第一話ー序曲ー
RPGをベースとした、オリジナル小説です。
“禁忌神話伝”と銘打ってますが、これは色々な神話を調べていった上で作った超古代神話だからです。
ぜひ、お楽しみください。
魔王、それは魔族の中でも有数の各種族から生まれる圧倒的な力を持つ絶対的な存在であり、今でこそ複数存在する属性の中でも原初の属性――[闇]を操る強大な魔族である。
「跪け、頭が高いぞ雑種ども」
一人の可憐な少女が、鈴のような声を低く曇らせ魑魅魍魎の集団に向かって言った。
彼女の名前はプエルラ・テネブリス。
かつて魔族の中でも希代の魔術の天才と呼ばれ、魔王の候補となる最上位魔族からも恐れられていたテネブリス家第六十五代目魔王である。
「ははっ!」
声を聞いた魔族は皆ひれ伏す。
翼の生えた者、鹿の角を生やした者、蛇の様な姿をしたもの、足を八本生やした者、筆舌に尽くしがたい程の醜い怪物、巨大なワニの様な者………その場から半径五十kmはある距離に居た魔族にすらも声が響き即座にひれ伏す。
魔族らが一度に頭を垂れ、ひれ伏すその様はもはや怪物の背中でできた絨毯のようだ。
ここは魔界。
そういった、“魔族”と呼ばれる太古から存在する悪魔や魔獣、アンデッド、吸血鬼や亜竜、亜人だけが存在する裏の世界なのだ。
「今日は非常に機嫌が悪い、何か一つ芸でもしてみせろ」
少女は声高らかに言った。
すると、美形の燕尾服を着た悪魔が側にやってくる。
「では、小腹が空いているのでございましょう。こちらの大トカゲのゆで卵をどうぞ」
プレートに乗った紫色の大きな卵を目の前の少女に差し出す。
おやつで機嫌を取るつもりなのだろう。
誰しもがそう思った時、その浅はかな考えが、魔王の逆鱗に触れた。
「貴様………喜べ、余の自らの手でこの大衆の場で派手に爆死できるんだからな」
魔王は燕尾服の悪魔に向かって指差し空に掲げると、燕尾服の悪魔も指の動きにあわせたかの様に中に浮かんだ。
「っ!? お許しをっ! テネブリス様ッ! 私はただ…………………」
「やかましい、余は芸をしろと言った。小腹は空いてはおらぬ。恥をしれ、これで機嫌を取れると? 貴様風情が? ……甚だ図々しいわ、恥を知れ」
冷淡にそう言うと魔王は悪魔の体を空中で大の字に固定し――――――。
悪魔の体を爆発させた。
目を塞ぐもの、絶叫を堪える者。震えるものをよそに容赦なく降り注ぐ血の雨、臓物、翼、牙。
それは魔族らに目の前で起こった惨劇を現実として物語らせるのには十分すぎた。
酷い。
惨い。
残酷。
残虐。
そういった言葉は恐らくこの魔王の為にあるのだろうとさえこの場にいた者は思う。
「興冷めだ、おい、誰か道化と小姓を呼べ。でなければ城に串刺しにして大カラスのエサにするぞ」
彼女には側近は居ない。
だが一度声をあげれば他の悪魔は彼女を恐れ彼女の命令を死んでも成功させる。
歴代の中でも、圧倒的な支配力と残虐さを持った魔王の中の暴君。
それが彼女なのだ。
――いつからだろう。
姉が狂気に犯されたのは。
昔は、優しかった。
昔は、あんなことしなかった。
昔は、もっとつよかった。
誰からも愛され、慕われ、親しまれ、姉の回りは笑顔が絶えなかったはず。
弟の僕は時々、思う。
僕が城の玄関で俯いていると、姉の姿がこっちに向かってくるのが見えた。
小さい体ながらもマントを靡かせ、外界からの遮光を浴びながら堂々と闊歩するその様はもはや魔王というよりも大魔王と呼ぶに相応しい程に威厳に満ちていた。
「………姉様……今日も麗しゅうございます」
僕は声を絞り出して姉に言った。
すると姉は顔の目の前に手を広げだす。
そして、僕の全身が姉から十メートル先まで吹き飛ばされ床に滑り込む形で減速し、仰向けになって止まった。
「……ユンガよ、余は今機嫌が悪いのだ。話しかけるなら少しまて」
「…姉様……」
僕は体を起こしてすぐに立ち上がり埃を払う。
その姿を見て姉は鼻で少し笑うと瞬間移動魔法を使い音もなくその場を去った。
「…やっぱり、あのときの出来事が影響してるのかな」
そう、あのとき。
かつて“勇者”との決戦が繰り広げられ、魔族の敗北に終わった忌々しき二万年前のあの日――。
これは、幼き少女の魔王が、如何にして魔王となり、魔界を支配したのか、その行く末を語る―― “禁忌神話伝”である。