十九話ー転生ー
叢雲に閉ざされた空。
周囲から漂うは雨の湿った匂いに交じる仄かな血の匂い。
そこは、吸血鬼属の魔王が領域。
魔界の一端、ドラキュラ城である。
城の中の二階の部屋には、真っ赤なカーペットの上に置かれた豪華な造形の椅子と円卓。
そこが会議室――――――中にいるのは、復讐に燃える魔王達だった。
羽をもがれた悪魔。
腕と眼を奪われた悪魔。
腹を貫かれた亜竜。
「さて、そろそろ来るかね」
ルシファーが言うと、隣の席に座るベリアルが返した。
「いや、状況が動くにも気が早すぎだ。……嬢ちゃんが、賢い決断をしてくれるといいが」
ベリアルは裂かれた片方の頬のあった奥歯を爪でなぞり、何かに思いふけった様子でそこから音を鳴らしていた。
数分後、会議室の扉を開ける影が魔王の器達の前で姿を現した。
「待たせたな、来たぞ……期待のこいつが」
その影の主はキマイラだった。
そして、その背後にいるのは現悪魔属魔王。
「……私の思った通りだね。初めまして、ミス・テネブリス」
ルシファーは手を組みながら、プエルラに微笑みかけた。
微笑みかけられたプエルラの顔は、少し緩ませていた。
「……こんにちは。あなたが有名な……ダーク・ルシファー?」
プエルラは小首をかしげながらルシファーに聞くと、ルシファーは頬杖をつき、片手の指先を卓上に円を描きながら答えた。
「そうとも、混沌たる原初の魔界を生きた魔神の一体……魔王の器だよ。まぁ君にとってはただのおじいさんかもね」
ルシファーがそう答えると、プエルラは周囲を見渡した。
「……そういえば他の魔王達は?」
その場に居合わせているのは、悪魔属の魔王の器、亜竜属の魔王、魔獣属の魔王。
その他の種族が、欠けていたのだ。
「ふむ、妖精属は相変わらずの姿勢、我関せずだよ。亜人属の魔王……ダーク・ミノタウロスは再起不能だし、幽属はそもそもからして現魔王が消息不明……いや、生きているのかもしれないが……まぁいい」
ルシファーはそう言いながら左隣の席を見つめ、続けて言う。
「吸血鬼属の王は人間界へ侵攻の下準備をしているところでね、我々は君の返事を待つと同時に彼の帰りを待っていたのさ」
「喜べ、その齢でこの会合へ参加し……我らと共に戦えることを」
キマイラが背を王たちの居るテーブルに向け、プエルラに言うと、テーブルに尻尾を叩きつけた。
「愉しくなりそうだな、貴君ら」
濁りきった灰色のオーラに塗れ、牙をむき出すプエルラ。
オーラが現れると同時に数舜前の人格は塗りつぶされる。
その様を見て、無言でいたダークリザードマンが閉じた口先から舌を見せながら唸った。
「こいつは、あまり信用しない方が良いだろう……」
リザードマンは席を離れ、椅子にたてかけていた槍を持ちプエルラに近づいた。
「……貴様、一体“何者”だ」
槍の矛先は、プエルラの首元に。
「………トカゲ風情に名乗る名は無い」
そう答える、仮面から放たれるプエルラの眼光は、研ぎ澄まされた刃の如く威圧に満ち溢れていた。
ダークリザードマンの面持ちは変わらず。
しかし、槍を持つその腕は震えていた。
(何故……?この私が……震えているだと……?亜竜属の魔王たる私にこいつ……)
受け取った威圧に思考巡らせていた次の瞬間。
「武器を向けるなら、殺す気でいろ」
ダークリザードマンの片手に持っていた槍は、その手から離れ弾丸の様に放射線を描き“本来の持ち主”の脇をすり抜け壁へ撃たれ、 停止した。
「魔族の武人の鏡である亜竜属の魔王が、小悪魔さえ殺せぬとはな」
対して、プエルラは不動だった。
一部始終を見ていた二体の悪魔は、席を離れ引き寄せられるようにプエルラに近寄っていく。
そして、プエルラの前で跪いた。
「何をしている?」
直立しているダークリザードマンの隣でキマイラは小首をかしげて問うた。
「おい、ちったぁリスペクトした方がいいぜ……こいつは、もう“少女プエルラ”じゃあねぇ」
ベリアルが微笑みに頬を歪ませ、キマイラに目を合わせる。
「テネブリス家の……魔王だ」
プエルラの前で、その膝元に崩れる魔神達の姿は、魔獣の王に勝利を確信させ、亜竜の王に畏怖を抱かせる。
「この状況、懐かしいではないか」
キマイラが腕を組み、笑みをたたえる。
「テネブリスの一族は、衰退したわけじゃなさそうだな」
キマイラの笑みに、ベリアルが返した。
城の外から届く鴉達の声は正に、新たな魔王の降臨に、そして魔王らの再起に贈られる讃美歌。
もはや、止めんとせん者はねじ伏せるのみと言わんばかりであった。
一方、魔界からの魔の手が浸食しつつある地上界。
ブロード王国領土、孤島“オルガフガ島”。
そこは、西の領土本土から離れた島。
島を治めているのは、島の二割を占める程の巨大な城の城主だった。
「あそこが、オルガフガ卿のいらっしゃるお城です」
島の森林を歩き、貴族の男に案内する村の兵士達は、遠くから屋根の見える城を指さして言った。
「ほう、私の城の方が美しいな」
そう呟くのは、ドラキュラ。
森の中を一行が歩いていると、一行の足は城の入り口へ着いていた。
城の前には、二人の門番がおり、傍らには松明が灯されていた。
「ドラキュラ公……」
不安げに、案内していたマントの兵士がドラキュラを呼ぶ。
「どうした? 何、少しばかり話を持ち掛けるだけだ。王を支持するなら後ほど討つ。同士なら加え入れるだけ」
微笑み、どこか自信に満ちた様子でドラキュラは語った。
しかし、マントの兵士は首を横に振り、冷や汗を見せて言った。
「違います、実を言うとここら一帯は村長以外、立ち入り禁止区域となっているのです……逆らえば、罰せられ……その、我々の暮らしが……」
そう言うと、ドラキュラは少し考える素振りを見せた後、マントの兵士とその後ろに続く兵士たちに言った。
「良い、案内ご苦労だった。ここからは私一人で交渉に向かおう、お前たちは森の中で待っていなさい」
「……すみません、ドラキュラ公」
ドラキュラが城へ向かった姿を見届けると、兵士達は引き下がり森の中へ戻って行った。
「むっ! このような時間に何奴だ!!」
城の玄関前で兵が槍を構え、ドラキュラを睨みつける。
ドラキュラは依然として、堂々としたいでたちで兵に歩み寄った。
「突然の来訪、失礼するぞ。私はブロード王国、ワラキアの公爵ドラキュラだ」
いまや、存在しない土地の名を口にし語る。
しかし、兵士たちはしばしの沈黙の後、二人の門番は目を合わせて頷いた。
衣服と、腰に下げた杖の造形は明らかにブロード王国の、それも城下町で普及しているそれだったからである。
「はっ」
兵士たちが敬礼すると、巨大な門は自動的に開き、その奥の庭の正面の扉が連動するかの様に開いた。
「ほう、魔術に心得がある様子」
ドラキュラは奥へと進んでいった。
城の天井には、蝋燭を灯したシャンデリアが吊られており、真正面には黄金でできた壺が、虎のじゅうたんの上に乗せられていた。
そして、その壁には髪の長い、金髪の壮年の男の肖像画が立てかけられていた。
(どうやら、厳格そうな見た目に反して趣味には忠実なようだな、気持ちは解るぞ。)
心の中で呟いていた瞬間、低い男の声が城内に響いた。
「身分を偽り、素性を隠して悲劇のヒールごっこは楽しかったか? 魔の者よ」
声が聞こえると同時にドラキュラは周囲を見渡すが、どこにも男の姿は無い。
「何を企んでいるかは存ぜぬが、吾輩の土地へあがりこむとはいい度胸ではないかなぁ? 吸血鬼」
「何を言って―――ッ!!?」
男は、ドラキュラの背後に回っていた。
自身の背中に、金髪を外套の様に長くなびかせた長身の、紫色のローブに身を包んだ壮年の男。
肖像画に描かれていた人物だった。
「吾輩こそが、オルガフガ侯爵である。ここに来たことにまずは祝福を以て返そうか」
名乗ると、距離を取ったドラキュラにゆっくりと近づいた。
「貴様……何故俺が吸血鬼だと!?」
侯爵は、笑みを浮かべて答えた。
「まず、扉が自動で開くことに違和感を覚えなかったかね? あれは人間であれば反応せず普通の扉として機能するが、魔族が通ればあの通りという訳だ」
「それと……君はあのシャンデリアに映っていないじゃあないか」
ドラキュラは上を見上げる。
美しいガラスでできたシャンデリアは、確かに自分以外の下の全てを映し出していた。
「……終わりだ、吸血鬼。吾輩が相手だったことを恨むが良い」
侯爵が握りこぶしを作り、手を広げると掌からの何かが侯爵の前髪を乱れさせた。
「折角だ、吾輩の得意とする魔術について教えよう、吾輩の得意は風と炎だ」
侯爵が片腕を構え、ドラキュラに向けると侯爵の掌から炎を纏った竜巻が現れドラキュラに襲い掛かる。
「くっ!!」
ドラキュラは姿をコウモリの大群へと変え、素早く身をかわした。
すると、侯爵は両腕を交差させ、勢いよく振った。
「逃がすものか、害獣めが」
両腕からは、十字の炎が飛ばされた。
「詠唱もなしにこうも連発するだと!?」
本来、魔術は魔力のある者の各々が考え、編み出したものを具体的にイメージするため、詠唱や杖といった物的なイメージの補助を必要とする。
具体的なイメージを、強固にすればするほどに威力が増し、それを実現させるためのエネルギーである魔力もそれに伴い大量に消費される。
しかし、高位の魔族であれば詠唱、魔術の名を呼ばずに扱うことが可能であるが__人間がすることは極めて稀である。
「ぬぁああ!!!」
十字の炎は、コウモリとなったドラキュラの身を熱く焦がした。
ごうごうと煙を吹き上げ、熱さに悶えるコウモリの大群に、侯爵は容赦なく次の魔術を放とうとしていた。
「熱かろう、これで冷やしてやろう」
侯爵が人差し指でコウモリの大群をとらえると、指先から突風が放たれる。
突風は虎のじゅうたんを引きはがし、次々と 壺を壁に叩きつけ割って行った。
ドラキュラは体制を整え、人型に戻り両手足を広げて身構えた。
思い切り、足を踏みしめ踏ん張るドラキュラ。
しかし、それが意味をなさない程に突風の威力は絶大であった。
「……なるほど、魔術師として非常に優れているようだな?」
ドラキュラは背中から羽を広げ、爪を伸ばし、本来の姿へと戻っていく。
「それが貴様の正体か、いよいよ本気というわけだ。しかし_」
侯爵が次なる魔術を繰り出そうとした刹那。
ドラキュラの爪が、侯爵の体を引き裂いた。
「……他愛もない、少しは部下の兵士に近接戦の稽古をつけてもらうべきだったな」
侯爵は、自身の体に刻まれた縦の四本線に手を置き、それを眺めた。
手を置いたところで塞がらぬ痕に、湧き水の様に流れ出る生暖かな液体が侯爵の命を削り取っていく。
「貴様……殺してやる……この吾輩にぃ!!」
「喋るな、私の食事が無くなるだろう」
噴き出していく命の液体を前に、ドラキュラは侯爵の前で鋭い牙を光らせる。
「まさか、吾輩を食い殺す気か!」
赤色の中に混じる透明は、侯爵の焦りを意味していた。
ゆっくりと革靴を響かせ、迫りくる吸血鬼属の王を前に侯爵は転移魔法を発動させようとする。
(王国に応援要請を……いや待て、今ここでやったところで島の民はどうなる? 部隊を用意し応急処置を施してもらったとしてもそれまでに時間がかかる。話が通じるとも思えん。ならば__!)
巡る思いの果てに、侯爵は決意した様子で震える手から魔法陣を展開し、炎を繰り出した。
「魔の糧となって果てる位なら、今ここで貴様と死のう!!」
炎は、みるみるうちに肥大化していく。
かすれた、それでいて力強い声で侯爵は詠唱を始める。
「“我が名は焔、炎竜の怒りの化身也。我が体は風、風竜の加護の具現也。されど我が四肢は――」
詠唱と共に、炎は赤色から青へと変色し、やがて白色の球体へと変わっていった。
詠唱によって、脳内から魔術のイメージをより増強させ、発現させる。
魔術師にとって、本気の魔術を行使する瞬間であった。
ドラキュラは、白色の、もはや弾丸とは呼べぬ程の大きさの球体を見て片目を瞑る。
「眩しいな、いつぶりだろうかね……ここまでの“ひかり”は」
「我が四肢は、大地と共にありけり。――――――……吹き飛べ!爆裂焼閃光極炎!!」
声が聞こえなくなると、城の中は眩い光が全てを隠す。
白色に包まれ、後になって高周波の音がやってくる。
そして、音の置き土産かのようにその場の全てを焼き尽くしていった。
時間にして、約二分間。
その場全ての実体が、だんだんと姿を現していく頃、城の全ては蒼炎を纏っていた。
全てが燃え上がっていく中、ドラキュラは――口を真っ赤に染め、侯爵の体を両腕に抱えていた。
蒼炎は、やがて橙へ、橙は黒煙をあげながら、消滅していった。
主の“人としての全て”に別れを告げるかのように。
「闇は、あらゆるものを包み込む。もし、あそこで俺が闇魔術を使っていなければ確実に散り散りになっていたことだろう」
動かなくなった、城の主に語りかけるドラキュラ。
侯爵の腹から吹き出る血液を貪り、眉をひそめ思いを馳せる。
誰しもが寝静まり、城主の居ない城の中で水音を響かせていると、玄関から金属音が鳴った。
「この怪物め! オルガフガ卿に何をした!!」
城の門番兵だった。
ドラキュラは、破けた王国の衣装を脱ぎ、自身の故国の装束のポケットからハンカチを取り出し、口許を拭く。
生焼けの牛肉の塊で会食を済ませた、貴族のように。
「? 何、紳士の社交場でそう騒ぎ立てるな」
城主の体を、ドラキュラは片腕で投げ捨て背後の武装する兵士に向かう。
「会食をしていただけだよ、君らもいかがかな」
あくまで紳士的に振る舞い、手を差し伸べる。
当然、断り兵士たちはドラキュラの首元に槍を突き立てる。
「黙れ!! 貴様などオルガフガ卿の力を以てすれば!!」
「わっはははは!! 俺の国にはお前たちのような奴はいなかったぞ、そこらへんをよく見てみよ!」
笑って、兵士に返すと兵士たちは周囲を見る。
暗闇に隠れ、うっすらと人の形をした何かが兵士たちの目に入った。
その様子をみて、ドラキュラはくすくすと嗤う。
「!? オルガフガ卿じゃあないか!?」
一人が正体に気付き、もう一人はドラキュラの喉仏に切っ先を向ける。
オルガフガ卿の体に兵士が触れたその時。
侯爵の体が、冷たくなっている事に気付く。
「さぁ、侯爵に捧げた身ならばその体を脱ぎ捨て、仕えてみよ」
鉄でできた槍を、小枝を扱う様に人差し指と中指でべきべきとへし折り、槍を持つ兵士に耳打ちするドラキュラ。
兵士が何も言わないうちに、ドラキュラは爪で兵士の肉体を鎧ごと切り裂く。
その一方で、死体の様子を見て吐しゃ物を出し屈みこむ兵士に、ドラキュラはしゃがみ、兵士の背中を擦る。
「よぉしよし、可哀そうにな」
声に気付いた兵士は我に返り、腰の剣を振った。
「黙れぇ!!!!」
声を裏返させ、胃の中の物を口から垂れ流しながらの、捨て身の一撃。
一撃に対し、ドラキュラは兵士の手を叩き剣を遠くへ飛ばした。
夜が明ける頃には、もはや城には人間が一人も居なくなっていた。
「皆の衆、ごきげんよう」
侯爵とドラキュラが村を訪れたのは、その翌日の夕暮れ時だった。
村の兵士達は、侯爵とドラキュラを前に集まり整列した。
その声が聞こえると同時に兵舎へ入っていた貴族が顔を出す。
「まず、この一日で何か異常はなかったかな」
ドラキュラがそう言うと、兵士が跪きながら答える。
「はっ、まず村人たちの血色が悪い以外は何もありませんでした」
ドラキュラはそれを聞き、部下の貴族たちに目を合わせる。
「同じくかね」
貴族たちは黙って頷く。
「では、吉報だ」
ドラキュラが口を開いた。
「まず報告が夕暮れ時になってしまったことを詫びよう」
「オルガフガ卿が、我々の計画に協力してくれるとのこと……だから卿も疲れている様子だ。こんな時間になるまで、働いてもらったからな」
兵達の歓声が、村を覆う。
「資金を使い装備を買い、国籍問わず傭兵を雇ってもらい、もちろん同志を募るための書類も作成してもらったよ。ばれぬように架空の国の名義でな」
「指定の場所に、同志と物資がそろえば我々が転移魔法でこちらに届ける予定だ」
ドラキュラの笑みは、空が黒く染まっていくと共に妖しく輝いていた。
傍らにいる侯爵は、瞳を開けたまま笑う事もなく棒立しているばかりで、聞こえてくるはずの発言にぴくりとも反応を示さずにいる。
貴族たちの中の一人が、ドラキュラに近づき口許を袖で隠しながら耳元でささやいた。
「……何故、こいつら兵士だけ眷属にしないのですか」
吸血鬼属は、その他の種族に対し接触して殺害する事で、殺したものを魔族として蘇らせ、眷属として使役することができる。
使役されれば、思考、肉体の全てが殺された相手に支配され元の人格が破壊される。
長い年月をかければ、意思を形成させある程度自由な行動が可能だが、思考と精神・肉体は依然、殺された相手に透視され支配されたままである。
無論、魔族と化したが故に身体能力と魔力は向上する。
「……試すのだ」
「……といいますと?」
部下が聞き返すと、ドラキュラから隠しきれぬ笑みを、襟から覗かせていた。
「自国の民が敵となった時、一部が生身の人間で、一部が魔族と化した者だったとしたらあやつは真っ向から戦う事ができるのか。自らが愛した国民を斬れるのか……苦悩に迷う”勇者”の姿も見物だろうて」
その言葉に、貴族の中の若い衆は震える。
しかし、訊ねた貴族は瞳を閉じ、頭を下げた後ドラキュラの側から退いた。
「やはり、あなたは……」
貴族の中の誰かが呟いた。
暗闇は、虚空を埋め尽くし、叢雲が動き出す。
それから数日後の魔界。
魔族の王たちが、あるものは来る戦に備え自身の強化と、あるものは軍の配備を行っていた時。
吸血鬼の王は、自身の城へ姿を現した。
「おかえりなさいませ、ダーク・ドラキュラ」
執事の吸血鬼が、魔法陣から姿を見せるドラキュラを出迎える。
すると、ドラキュラは頷き数枚の羊皮紙を懐から出し、執事に渡した。
「これを届けろ、魔王達へ………かつてのように、愉しくなるとな」
執事の吸血鬼は、一礼した後自身の肉体をコウモリの大群に変化させ、その一体一体が渡されたそれを口に咥えその場で散った。
執事を見届け、ドラキュラは玉座へ座った。
「さて、十字架を背負うのはどちらかな」
魔界の紅い月は、魔の者達を照らしていた。




