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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
14/25

ー人間ー

 活気と歓声に溢れた、王都にて男は人々の祝福を受ける。


人々は自国の英雄の帰還を、自身らの王のその勇姿を一目見ようと、男の側を囲うように集まっていく。


ここは、ブロード王国。


世界でも有数の、広大な領土を保有する大国家である。


かつては、西洋諸国の中では一介の弱小国に過ぎず、農業や軍事……あらゆる分野において他国より技術が劣っており“時代遅れ”を体現したかのような国だったという。


だが、その国に突如として現れ王として君臨し、周囲の国々をたった一人で征服させた者が居た。


それが、彼の者“レクス・へロス・ブロード”という男。


「くっ……がはっ……はは……民の者よ……くるしゅうないぞ……道を開けろ」


レクスの体は、民たちに最後に見せた姿よりもはるかに傷ついており、鎧はもはや着ていたのかさえ分からず生身の体と重度の切り傷を露出させていた。


「レクス様……! お怪我は大丈夫ですか!」


集まる民衆の中から、一人の女性が白いハンカチを持ち、涙を浮かべレクスに歩み寄った。


そしてレクスは、感覚を失い、血さえもかれ果てた腕でハンカチを受け取り女性に微笑みかけた。


「俺にとってはこの程度怪我とは言わん……この布切れは俺への献上品として受け取ろう」


レクスがハンカチを握ろうとすると、はらりとハンカチが手から落ちていった。


それと同時に、レクスは腹部から血を噴出させ、前屈みになりやがて民衆の前で倒れた。


「レクス様!!!」


「レクス様が!!」


民衆の声は帰還への歓喜から一転、絶望への悲鳴へと変わった。


 自身にとって経験したことのない、意識が薄れゆく感覚。


生暖かかさと共に赤く染まっていく石垣の地面。


己を慕う民と、”魔族を殺戮した理由”を想えば、身体が一瞬だけ動いた気がした。


それでも、ほんの一瞬。


瞬きをすると、瞳には民の足元と自分を担ぎこもうとする兵士たちの姿がぼんやりと映し出された。


「レクス様……魔界へ単身乗り込むなどやはり……!! だから止めたんですよ……」


 兵士の声が聞こえた。


自分の思いを告げる代わりに、ゆっくりとした瞬きと笑みで返した。


 ことは、三時間前に遡る――。


「ご報告になります……」


敵国を襲撃していた時の事だった。


遠方から、自国の兵士が伝達にやってきたのは。


「何事だ」


「……グンク村が……魔族に滅ぼされました」


 重々しく開かれた言葉。


その一言は、返り血と砂埃にまみれた王を震わせるのに十分だった。


 グンク村は、レクスの生まれ故郷なのだ。


それ故、レクスは村には自国の兵士を派遣し駐留させていた。


村の警備の為に。


 それが、滅ぼされた。


自身が最も嫌悪しているものに、蹂躙されたという報告にレクスは口許にしわを寄せ歪めた。


「……おい、ボロック家は無事か」


 唸るような声色で尋ねた。


 ボロックは、レクスの本来の苗字。

                  

口には決して出せない、思いと共にかつて別れた、それでも大切な家族(ナマエ)


「は……」


兵士はひざまずき、鉄兜で表情を隠しているが_――震えた声からは、抱いている迷いが見て取れた。


「早く言え……」


レクスは短剣を握り、構えた。


すると、閃光が風を切る音と共にほとばしった。


「っ……」


「どうした、言わなければこいつの餌食だぞ……ッ!!」


 鬼の形相で、兵士をにらみつけると兵士はとっさに答えた。


「……私が増員の合図を受けて現地についた時には、既に村が焼き払われていました……」


そういった瞬間、レクスは一瞬の無言の後、左腕の籠手を外し兵士の兜に拳を放った。


鈍く、鈍器で殴られたかのような音が戦場の跡地に響いた。


「……卑しい魔族風情が……俺を狙わずして何故……なぜ何の抵抗もできないはずの村人を襲った……!!!!」


 頬と、目が硬直し歯と歯が擦れあい、体を震わせる。


「俺は多くの魔族を討ってきた……人間であれ、敵はすべて葬ってきた……全てだ」


「だが……無力な者を……無抵抗なものを攻撃する事はしてこなかった……」


レクスはがれきの山に、左腕を全力で叩きつけながら語った。


「俺が恨まれるのは、至極当然だろう……だが……っ!!!」


「レクス様……どうか落ち着かれてくだ――」


兵士は次の言葉を発する前に、目の前のレクスの真っ赤に染まった目を見て黙った。


黙らざるを、得なかった。


「何の関係も無い……村まで焼かれなければならん……あそこは俺の――」


「――蹂躙してやる……破壊してくれる……地獄を見せてやる……!!!」


 レクスは、懐からほこりにまみれた古めかしい巻物を取り出す。


「その巻物は……一体?」


「俺が狙っていた物だ……これの為に、この敵国の町を襲撃したと言っていい……」


レクスは震えた手で巻物を乱暴に開き、中身を覗いた。


その巻物には“光”の紋章が刻まれていた。


「その紋章……まさか、竜の力の!?」


人間界には、守護神として竜が存在している。


そして、太古の昔に滅び世界の骨格を作った竜が居る。


それが、暗黒竜と光聖竜_竜たちの祖先である。


竜たちの力の一端を再現し、太古の魔術師達が魔術として当時の魔術師の魔力ごと封印した書物の一つがブロード王国の敵国“グラ二オス帝国”領の町にあるという噂が横行していた。


レクスは、これを求めていたのだ。


 伝説の、それも竜たちの祖先たる存在の力――それさえ手に入れば、自分に敵など存在しなくなることだろう。


確信に近い思いと、魔族への憎悪を抱きながら開いた巻物から、顔を焼くような激しい光があふれ出した。


 封印された光の魔術の情報が、レクスの頭をはちきれさせんばかりに光と共に流れ込んでくる。


「うおおおおおおがああああああああ!!!」


 おたけびと共に、稲妻がレクスの体を包み込む。


その姿は、さながら、伝説上に伝わる光聖竜の再臨かとさえ思わせるほどの気迫と、魔力があふれていた。


「レクス様……!?」


兵士が歩み寄ると、レクスは身にまとわせた光を兵士ごと弾き飛ばした。


「……俺は……しばし民に報告してから行くことにする。お前は適当に国に戻っていろ」


レクスはそういうと、早速会得した瞬間移動魔法を使った。


レクスが目を開け、周囲を見渡すと自分の体が自身の城の塀に飛ばされたことが分かった。


「聞け!! 親愛なるわが国民達よ!!!」


城下町中に響く、大声だった。


町を歩く者達はそれに呼応し、大きく城を見上げていく。


人々が見上げだすと同時に、町の喧騒が大きくなっていった。


レクスは腕を組み、城の周りに民が集まるのを見、数十人ほど集まった所で、堂々と声を張り上げた―――。


「聞け、俺は……これより魔界への侵攻を開始する。太古の人間しかなしえなかった……高名な魔族を徹底的に葬ってやろう!!」


宣言と、魔界の誰も知るよしもない宣戦布告によって民は歓声を上げる。


 そして誰もが思った。


この者なら、必ずや成しえると。


 誰もが願っていた。


魔族におびえる事のない生活を。


 誰もが求めていた。


人間だけの楽園を。


レクスはそれだけ言い終えると、すぐさま城の図書室へと向かった。


 瞬間移動魔法で図書室へ行くと、レクスは血眼になって魔界へ行くための方法についての本を探した。


本棚をあさり二十分ほどして、ようやく目的の本を見つけた。


その表紙には【魔界の全て】という題名が銘打たれていた。


レクスはその本の目次を開いた。


その目次の欄には、原初の魔族について、魔族の召喚方法……そして、魔界へ行く方法が記されたページがあった。


レクスはそのページを開き、穴が開くほどに入念に読み込んだ。


「なるほど……魔法陣をこのように描けば良いのか……」


しばらく経過し、レクスは本を閉じ静かに一人笑った。


「……くははははは……」


彼がまとうは光。


されど、その光では照らし切れぬ程の漆黒がレクスの瞳を侵していた。

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