿を現す。


その塔は、魔獣属・悪魔属・亜人属・亜竜属・吸血鬼属・幽属・妖精属・海人属………魔界のあらゆる種族の紋章が彫られた円柱の形をしていた。


「ここには、余が調べたあらゆる種族の歴史と文化が詰まっている……言わば、図書館と博物館を兼ねたモノだ。中の本は余が魔界中から集め、ユンガが自動翻訳魔術を開発し込めてくれたのだ」


プエルラは塔の頂上から飛び降りた。


空中で一回転し、プエルラが着地すると再び魔族は声を上げる。


プエルラは、満足げに両腕を広げ、高らかに言った。


「もはや、魔界にすむ者に姿以外の違いは無い!! それを存分に知るのだ、愛すべき隣人たちよ!!」


塔の完成を祝福する言葉、魔王を称賛する言葉の数々は、絶えることなく続いた。


歓声は、魔王と民とが織りなす交響曲。


 しかし、魔王にとってそれは主題ではなく――これからの序曲に過ぎなかった。


魔王は魔界の民と共に、夢へと着実に邁進していくのである。


――――――【孤独なる魔王】完。

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