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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
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十六話ー再生ー

 気が触れそうな程の精神への重圧と、全身を切り裂くような激痛に悶えながら、プエルラは意識を保つ。


周囲の集まっている魔族は、プエルラの様子に驚いているようだった。


「がああああああああ!!!!」


 プエルラの体に刻まれたあざは発光し、血を滴らせていた。


「プエルラ……耐えられなかったか。病院へ運ぶぞ」


人型から本来の姿を開放し、プエルラに歩み寄るキマイラ。


「? よくわからんがわかった」


ドラキュラがプエルラを抱きかかえようとした瞬間_


複数の魔法陣からの武器の数々がドラキュラの体を貫いていた。


「……なに!?」


灰色に濁った剣に槍が、胸と首に突き刺さっていた。


「触れるな……“余”に触れるな!!」


プエルラから発せられたのは、荒々しい声だった。


「プエル……ラ……何故……ゴファ!」


ドラキュラの口から大量の血液がこぼれる。


その瞬間、プエルラを眺めていた吸血鬼属が一斉にプエルラに躍りかかった。


「待たぬか!!貴様ら!!」


キマイラの静止を聞かず、プエルラのもとへ飛び掛かり、次から次へと襲撃は槍の雨で返されていった。


「余に……近づくなああ!!」


プエルラは歯を食いしばり、鬼の如き形相で頭を抱えながら武器を射出していく。


音速を超える速度で放たれていくそれは、吸血鬼属の胸、頭_当たれば致命傷が免れないであろう箇所を貫通させた。


そうして、武具の雨はやがて一瞬にして鮮血の雨へと塗り替えていった。


「落ち着け!!」


キマイラが地面を蹴り、間合いを詰めプエルラの腕を掴むと吸血鬼属の集団の周囲に展開されていた魔法陣は、次々と閉じていった。


「離せ……!! うがあああっ……」


プエルラの瞳にはもはや理性が失われている様子だった。


「まさか……この症状……お前たち!プエルラを抑えよ!!」


キマイラはプエルラの体を見て、後ろで傍観していた魔獣属の部下たちに指示を下した。


魔獣たちがプエルラを取り囲むと、プエルラの体は灰色の光に包まれていった。


「オサエロ!! オサエロ!!」


 魔獣属とは、本来肉体におけるフィジカル……すなわち身体能力と生命力が他の魔族と比較して高い傾向にある種族。


そんな大群が、一人の少女に群がり取り押さえている。


普通ならば、抵抗すら叶わずに拘束されていたであろう。


しかし、目の前の少女はその光景に照らす理を覆した。


 全身から、剣を生やし自身を取り囲む魔獣たちの腕を盛大に吹き飛ばしたのだ。


「何ッ……!?」


それは魔獣属の魔王たるキマイラも、貫かれた腹を抑え悶える吸血鬼属の王ドラキュラにすら、想像できない荒業だった。


「召喚魔術なのか……あれが!?」


プエルラの召喚魔術は、もはやこの場に居合わせた魔王たちが今までに見たことのない魔術へと形を変えていた。


武器を全身に身にまとい、プエルラは血を吐きながら赤く眼を腫らし叫んだ。


「あだまが……いだい……!!余は……があああ!!」


その顔、瞳、身体の隅々に至るまでが狂気に侵されているのを具現化しているかの如く灰色に染まり、鈍く光を放っていた。


プエルラの傷口から血と共に染み出る闇のオーラは、周囲を囲む淡い光と交わり、かき消されどちらともとれないオーラをまとっている。


狂気と、未知の力の全てを揮わせるプエルラを前に、魔獣属と吸血鬼属の軍団は構える。


「こやつは……本気にならねば静止させられんぞ……」


「あぁ……癪だが、全力を出そう!!」


「今のプエルラを放っておいたら……吸血鬼属……いや、魔族が危険に晒されるからな!」


キマイラとドラキュラも、それを合図に戦闘態勢をとる。


かつてのように、圧倒的な暴力を前に魔王は臨む。


もっとも、その暴力の主は――。


 「はぁ、はぁ……無いか!?」


爆音が城の外から響き渡り、爆風の衝撃に晒され震撼させられながらも、ユンガは書庫の本棚の中をかき分けていた。


魔術を使い、体を浮遊させ自分よりはるかに高い位置の棚の本を手にとっては落とし、姉の病について書かれた本を探していた。


ユンガが反転浸食病についてを学んだのも、昔祖父に読んでもらった本の影響だった。


その本こそが、今まさに探し求めている本だった。


しかし、書庫に所蔵されている本は多く、幼い魔族の少年が探し当てるには難しい状況だった。


【属性について】


【封印魔術】


【禁忌とは】


「これも違う! ええい!早くしないとなのに!!!」


大量の蔵書をかき分け、ある題名の本が目についた。


「これは……“魔力を操る道具について”?」


ユンガはその本を開いた。


本の著者は、高い魔力を持つ魔族の中でもカリスマとされる大悪魔――ダーク・ルシファーだった。


魔力を操る道具についてと銘打たれた本にはルシファー自身も使う“大砲”と称されている魔術を強化・弱化させやすくする杖や、衣服が紹介されていた。


そして次の貢には、【属性を魔力と共に封じる装飾品について】と書かれていた。


裏面を見ると、本には、被せることである効果を発揮する魔術が込められているとあった。


「これだ!! これを応用すれば……」


ユンガは確信を持った様子で、その貢を読み込んだ後、床に落とした本を拾い上げた。


「これらを応用して、魔術を成功させれば……!!」


ユンガは、四冊の本を抱え、城の宝物庫へと駆けて行った。


ホールから飛ばされていく魔獣の体をかいくぐり、砂埃を払いユンガは宝物庫へ猛進した。


全速力で駆け抜け、階段の裏側に回り込み地下の階段を駆け下り、やがてユンガは宝物庫へたどり着いた。


宝物庫の中には、金貨の山と金塊、宝玉と宝箱が所狭しと詰められていた。


その床は金貨で覆いつくされ、床さえも金貨の海でできているのかと見まごうばかりだった。


「ここだ……待ってて、頑張って……!!」


切なる願いを胸に、ユンガは宝物庫の中に鎮座する目の前にある宝箱を血眼になって開けた。


中にあるのは、宝剣や色とりどりのきらびやかな宝石に純金でできているであろう置き時計、さらには用途不明の宝物が乱雑にしかれていた。


汗を流し、必死に手を動かしユンガは探し求めている品を探った。


すると、宝石の中から純白のコウモリを思わせる形状の仮面が見つかった。


「これだ!!」


ユンガはその仮面をとり、片手に抱えた本たちの中の一冊を開いた。


開いたのは、【魔力を操る道具について】だった。


ユンガはページを震える手で早々とめくり、とあるページにたどり着いたところで止めた。


そのページには、魔力を操る道具の作成方法が記されていた。


記された道具の一部に、魔力を封じる道具が紹介されていた。


「頼む……成功して!!」


ユンガは仮面に本を被せ、両手を広げ、肉体の全魔力を込める。


道具を使う対象の保有する魔力の属性に近い者でなければ、効果が表れない。


ユンガは、手のひらから魔力を放出し仮面に照射させた。


しばらくユンガが仮面に魔力を注いでいると、仮面はカタカタと震えだし、上に被せていた本から煙がのぼり始めた。


ユンガは仮面に魔力を注ぎ終え、手を離した。


すると、本から上っていた煙が仮面を覆い、本から立ち込め続けていた煙はやがて空気の中に溶け込んでいき消えていった。


本に込められた魔術とは、封印道具を完成させるものさせるものだった。


 封印道具の作成を安定させるには、強大な魔族の魔術が必要不可欠なのだ。


魔族が“器”となるものに封印魔術を込め、近縁の者が魔力をこめこれを封印魔術が”器”に魔力を繋ぎとめる役割を果たすことで初めて封印道具は完成する。


本からの魔術は、いわばユンガの送る魔力を器――仮面に繋ぐ楔となるものである。


 ユンガは仮面を早々と手に持ち、急いで書庫を駆け抜け、玄関へ向かった。


「なんて力だ……がはっ!」


小雨の降りしきる中、魔獣属と吸血鬼属、亜竜属達は暴れるプエルラに対し全力を以て戦いを繰り広げていた。


決着は、今まさに付けられようとしていた瞬間だった。


周囲に転がる、魔族の軍勢の亡骸は、残された猛者達に死を匂わせる。


「このままでは、やはり犠牲を出すばかり。か!」


キマイラは剣の刺さった腕の傷口を抑えながら、食いしばっていた歯を剥き出した。


「ユンガよ、すまないが本気を出させてもらう……でなければ押さえつけられそうもないのでな!」


キマイラが瞬時に元の獣の姿に戻った瞬間、プエルラは魔術を展開させる。


「動くな……!!」


プエルラがキマイラを睨み、魔法陣から武器を発射する。


キマイラは刃の弾幕を爪で弾き、あるいは避けプエルラの懐へ迫っていく。


「かあっ!!!」


キマイラの爪が、プエルラの胸に襲い掛かろうとした瞬間―――。


一人の小さな影が、プエルラの体を覆った。


引き裂かれた影の背中から噴き出す、赤色。


それは、キマイラの手を一瞬で止めた。


「姉様……!!こんなこと止めて!!」


影の正体は、プエルラのたった一人の弟、ユンガだった。


「ユンガ!! 馬鹿が!」


キマイラは、その影の正体に目を見開いてその場から一歩下がった。


刃を身にまとい、鮮血に塗られたプエルラの体にユンガは必死にしがみつく。


背中には深く刻まれた爪痕、ユンガが抱きしめた姉のその体には数本の刃が身を裂いている。


「お願い……だから……!!」


ユンガは顔を歪ませながら、もがく姉の顔に仮面を取り付けた。


「ジャマヲ……スルナ!! ヨハ……!!!」


プエルラに取り付けられた仮面は、妖しく光り輝きやがて黒く染められていった。


仮面が黒く染められていくにつれ、プエルラの体に生やしていた刃は魔法陣の中に消えていき、発光していた体の傷は光を弱めていった。


やがて、プエルラの苦悶に歪められた顔は少しずつ和らいでいった。


「やった……成功だ……ふぅ」


ユンガはプエルラの体に寄りかかったまま、その場で倒れ込んだ。


脱力していくと同時に、それまで止まっていた筈の流血が再びユンガの表面を塗って行った。


仮面が漆黒に塗り替えられると、プエルラは周囲の光景を唖然とした様子で見渡した。


「え……どういう……こと……? これ全部……誰が?」


プエルラは戸惑いながらも胸元のぬくもりに気が付いた。


「ユンガ!! どうしてこんなことに……!」


弟を抱きしめ、叫ぶ。


「……プエルラ、侮れぬ娘だ」


キマイラが、手に染み付いた血を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。


「キマイラ……いったい何があったんだ?」

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