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孤独なる魔王 An tenebris satiata singularite censemur?  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
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第十話ー暗闇ー

魔界の空に響き渡る翼のはためく音。


それを鳴らすは、少年を乗せた魔獣の王。


向かうは魔界病院。


空中を羽ばたかせながら背に乗るユンガの方を向いた。


「………しかし、良いのか」


「……何が、です?」


「そのお前の肉親らの体は、もう…………亡骸も同然なのだぞ…………?」


 憐れむような眼を、キマイラが向ける。


眼は、ユンガの家族のカラダ。


それを向けたキマイラに、ユンガは声を荒げて、怒鳴った。


「いいや! 絶対にまだ助かる!! 病院に行けば!」


 幼さ故の稚拙な、それでも切実な願望だった。


それを聞いたキマイラは、無言で正面へと顔を向け黙って空を駆けた。


「助かると良いが」


その声は、雲へと消える。


雲を抜けると、魔界病院の屋根が見えてきた。


魔界病院は非常に大きく、魔界唯一の医療施設であり、生命力、再生能力が備わっているとはいえ、様々な理由で争う事の多い魔族にとっては生命線と言える場所なのだ。


キマイラが玄関に降り立つと、ユンガはキマイラの体から離れた。


「さて、着いたな。では我は行くぞ、我は病院の治療は受けぬ」


それだけ言うと、元の人を模した姿になりその場から消えた。


ユンガは、巨大な玄関の扉を前に走った。


すると、魔方陣が目の前に三つ並んでいた。


三つの魔方陣は、それぞれ役割を成しており、一つは≪心理的負傷≫、何らかの原因で精神を病んだ者を治療する治療室へと繋がっている魔方陣。


もう一つは≪病・外傷治療≫物理的な怪我を負った者と、病を患った者を治療する治療室へ繋がっている。


そして――もう一つは≪属性治療≫。


自身の身に生まれもち、宿った属性とは相反するモノに触れた事により”侵蝕された”状態から治療する治療室に繋がっている魔方陣。


ここに運ばれた負傷者は、この病院に込めまれた魔力によって自動的にどこの治療室が最適かを選ばれる。


ユンガの抱えた、姉の体がふよふよと浮遊し、ユンガの腕から離れ魔方陣へと吸い込まれていった。


吸い込まれた先は、≪病・外傷治療≫だ。


その光景を見届けたユンガは胸を撫で下ろした。


そして、続いて父と祖父の体は姉と同じように浮遊し、姉と同じように運ばれていった。


ユンガはそれを見て安堵したと同時に、どんな具合なのか気になり運ばれていった魔方陣へと飛び込んだ。


飛び込んだ先は、妖しい緑色の光に照らされたベッドの並ぶ治療室だった。


 姉と、父、祖父の入るベッドはどこかとユンガは周囲を見渡した。


ベッドに横たわっているのは、首を跳ねられた悪魔や、下半身を失った蛇の魔獣、真っ二つに体の裂けたリザードマン、短剣が喉に刺さっている吸血鬼、もはや原型すら留めておらず、肉塊と化した魔族――。


どれも酷い致命傷を負っていた。


 魔族は、魂と適当な肉体さえあればいつでも復活ができる。


しかし、魂は肉体が機能を停止する毎に弱っていく。


それ故、何度も肉体が滅べば復活が難しくなる。


 弱った魂が行き着く先は二つ。


強大な魔族の魂の一部として生きながらえること。


一つは――消滅する事。


 ユンガは目の前に映し出される凄惨な傷痕を負う者達の姿が見るに堪えず、部屋を飛び出し廊下へと駆け込んだ。


廊下を走り、別の部屋を扉の前にある硝子越しに覗いていくと、どの部屋も、吐き気を催す程に血で真っ赤に染まった魔族の体が陳列されておりまるで棺桶の無い墓場を見ているようだった。


奥の方へ行くと、喧騒が聞こえてきた。


 治療室は、奥へ行けば行くほどに高位の魔族の治療室に向かうのだ。


(あそこに姉が、父が、祖父がいるかもしれない)


 淡い期待をよせ、足早に奥の治療室へと向かった。


 最も奥の治療室の扉を開けると、ベッドに座っている角を生やした大悪魔と、つぎはぎの蝿の悪魔の姿が目についた。


何かを叫んでいる様子だった。


 大悪魔は大声で何かを喚き、蝿の悪魔はそれをうんうんとうなずきつつも宥めているようだ。


ユンガは、それがどうしても気になり、恐る恐る近づき、理由を訪ねようとした。


「あの、何を話しているんですか?」


それを聞いた大悪魔は、口を大きく開いて咆哮をあげ、ユンガの小さな体を吹き飛ばした。


「ガルルルァァァァァ!!!」


体は真正面に空いたベッドと共に吹き飛び、治療室の壁へと叩きつけられた。


「あいたっ!」


勢いのままに壁から体はずり下がり冷たい床に座った。


その様を見て悪魔はハッと何かに気づいたようでユンガの方に歩みよった。


「すまねぇ、大丈夫か? 」


大きな手を差しのべられ、ユンガは困惑しつつも手を握り立ち上がった。


「ベリアル、キレすぎだよ」


背後で笑いながら、蝿の悪魔は呟いた。


(この悪魔が、ベリアル?)


ユンガはそれを聞いて、震えた。


 あらゆる悪魔達の羨望をかっさらう程の力とカリスマ性を持つ大悪魔が、ここに居る。


そんな悪魔でさえもここに居るという事は即ち、“あの男”の前に破れた事を意味している。


それを裏付ける様に、その左腕は義手となっていた。


「あなたも……?」


 そう口にするとベリアルはかきけすように声を出して答えた。


「ああ! 聞こえねぇなぁ!? 俺様が敗れる筈ねぇんだ、 いいな」


そう言うとベリアルは、自分の居たベッドへと戻り腰かける。


鼻息と共に、軋むベッドに腰を下ろすさまは、どこか哀愁を漂わせていた。


 ユンガは、ベリアルの元へと歩みを寄せていく。


「………で、お前はなんでこんなトコに居るんだよ。親でも死にかけたか?]


 その言葉を聞いて、ユンガは黙ってうつむく事しかできなかった。


ユンガの様子をみたベリアルは少し申し訳なげに、ユンガのうつむいた頭に手を伸ばし、わしわしと撫でた。


「……すまねぇな、ボウズ」


「いいえ」


そんなやり取りを聞いて、ベリアルのベッドの隣に座る小柄な悪魔は口を挟むように言った。


「で、今から侵攻しに行くの? 行かないの? 」


 その問いに、ベリアルは再び激昂した。


「行くに決まってる! 当たり前だッッ!! 魔界を荒らされ! この俺様に泥を塗るだけ塗って帰りやがった! ふざけんじゃねぇ!! 」


振り向けられた拳によって壁に、穴が開けられた。


「ベル! 手前ェはどうなんだ! 憎くねぇのか! あれが、生き物のやる事かよ!? なぁ!」


ベリアルは自分の真正面のベッドを指差した。


そこに横たわっているのはユンガの姉――プエルラだった。


「! 姉様!」


それに気づいたユンガは走り、プエルラの手を握った。


「姉様……姉様……うぅっ……」


ここで初めて、ユンガは堪えていた涙を流した。


その涙は、泣けども、泣けども溢れてくる。


「僕が、僕がもっと強ければっ………うわぁぁん!!」


 自責。


幼いユンガが初めて感じた感情だった。


泣きじゃくるユンガの後ろにそっと、蝿の悪魔――ベルゼブブはユンガの後ろ髪をさらりと撫でた。


「君は、生きてお姉さんを運んだ。偉いと思うよ、お利口さんだよ」


 慰めは、耳を通り抜け暗闇へと消えていく。


今はただ、己の非力さにうちひしがれながら、わずかな希望を信じるしかなかった。


どうか、姉が助かりますように。


皆が、戻って来ますように。と。

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