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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
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第二話ー追憶ー

「お父さんっ、今日も伝統。頑張って」


「ああ、我輩も由緒正しきテネブリス家の当主だからな」


 古びた城の中で、少女は五mはあろうかという大男に微笑みかける。


 彼の名前はダグラス・テネブリス。魔界の歴史で、二代目に魔王の座についたダグラスと同じ名を持つ当主。


 ダグラス三世と呼ばれていた。


「では、おいそこのリザードマン共…娘の相手をしてやれ。我輩は此度の戦争について魔王首脳会談を開いて論じなければならんのだ」


 ダグラス三世が後ろを振り返ると、そこにはトカゲに似た姿をした、鎧を着た人型の魔族――亜竜属のリザードマンが三体、揃って。


「仰せのままに!」


 リザードマン達は基本テネブリス家の王宮兵士として雇われていた。


 命令によって、平和な城内に三人のリザードマンは二つ返事を響かせる。


「よろしい、ではな」


 マントを翻し、前に生えていた四本の五十cm程の角を十cm程に引っ込め、自分の顎を撫でた。


 すると、顎に生えていた髭が青い炎に包まれ瞬く間に消えた。


「良いかプエルラ、身だしなみだけはしっかりと整えておけ。特にお前は魔界の中でも随一の美少女なのだからな」


 プエルラの方に目線を落とし、穏やかな笑みを浮かべるとすぐに片手を上げ、魔方陣を頭上に浮かばせ、それはゆっくりと稲妻を迸らせながら頭、胴、足と下りていく。


 床に魔方陣がつく頃にはダグラスの姿は無くなっていた。


「うーん……退屈よ」


 プエルラがそう呟くと冷や汗を流してリザードマンの一体がプエルラの前に出た。


 槍を持つ手を、震えさせて。


「あ、あのお嬢様…………だからといってアレはお止めくださいね?」


 残る二体のリザードマンは顔を合わせて手で口を抑え、笑いをこらえるのに必死な様子を見せている。


「あれ? ああ、召還ね?」


 召還魔法。それは魔力の質と位の高さによって様々なものを呼び寄せる魔術。


 魔力によっては時空と世界線を越えてとてつもない力の魔獣や武器を呼び寄せることもできるのだ。


 プエルラの場合。


「面白いからまたやっちゃおっかなぁ! 」


 片手を上げて魔方陣を床に出現させ、黒く深い霧が周囲を包み込む。


 それをみてリザードマンの一体は察してその場から逃げ出そうとする。


「待って! 助けてぇぇ! もうやだ! 鬼ごっこやだ!」


 そう言っていると、魔方陣から複数の大剣、槍、金槌、鎌、宝玉………ありとあらゆる形状の禍々しいオーラを纏った武器の数々が現れる。


 それを確認したプエルラは無邪気に笑い逃げようとするリザードマンに向かって手を伸ばす。


「ふふっ! 鬼ごっこじゃあない! ダーツだぁ! えーいっ!」


 武器はひとりでに浮かびあがり自然と刃の矛先をリザードマンに向かって飛んでいく。


 その速度はもはや飛んでいくというよりも発射という方が正しかった。


 リザードマンは頭を抱えながら全力で回避に専念したが、無慈悲にも槍が背中に当たってしまった。


「ぐえええああああ!!! 」


 あまりの衝撃にリザードマンは――叫んだ後その場に倒れこんでしまった。


「あははははっ! やっぱり君面白いからすきい! 」


 プエルラが伸ばしていた腕を下げて楽な姿勢になると、武器は消え、リザードマンの背中に刺さっていた槍もその場から消滅した。


「うう……………………痛いですからやめてくださいってぇ」


 涙目になりながらリザードマンは後ろを振り向き訴えた。


「だって面白いんだもん。それにこれでも結構弱いの呼んだんだよ?」


 プエルラの召喚魔法は歴代のテネブリス家の使っていた武器をそれぞれの時代の全盛期の状態で呼び寄せる事ができるものだ。


 今回のような遊びの場合は、こめる魔力を抑え、威力を低くした状態で呼び寄せて使うのである。


「じゃ、お爺様の所へ行ってくる」


 プエルラは瞬間魔法を使い一瞬にしてその場から去っていった。


「うう、ひどいですよ………………………毎回俺だけぇ」


 槍が体に刺さっていたリザードマンは、プエルラが消えたのを見て涙と共に愚痴をこぼさざるを得なかった。


 そしてその言葉は、その場に居る誰も聞いていなかった。


 私は、よく退屈な時はお爺様の部屋に行く。


 お爺様は賢くて物知りで、それでいてお父様の前の魔王だけあって魔力がとても強い。


 それに、優しい。


「お爺様っ」


 ソファーに腰をかけ、本を読んでいる後ろ姿に声をかける。


「おお、来たか。じいじでいいぞ、せがれは居ないしな」


 お爺様は本を閉じてこちらを振り向いた。


 お爺様はよくお父様の事を(せがれ)と呼んでいる。


 お爺様の名前はガイバ・テネブリス、テネブリス魔王の中で最も魔界の法律を整えた功労者として有名なのである。


「おいで、退屈してたろ」


 お爺様はソファーに腰かけたまま手を広げて暖炉の前で微笑む。


 私はそれを見てお爺様の胸におもいっきり飛び込んだ。


「えへへ~!」


 お爺様の胸は暖かくて、広い。


 それでいてたくましく感じて、いつまでもそこへ居たくなってしまう。


「よしよし、ははははえらく元気だのう」


「じいじ!アレやってよ!」


 アレというのはお爺様の召喚する召喚魔法だ。


「ファッファッファ、それ」


 パチリという音が響く。


 お爺様は私の頭を片手で撫でながらもう片方の手の指を鳴らした。


 すると床から赤い魔方陣が現れ、どんどんと魔方陣から赤い液体が滲んできた。


 そして、そこから黒い霧が吹き出すと同時に醜い虫や蠍、蛙や蛇が這い出てくる。


 来る、お楽しみのアレが。


 私はワクワクしながらその光景を眺める。


 そうしていると、霧がだんだんと濃くなり、魔方陣から大木の様な太い触手が勢いよく2、三本飛び出してきた。


 魔方陣から触手がどんどんと増えてもはや部屋中が触手に包まれ、ようやく【本体】が魔方陣から姿を表した。


「グルルルルルルルオオオオオ………………………」


 雄叫びをあげ今までの静寂を裏切るその姿は、蜘蛛の目玉にライオンの顔とたてがみ、背中にはタコやイカのそれの様な触手が無数に生え、全体を覆う表面の皮膚は魚類の様に鱗が並んでいながらもヌルヌルとしていて嫌悪感を抱く虹色の光沢を放っている。


 この世のものとは思えないほど醜悪な姿をした異次元の怪物だ。


「いつみても凄いね~!」


 私はその怪物をまるで――動物園に居るライオンを見るように見ていた。


「ちと、今回はでかすぎたかな」


 お爺様は人差し指をたてる。


 いつものが始まるのだ。


「でも! じいじならいけるよね!?」


 お爺様が無言で立てた指先を折り曲げ、怪物の方に向ける。


「呼んでおいてすまぬが……消えよ」


 指先からはゆっくりとした動きですすむ闇の弾丸が放たれた。


 そして、その弾丸は怪物自信を覆う触手の海を貫通し、皮膚をすり抜け、怪物の体に宿り止まるのが見えた。


 静止した弾丸に当たり、すぐに怪物は悲鳴すらあげることなく怪物の体は灰となって消えた。


 部屋を覆っていた触手すらもいつの間にか消えている。


 目の前にあるのは、怪物が居たと言う痕跡だけだった。


 私はその一部始終を見てあまりの展開の早さに拍手を送らざるをえなかった。


「じいじすごい! アレ三十mはあったよねぜったい!」


 拍手しながら、私はお爺様の方へ顔を向ける。


「………………あの程度、昔戦った連中と比べれば弱いよ」


「じいじはどんなのと戦ってたの?」


 ため息をつきながら言うお爺様をみて言った。


「儂の時代は、わりかし安定していてな。………そんなに争いが激化している訳でもなかったんだ、だから儂は一応は軍やスパイを派遣し牽制しておきつつ、ほぼ無秩序状態の魔界に種族ごと、位ごとの憲法を敷いたんだ」


「まあ、そのおかげで儂を臆病者みたいに言う輩も出てきたわけだがね」


 そうやってまたため息混じりに言うと、手のひらを広げて葉巻を出現させそれを咥えて先端を噛み千切り、また口へ運び指を鳴らすと葉巻に火が灯り、煙をあげた。


「信じらんない、じいじは賢いだけで臆病なんかじゃないのに」


 それを聞いてお爺様は微笑んで私の頭を撫でた。


「はっはっは、ありがとうよ」



「ひどいよー、お姉様だけー」


 どこからともなく弟の声が声が響いてくる。


 弟は無邪気にお爺様の背中に飛び付く。弟もお爺様が大好きなのだ。


 弟の名前はユンガ・テネブリス、特に魔術の才能も無く、特筆すべき力を持たない平凡そのものな魔族だ。


 それでも、私の大切な可愛い弟ということに変わりはない。


「あはっ、お爺様~僕にも遊んでよ~?」


「ははは、いいぞ~」


 お爺様が優しく弟の頭を撫でたその時だった。


 ――全てが、崩れはじめたのは。

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