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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
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二十一話ー終末ー

 魔王達の進軍により、人類の楽園たる大国は、地獄へと変わっていく。


三大都市の内の、最後の一つ、ブロード王国最北端に位置する通称【魔術の園】が、大悪魔によって蹂躙されていた。


 振る雪の、美しい町。


魔術の園に暮らす人々は、保有する魔力が他地域の民の中で随一を誇っている。


それ故、魔術を利用した魔族や敵の襲撃に対する防衛術が発展していた。


が、それらが全く意味をなしていなかった。


町を取り囲む、壁一面に埋め込まれた、一発で直径二〇mの岩石さえも砕く魔術の光弾を放つ大砲。


その壁には、雷の結界魔術が展開されており常に電流を纏っていた。


触れれば、そして魔術の園に仇成せば、死を意味する華やかな都の外見からは想像しがたい徹底された兵器達。


放たれた大砲は、大悪魔とその軍団に降り注ぐ。


どんどんと町へ侵攻していく軍団は怯みはすれど、一匹たりとも潰えていなかった。


「ハハハハハ!!! 豆鉄砲ごときで俺様の軍団が止まるかよ人間どもォ!!」


軍団の中心で、美しくも野蛮さが感じ取れる戦車が走行する。


その車輪は炎を纏って燃えており、その車体には巨大な鎖に繋がれた首輪の双子の天使を模した大砲と、トゲがところどころについていた。


その操縦座席に座り、腕を組んで嗤う大悪魔――――ベリアル。


戦車と軍は突進し、やがて壁に大穴を開けた。


「馬鹿な!! うわあああ!!」


町民たちは逃げ惑い、あるいは失禁し泡を吹いて倒れる者も居た。


入り込んだ悪魔たちは口から火や吹雪、竜巻を吐き、宙へ浮かぶ煌びやかな建物に破壊の限りを尽くしていく。


「オラオラオラァ!!! ちったぁ抵抗しろ! 俺がつまらねぇじゃねぇか!!」


戦車を乗り回し、石で出来た道を荒々しく削り、燃える車輪に付いた炎を周囲に燃え移らせていくベリアル。


「そこまでだ!!」


レイピアを構える兵士達が、戦車の前に瞬時に現れ戦車を取り囲んだ。


「あぁ? お前がこの町の兵士か?」


「そうだ!」


魔術の園では他国の魔術師より高い魔力を持ちながら、剣術に優れた者が兵士に選ばれる。


それ故に、魔術と剣技を合わせた独自の戦術を繰り出す――。


「フレイム・キャリバー!!」


「アイシクル・ソーサー!」


「スプラッシュ・ニードル!!」


兵士は各々の持つレイピアに炎や水、氷を纏わせ突き、横一文字に切りつけ、もしくは縦に切りかかる。


 三属性の攻撃を繰り出す兵士の戦い方は、まさに宿敵のそれを想起させた。


滝の流水の如き刺突。


氷山の切っ先を振るうが如き斬撃。


炎の揺らめきの如き切断。


攻撃は、ベリアルの体に命中していく。


しかし――――。


「……おいおい、この程度が全力かよ」


ベリアルの傷は、みるみるうちに塞がっていった。


魔族の再生力を、目の前で思い知らされた兵士たちはすくんでいった。


「いいか、魔術っつーのは、こういうのを言うんだぜ」


ベリアルは、肉の残る片腕に黒い稲妻を纏わせ戦車の座席から立ち上がる。


すると、腕の筋肉は怒張し、戦車はベリアルの足元から地面に沈むように消えていった。


ベリアルの口からは、腕からの稲妻と似たものが黒煙と共に溢れていく。


魔術師でもある兵士たちはその場で身構え、魔法陣の盾を展開した。


「何か来るぞ!!」


「“暴虐を、邪智で律し、堕ちる者を私は待つ。楽園には過ぎた私に和解は永久に無く__」


詠唱 の声は、嵐の前触れのように。


怒張した腕を冷たい片腕でさすりながら、ベリアルは鋭い目で兵士に寄る。


「知るだろう、不要なるものの行く末を。恐れるだろう、その者の悪徳を――”」


「ッ!!! 逃げ」


兵士の一人が背を向いた瞬間。


「|不要なる者の呻き《ベ リ ア ル ・ ル ジ ア》」


詠唱が終わると、ベリアルの腕から、巨大な黒い稲妻をまとった竜巻が現れ、自軍以外の全てを飲み込み、切り裂いていった。


竜巻が消える頃、雪と魔術に包まれた幻想的なその町は、幻想へと消え更地となっていた。


「……遊びすぎたか、ケッ。 集合場所へは……そう遠くねぇな。早くしねぇと、一番槍が二番槍になっちまう」


悪魔の軍団は、南へと向かった。


「下らん」


 王国の中で部族の文化が残る、森林の集落で、ダークリザードマンは槍を振るっていた。


城下町から西へ約七千八百kmの森である。


「魔族を討て! 族長を守るのだ!」


頭に、人間の歯をならべた冠を被り、獣の頭蓋骨をつなげた棒を持った部族の兵士が木々の隙間から飛び掛かる。


しかし、一瞬で己に飛び掛かる兵を真っ二つにしていく。


木の上の兵達は矢を放ち、ダークリザードマンの首を狙う。


矢は、まっすぐダークリザードマンの首へ飛んでいった。


「うげぇ!!?」


敵の首を狙ったはずの矢は、瞬きをしているうちに兵の首を勢いよく貫いていた。


ダークリザードマンが、槍で弾き返しているのである。


「もういい、貴様らは私の槍の練習相手にもならん」


ダークリザードマンが東へ向かおうとすると、部族兵が五人で背後に襲い掛かる。


刹那、ダークリザードマンが振り向くことなく兵士は細切れの肉片と化した。


木々を切り倒しながら、黙々と進みゆく人ならざる者の背中に、兵士の一人は呟く。


「…………悪魔だ」


その言葉に、ダークリザードマンはやっと兵士に目を合わせ口を開いた。


「悪魔? そのような低俗なものに括るな」


ダークリザードマンの瞳と槍は、そう呟く者を捉えた。


蛇に冷たく睨まれた蛙は、何もする事無く、呑まれ朽ちていった。


生態系の頂点であるその身は、逃げ惑う餌に過ぎぬ者の全てを捕らえ、闊歩する。


槍の振るわれる音と、木の悲鳴、鳥の喧騒が人間達への警告かの様にその場に響いていった。


 そして、王国の城下町――魔王達とその軍隊は、平和で広大なその町を戦場へと変えていた。


「待っていたぞ、待ちわびていたぞ!!」


魔獣の王は雄たけびを上げ、本来の姿を開放させる。


キマイラが建物を崩し、人間を喰らい血に染め上げる。


「お父さん……お母さん……」


鍵のしまった家の中からは、子供の怯える声が聞こえていた。


だが、魔族の前では鍵など無意味。


剣を持った、醜い悪魔が扉を蹴り破った。


「おっと、人間の家ってもろいんだなぁ? てめーらみてぇだ!」


舌なめずりをしながら迫っていく悪魔。


悪魔を前に子供は頭を抱え目を瞑ると、悪魔の体を銀の剣が貫いていた。


「ここは危ない!城の中へ逃げるんだ!」


子供を助けたのは、銀の兵装に身を包んだ兵士だった。


家の外は、様々な怪物たちと銀の鎧と剣を持った兵士が、燃え盛る町の中悪戦苦闘していた。


子供は、兵士に城へ連れていかれ保護されていった。


「ググ、コイツラナンナンダ!」


魔獣属が額を切りつけられ言う。


「我らが王が、あらかじめ用意していたのさ……魔族への対抗手段をな!」


兵士は剣を振り下ろす。


すると、魔獣属の頭を豆腐の様に切り裂いた。


 銀は、脆くとても兵装に使えるものではない。


しかし、魔族に対してのみ強力な、魔族の攻撃全てを防ぐ防具となり、魔族を討つ武器となる。


それは伝説で伝わっていれど本格的に導入されているのは、城下町の兵士だけだった。


 思いがけない対策により、魔族の集団は再生を封じられながら次々と倒されていく。


道は、数多の魔族の死体と兵士の死体で埋め着くされ、もはやどの種族だったかさえ判別がつかなくなっていた。


「怯むな!! 王国の為にいい!!」


燃え盛る魔族の死体を前に、王国兵の士気は上がりどんどんと両者の死体を増やしていく。


「たかが人間どもだ! やれやれ!!」


羽の生えたリザードマンがそう言いながら特攻をしかける。


鎧兜で覆われていない、関節と目を狙い兵士を倒す魔族。


その中で、静寂のままに、傷つくことなく淡々と城へ向かう姿があった。


向かうその者の歩いた後には、兵士の死体だけが残されている。


「あの仮面の奴、弱そうじゃねえか! そらよ!!」


その姿よりも大きい兵士は躍りかかり銀の斧を振り下ろす。


すると、斧は兵士の頭を割っていた。


状況の理解が追いつかないまま、若い兵士は割られ亀裂の入った銀の兜から血を吹き出し、その場で倒れた。


刺さっていたのは、兵士の手に持っていた斧。


「跪け、頭が高いわ」


足元で、無様な顔を晒す兵士に言い放ち、着々と城へと歩んでいく。


目に映る全ての人間に、手に持つ武器を撃ち、人間の背中と腹で出来た道をたった独りで踏み抜き進むプエルラ。


いよいよ、歩みは城の門までやってきた。


目の前には、二人の兵士と魔術師が立ちふさがっていた。


「おやおやおや、お嬢ちゃん。……迷子かなぁ!?」


兵士がそう言った瞬間、プエルラは兵士の前で手のひらを見せる。


すると、二人の兵士の鎧は粉々に弾け飛び、その欠片が弾丸となって魔術師と兵士の頭上に降り注いだ。


音速を超える、神速に等しい速度で発射される弾丸は、人間の体に風穴を開けては刺繍を施す針の様に戻って行き再び別の場所へ穴をあける。


息絶えるのを目で確認すると、プエルラは門を魔術で解体し、周囲に浮かばせ――城へ飛ばした。


鉄柱と化した、門の形をしていたそれは眼前の巨大な城へ穿たれる。


轟音と共に外壁が崩壊していくと、城へ立てこもる人間達の悲鳴が聞こえてくる。


しばらくすると、城の窓から銃を構える兵士が顔を覗かせる。


無数の銀の弾丸がプエルラに襲い掛かる。


が、弾丸の軌道はプエルラから反れ、地面に転がっていた。


「どういう事だ!? あいつに弾が当たらないぞ!?」


驚愕しつつ、兵士達は弾を撃つ。


プエルラは気にも止めず城の扉に、手をかざす。


すると、扉は、突風に晒されたかの様に奥へと吹き飛び、バラバラに砕け散っていった。


「入ってきたぞ!! 食い止めるんだ!!」


兵士達は剣を構え、プエルラへ決死の突撃を仕掛ける。


プエルラの周囲を円形に取り囲む兵士達の陣形は、人数としても、誰が見ようと如何なる強者であれど討ち取られる事が明らかなように見えるものだった。


奥へ見える謁見の間に繋がる、階段の壇上には杖を構える魔術師が横一列に並んでいた。


プエルラは、真正面に腕を伸ばし、手を握り力強く言った。


「退け、無能なる肉片ども」


放たれる光弾と、銀の刃の数々がプエルラの体を容赦なく狙う――…………。


「王よ! どうかお気を確かに!!」


 堅く、堅く閉ざされた謁見の間で、血を吐き銀の片足を鳴らしながら、王は自身の家臣に歩みを止められていた。


「煩い!! 我が国と民の危機なのだ……ここで出んで何が勇者だ……英雄だッ!!!」


レクスの、数名の兵士に羽交い絞めにされたその肉体は、到底戦えるとは思えぬ容態だった。


全身、連戦による傷は化膿しただれており、もはや魔術師や医師の治療では治る見込みは無かった。


顔から首にかけては血管が浮き出て、目の下にはどす黒い隈が現れている。


「もう、いいのです……レクス様…………此度の戦ばかりは……」


兵士が、虚ろな目をレクスへ向けた瞬間、レクスは兵士の体を突き飛ばした。


「黙れェ!! 魔族との戦を激化させたのはこの俺だ!! ……ならば!!」


レクスは、懐から短剣を取り出す。


煌びやかな―――魔界の怪物を葬った宝剣。


それは、人間界に残された、たった一本の短剣だった。


「もはや時間はあるまい!! 扉を壊してでも行くぞ俺は!!」


レクスは、短剣を握りしめ、共に扉へ飛び込んだ。


 痛み等、俺には無い。


勇猛なる戦士であり続ける他に、追い詰められたレクスに道は無かった。


 突進し、閂ごとレクスは扉を破壊し、階段を飛び越え――――。


 仮面の魔王に、短剣を振り下ろした。


仮面の魔王は、それを躱した。


「……はぁ、はぁ……貴様が誰かは知らないが、俺の国は魔族に滅ぼさせはせんぞ!!……ぐぶっ!」


肺から押し寄せる、真っ赤な液を口で拭い、レクスは仮面の魔王を睨む。


「…………この時を待っていたぞ……“勇者”よ」


魔王の外套から、灰色のオーラが放たれる。


そして、魔王は仮面を外した。


レクスは、その素顔に思わず目を丸くする。


見覚えのある、確実に葬ったはずの魔族の少女が、目の前で兵士の死体に囲まれ立っていたのである。


「余を、覚えているかッ――?!」


(これは、悪夢か……!?)


レクスの手が震える。


魔王の歯が剝きだされる。


魔王は、ゆっくりと兵士の死体を踏みつぶしながらレクスに寄る。


「……どうして」


魔王が呟くと、魔王は片腕を上げ、兵士の死体を浮かべる。


そして、死体の鎧によって圧迫され、すりつぶされ鋭利な刃の形を形成した。


「……貴様の名前は知らないが、貴様らから始めた長きにわたる戦が激化しただけだ。……運が悪かったな、俺の怒りを買わなければこうならなかったはずなのにな」


あえて、レクスは笑った。


その言葉を聞き、魔王は人間の刃を放つ。


刃は、首、胸、頭部を集中的に狙っていった。


それをレクスは短剣で弾き、あるいは躱した。


ほぼ距離の無い、至近距離で振られる短剣は、攻撃と防御を兼ねていた。


「……終わりだ、“勇者”よ。我が名を教えよう」


魔王が外套を脱ぐ。


すかさず、レクスは短剣を振り魔王を捉えんとした。


裂いていたのは、黒い外套だけだった。


視界から外套が地面に落ち、消えると魔王は――。


玄関の入り口で、白い傷だらけの腹を出した軽装で、白い大剣を持ちレクスを睨んでいた。


外界からの後光に照らされた、純白と評するに相応しいその肌は、おぞましい程の返り血に染められていた


外套を脱ぎ、哀れにも見えるはずのその姿は、威圧と神々しさに満ちていた。


それは、もはや大魔王と呼ぶにふさわしい威厳に満ちていた。


レクスは短剣を構える。


が、構えるには遅すぎた。


否。


今の魔王の一撃を防ぐことは、何者にも不可能であったことだろう。


神速を超える、漆黒を纏った、白銀の一閃。


それは、レクスの短剣を持った腕を斬り飛ばしていた。


全てを覆う闇、


全てを照らす光、


どちらにも為り損なった、その双方が入り混じった為れの果ての放った一撃は何よりも速く、重く。


レクスは、魔術を展開しようとした。


魔術を放つための腕すらも、魔王の大剣は粉微塵に切り裂いた。


切断された個所は、黒と白が混じり灰色の液を噴出していた。


そして、レクスの義足を魔王が踏み砕いた。


視界は地面へと落ちる。


「跪け、我が名はプエルラ・テネブリス……」


プエルラと名乗る魔王は、レクスの頭を踏みながら、手に持った大剣を容赦なくレクスの背中に突き刺した。


「―――――貴様の、敵だ」


魔王は、レクスの顔に蹴りを入れた後、魔法陣を周囲に展開した。


レクスの脳内に、敗北の文字が走馬灯と共によぎった。


 プエルラは、静寂をまとい、されど激情のままに人間を蹴散らす。


内に秘めたる魔力は、底尽きる事を知らず。


むしろ、プエルラが憎悪をむき出す程に、魔力は増幅されていった。


それと同時に、自身も気づかぬうちに、召喚魔術は凄まじい速度で独自の魔術へと昇華されていた。


テネブリス家の、全盛期の武器を召喚する魔術は、己の目にする金属を召喚・操作し、テネブリス家の武器と融合させる魔術へと形を変えていた。


魔術を用い、傷つく事無く兵士を倒していく。


そうしていると、やがて_宿敵との再開を果たした。


獣の様に襲い来る宿敵。


だが、その姿は以前見たものよりも――傷が深く刻まれていた。


 そんな事は問題ではなかった。


プエルラは、人間の王を、勇者を前に、より強く魔力を開放させる。


「…………この時を待っていたぞ……“勇者”よ」


無意識に出た言葉は、再会を望み、呪う声で放たれていた。


外套から、魔力が漏れ出す。


体内の属性を調節する役割を担っていた仮面は、今の”己が身を喰らう病すらも己の物とした”プエルラには不要の品と化していた。


 元の、少女の人格はもう居ない。


貴様が殺した、この“亡骸”の姿を見るが良い。


 心の中で唱え、レクスに迫る。


「余を、覚えているかッ―――?!」


レクスの顔を前にし、プエルラは負の感情と共に押し寄せる記憶に、脳を焼き尽くす。


「……どうして」


言の葉は、叫びを通り越した、静かなものだった。


レクスは、あの時と同じように言う。


「……貴様の名前は知らないが、貴様らから始めた長きにわたる戦が激化しただけだ」


その変わらぬ態度は、プエルラの全身を奮わせた。


連撃を繰り出し、プエルラは行動できるだけの体力を削いでいく。


レクスの息と鼓動が、一定のリズムから外れ始める。


プエルラは、外套を目の前で脱ぎレクスの視界を一瞬だけ、奪う。


瞬間移動魔法を使うことなく、プエルラは脚力だけで後退し灰色の魔法陣から、銀の大剣を取り出す。


それは、かつて魔王を、人間が初めて討ち取った際に使われた物だった。


闇に生まれ、光の傷を負い混沌を孕んだその身に、光も闇も無かった。


 例え銀で出来た武器であろうと、扱える。


(――お前たちの過去の希望で、お前たちが育てた怪物この余によって敗れるが良い。)


 プエルラの放つ斬撃。


ルシファー以上の魔力を以て制御し


ベリアル以上の攻撃力で叩きこみ


ベルゼブブ以上の速度をまとい


そして―――テネブリス家の全てを超えてプエルラはレクスを圧倒した。


 プエルラは、ひれ伏す宿敵を前に名を名乗る。


宿敵は、ただ傷の孔という孔から血を垂れ流していた。


プエルラは、片腕を上げる。


すると、城全体が震えだした。


「己が築き上げた全てが、一瞬にして奪われるのを見ているが良い」


 大剣は、レクスの肉体を突き抜け、城の床に深く刺さっていた。


それは下半身が動けないまま、致命傷にならない箇所だった。


レクスが外を割れた窓から覗くと、爆炎と黒い稲妻が町を包み込んでいた。


「……築き上げた全て、か……」


「そうだ、広大な一大陸を支配した、貴様の国はこれで終わる。そして、この長き戦いも終わるのだ」


レクスは、笑みを浮かべる。


「何がおかしい!! 無力なままに、お前はここで死ぬのだぞ!? 全部が無くなるのだぞ!?」


レクスは、一本の足を震えさせ、もがきながら答えた。


「……いや、思えば築き上げたのはこの城とたかが大陸の支配だけかと……我ながら、築き上げた物が小さすぎて笑ってしまってね」


 プエルラは片腕を下ろす。


「…………何故だ!? お前の敗北は確定だ! これから我が軍団が蹂躙の限りを尽くす! 全てが終わるんだぞ!」


プエルラは、理解できないまま額に汗を流す。


「……魔王よ、問おう。 お前は何を守れた?」


「お前も王なんだろう? ……民は守れていたか? この戦で得たものはあったか?……」


レクスの言葉に、プエルラは凍り付く。


己の手を、プエルラは見た。


プエルラは、ただ沈黙した。


「もういい、貴様をここで殺す」


プエルラは魔法陣を出現させようとする。


しかし、魔法陣は現れなかった。


――生成させられなかったのだ。


「俺が、目指したものを語ろうか……幼き魔王よ」


「これを聞いた後に、避難させた民の居場所を教えるが……ハハハハハ、だんだんと頭がぼうっとしてきた。さぁ、近くへよれ」


 血にまみれた、王に魔王は寄る。


それは、好奇からか、あるいは哀れみからか。


そして、レクスが息絶えた頃、プエルラは城から姿を現した。


「静まれ!!」


プエルラは、魔の軍団に言った。


「我が、同盟軍は―此度の戦争に敗北を……喫した」


仮面に隠された眼は、腫れていた。


 思えば、自分に守れたものはあったろうか。


あの男も、悔しかったのだろう。


生まれながらに、強さを持ちながらも大切なものを守れなかった。


あの男と、自分は同じだ。


生まれも、種族も違えど、本質は同じ。


だが_王として、あの男が勝っていた。


戦争に勝利した。


しかし、それでは納得がいかない。


いかせない何かが、自分の心に巣食っていた。


敗北宣言。


 それが、最期の瞬間まで、民を守り死した王へ捧ぐ、自分にできる最大の冥福の祈り敬意だった。


民を愛し民に愛された王。


結局自分の事しか頭になかった、魔王とは名ばかりの稚拙な魔族。


魔界へ帰った時、もし彼の王が健在であれば自分をこう呼び、罵るだろう。


―――「孤独なる魔王」と。

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