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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

もしも、愛する人が死んだなら

作者: 騙道みりあ
掲載日:2022/01/09

 彼女は、マリアは、とても美しい女性だった。


 彼女が歩けば誰もが振り向き、彼女が笑えば誰もが呼吸を忘れる。佇む姿は一輪の百合のように、それは非常に美しい女性だった。



 彼女には夫がいた。

 夫はこの国の王だった。だから、誰もマリアを奪うために夫を殺そうなどと、考えることはなかったのだ。


 夫の名はカルデラ。この国、聖王国リアスティアの国王にして、マリアの夫。彼らの間には、2人の男児がいた。


 次男は優秀で、長男はその逆。王の才は次男にしか無く、カルデラは致し方なしと、長男を国外に追放した。


 追放先は隣国エルネシアの辺境にある村。辺境と言えど、中規模な村で、生活に困ることは無いだろう。これがカルデラのせめてもの慈悲だった。


 長男の名はエイル、次男の名はブルースと言った。


 王家では、兄弟は別々に育てられる。それは、兄弟同士がそれぞれに優劣を抱かない為だ。故に、エイルは弟がいる事を知らずに育ち、ブルースもまた、兄がいることを知らずに育った。


 それだけでなく、エイルはリアスティアの宮廷魔術師達に、記憶を巧妙に改竄されていた。エイルは自分が王族なことなど知らずに、辺境の村に預けられたのである。


 魔術とは、便利な力だ。非現実的な超自然の現象を、簡単に起こしてみせる。その正体は、一時的に神に力を借りるというものである。


 聖域と呼ばれる場所がある。そこには神が居ると言われており、そこに来た者に、神は神託を授ける。未来のこと、過去のこと、これからどうすべきか。質問に丁寧に答える訳では無いが、行くべき道を示してくれる。


 聖王国はその名の通り、国領に聖域を含んでいる。聖域は誰もが使い放題という訳では無いのだが、聖域を国が所有しているということは、各国にもかなり有用な切り札となっている。


 聖王国の王は代々、王として就任する前に、聖域にて未来の道を神に示される。


 カルデラも同様で、王になると同時、神託を受けていた。



『己が息子に気をつけよ』



 神託の内容はこうだった。


 カルデラは、ブルースの優秀さに、自分は直ぐに王位を奪われるだろうと受け取った。だが、優秀な者に国を任せることは、カルデラとしても悪いことではなかった。だから、特に神託を気にせずに居た。



 それは後に、大きな過ちとなる。





────





「エディ、今日の収穫は終わったか?」

「うん、父さん。終わったよ」

「そうかそうか。今日もおつかれさまだ」


 俺はエディと言う。この村、リズ村で農家の息子として生まれ、農家の息子として働いている。


 生活はとても裕福とは言えないが、満足していた。それは、温かな家族に囲まれていたことが大きな要因だろう。


 俺が住むリズ村は、魔術国家ロゼーズの辺境に当たる。


 すぐ隣の国は聖王国リアスティアと言い、国領に聖域を含むのだ。


 何故辺境の村に住む俺がそんなことを知っているかというと、それはロゼーズでは毎年、18歳になった男女に<鑑定の儀式>と呼ばれる儀式を行う事に由来する。


 この儀式は、少年少女の将来の才能を鑑定するものだ。これまでの努力、そして先天的な才能を基に、魔術の道具である鑑定盤と呼ばれる石盤にて能力の検査を行う。


 この儀式で秀でた才能を見せたものは、聖王国の聖域に赴き、神託を貰うのだ。


 神託を貰うことは名誉であり、それも、ロゼーズの代表として神託を貰えれば、それからの人生が保証されているようなもの。確実に宮廷レベルの職場が用意され、給料も弾む。だから、誰しもが<鑑定の儀式>については知っており、そのために隣国の聖域についても、ある程度の知識を親から叩き込まれる。


 そして、その<鑑定の儀式>が、リズ村ではこれから行われるのだ。俺もちょうど18歳であり、鑑定を受けることになる。


「今日は儀式の日だって言うのに、付き合わせちまって悪いな」

「うぅん、大丈夫!」


 実際、その時の体力の状況などは、<鑑定の儀式>の結果に影響を及ぼさないから畑仕事を手伝うくらい、大したことはないのだ。


「エディ、お前は凄く頭がいいからな。もしかしたら何か才能を持っているかもしれないぞ」

「そんなことないと思うよ」


 実際、そんなことは無いだろう。





────





「皆様、私はロゼーズ宮廷魔術師が1人、ロックウェルと申します。本日はこちらの鑑定盤を使い、この村の子供たちの能力を測定したいと思います。鑑定を受ける子供たちは、前へ」


 宮廷から使者が遣わされ、彼らが鑑定を行っていく。


 ロックウェルと名乗った人物は騎士のような格好をしていて、青髪で長髪だが、顔立ちは凛とした男であった。


 鑑定は任意だが、受けることにお金はかからないし、むしろ夢が見れる分、受けないメリットが全くないから、ほとんど全ての人は受ける。


 俺も同様に、なにか才能があればいいな程度の認識で挑むつもりだった。


 1人、また1人と子供たちが鑑定を終えていくが、ロックウェルさんの顔はとても優れているようには見えない。一度たりとも、彼は今日笑っていない。


「次は、エディさん。こちらに」

「はい」


 そして、俺の番がやってくる。


「この石盤に手を当ててください」


 俺はロックウェルさんの言う通りに、右手を鑑定盤に置く。


 鑑定盤は一瞬光り輝いたかと思うと──すぐにその光は収まり、どうやら鑑定は終わったようだ。


 その時、今日初めてロックウェルさんが笑った。


「エディさん、素晴らしいです。あなたには策士や政の才があります」


 そして、そう言った。


 つまり、俺は頭が切れるから有用だと、そう言いたいらしい。


 周りは、「おぉ」「すげぇ」と盛り上がっている。一方、両親は突然のことで未だ状況の理解が追いついていないようだ。


「ありがとうございます」

「この儀式終了後、着いてきて頂けますでしょうか?」


 早速、聖域に向かう準備をするのだろう。王への挨拶という可能性もある。


「では次の方の鑑定をしますので、こちらに来てください」


 ロックウェルさんは俺の鑑定が終わると、その流れで次の人の鑑定に移行した。


 俺は一度、両親の元へ行く。


「エディ、まさかお前に才能があるとは...な」

「昨日あるって言ってたのは父さんじゃないか」


 父さんは感動に涙を流していた。母さんも同様、嬉しさに涙が止まらないようだった。


「これで父さんや母さんに少しは孝行できるかな?」

「何言ってんだお前は......少しどころじゃねえよ...」


 他の村人達も混ざり、場は祝福ムードになりつつある。ロックウェルさんがまだいる以上、大っぴらにする訳にも行かない。才能のあるなしに関わって、差別的に祝い事をするのは禁止されているからだ。


 そうこう話しているうちに、全員の鑑定が終わったようだ。


「では、エディさん。着いてきて頂けますか?」


 才能があったのは俺だけだったらしい。


 ロックウェルさんに言われた通り、俺は着いて行くことにした。


「父さん、母さん。行ってくるね」

「ああ、いってきな」

「ええ、いってらっしゃい」


 暖かな見送りを受け、俺は王城へと出発した。





────





 ロックウェルさんが乗ってきただろう馬車は座り心地がよく、気づいたら王城に着いていた。


 馬車の窓には上品なカーテンがかかっており、王都に入ってからというもの、中々その景色を見れないでいた。


 時折風が吹いてカーテンが捲れ、一瞬だけ外の景色が見れることがあった。その時見えた景色は、今まで暮らしていたリズ村からは想像も出来ないほど発展していて、整備された道には数多くの人が歩いていた。


 話では聞いた事があった王都だが、実際に来てみるとなんだかソワソワとして落ち着かず、自分が場違いなことを理解していたが故に、余計に呼吸が乱れた。


 王城もまた、想像していた数倍は広く、この城1つでもリズ村と同じくらいの広さがあるだろう。そんな王城をロックウェルさんの後ろについて歩いていく。正面の門に居た衛兵はロックウェルさんの顔を見るだけで門を開け、スムーズに王がいる部屋まで辿り着く事が出来た。


「エディさん、くれぐれも無礼のないようにお願いしますね」

「はい、わかってます」


 馬車の中で聞いた話では、王には顔を見せるだけ見せ、その後はすぐに聖王国に直行するとの事だった。


「ロゼーズ王、ロックウェルでございます。才能持ちを連れてきました」


 ロックウェルさんは王の居る場所だと思われる部屋の前の大きな扉の前で、大声でそう言った。


「王は入ることを許可しています」


 すると中から返事が返ってきて、ギギギィという音と共に扉がゆっくりと開いていく。


 20秒ほどだろうか、扉が完全に開き切ると、ロックウェルさんは前にゆっくりと歩き始めた。


 玉座の間、謁見の間とでも言われる場所だろう。王がいる場所までは綺麗に赤い絨毯が引かれており、奥には少し階段がある。その階段の先には、白と金で飾られた玉座に座った王が居た。部屋は全体的に白で統一されており、天井では黄金のシャンデリアが煌々と光っている。


 ゆっくりと歩いていくロックウェルさんの後ろについて歩き、階段の手前まで来ると、ロックウェルさんと共に跪いた。


「ロックウェル、此度の鑑定もご苦労であった」

「はっ。ありがとうございます」

「今日は幾つかの村を回っていたようだが...才能が見つかったのか」

「はい、見つかりました」

 ロックウェルさんは俺の方を振り返り、目配せをする。

「彼です。策士、政の才がありました」


 俺はロックウェルさんの目配せの意味に気づき、そのまま続けて名前を名乗る。


「エディと申します。リズ村より参りました」

「エディよ。よく参った」


 王は俺に労いの言葉をかけ、またロックウェルさんの方に向き直った。


「ロックウェルよ、既に出発の準備は出来ておるか?つい先程、リアスティアの王より、聖域の許可を貰ったところだ」

「はっ。今すぐにでも出立は可能です」

「左様か。ならば直ぐに出立せよ」


 馬車の旅は快適である上、この国は治安がいい。まして、聖域の近くで悪事を働く者など殆ど居ないから、出立には時間を要しない。


「では、行ってまいります」


 ロックウェルさんと俺は、最後に王に深々と頭を下げ、そのまま謁見の間を後にした。





────





 ロックウェルさんと俺は、また馬車に乗り、旅に出ている。

 俺と対面して、ロックウェルさんが座っている。


「そういえば、エディさん。隣国の王はご存知ですか?」

「名前は存じておりますが、容姿まではわかりません」

「では、こちらをご覧ください」


 王の名前であれば幼児向けの安い本にも乗っているが、絵となると、それは高級品だから、とても農民である我が家にはない。


 それを知ってのことか、ロックウェルさんは甲冑の中に隠し持っていたであろう羊皮紙を2つ取り出し、俺に渡した。


 受け取った羊皮紙を広げ、そこに書かれている肖像画を俺は見る。


 1人は男性。髭が濃く、顔立ちからして傲慢さが伺える。


 そしてもう1人の女性。彼女は非常に美しかった。高く着飾った美しさではなく、路傍の草のような存在感と、庭園の薔薇のような存在感を、兼ねて持ち合わせていた。


「美しい...」

「えぇ。彼女は美姫と呼ばれているのですよ」


 ロックウェルさんが補足して説明をしてくれるが、その声は俺には届かない。


 彼女に意識は集中されていた。これほどまで、何かを手に入れたいと思ったのは初めてだった。


 暫く眺めていると、意識が段々と現実に引き戻されてきた。


 俺は羊皮紙を丸め、ロックウェルさんに返す。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


 それ以降、元来無口なロックウェルさんと何か会話をすることもなく、俺は聖域近くへと辿り着いた。





────





「ここから先は馬車では行けませんので、歩いていきます。着いてきてください」

「はい」


 聖域と呼ばれる場所へは、人間以外の動物が入ることができないため、馬車での移動はできない。だから、聖域の近くで馬を止めて、そこからは歩いていく。


 聖域は、神殿のような場所だった。話で聞いていたばかりで実物は見た事がない。実際見てみると、思っていたより煌びやかではなく、どちらかといえば遺跡のようだった。だが、どこか神々しさも感じていた。


 ロックウェルさんは聖域をどんどんと奥に進んでいく。俺もそれに着いていくような形で、どんどんと進んでいった。


 歩くこと数分だろう。石造りの階段を登り、聖域の頂上とも呼べる場所へ至った。そこには神が居た。


 神、という言い方は正しいのだろうか。何せ、身長2メートル50センチはあるだろう人型の何かがそこには居座っていたのだ。石造りの聖域にはとても似合わない真っ白な服を着て、俺たちを出迎えた。


「君が────ロゼーズの才能か。.........制約に基づき、神託を与えよう」


 神と呼ばれる存在は、俺とは長話するつもりは無いらしく、早急に神託を与えてしまいたいようだった。神託は他人に聞かれるものでは無いため、ロックウェルさんは少し離れた石柱の裏で待機していた。


「そうだね。この国には長居しない方がいい。それだけさ」


 神託は、妙な内容だった。これからの道標というよりは、今すぐにでも国を出るべきと言った内容だった。


「ありがとうございます」


 ここに長居する必要もないし、あくまで形式的な儀式なので、俺は颯爽と聖域を後にした。





────





「エディさん」

「はい」


 何か火急のようでも入ったのか、焦った顔でロックウェルさんは俺に話しかけた。


「この国で化け物が出たようです」


 ロックウェルさんが情報を持っているのは、魔法による通信技術だろう。


「化け物ですか?」

「はい。どうやら街にいる人々に謎を出し、解けぬ場合は街を滅ぼしているようです。とても強い化け物らしく、戦力での対処は難しいと」

「なるほど、助けに行きますか?」


 ロックウェルさんは悩んでいるようだった。


「私は謎解きは得意ではありませんが、偶然にもここには頭が切れる少年がいますので、エディさんが良ければ助けに行きたいと思っております」

「わかりました。では行きましょう」


 聖王国は聖域を所有しているため、国同士の関係としては、恩を売っておくことは大きな利益になる。ロックウェルさんは国の重鎮として、出来る限りは恩を売る方針に持っていきたいのだろう。


 その時の俺は、神託の内容など頭から抜けていた。神託を無視してでも、多くの人を救うべきだと思っていたし────なにより、美姫マリアに会える可能性を考慮していたこともある。


 ロックウェルさんと俺は急いで馬車に乗り、そのまま馬車を動かした。先程と比べて馬車の移動が速いのは、ロックウェルさんが御者に急ぐよう命令しているからだろう。


「このペースなら、30分ほどで現場に着くでしょう。────ですが、状況は急を要するようです」

「どうしましたか?」


 顔色を変えて言うロックウェルさんを見れば、今またなにか通信が入ったのだろうということは納得が行く。


「カルデラ王が化け物に殺されたようです。それを受け、息子であるブルース王子は、化け物を討伐したものに王位を譲るとまで言っております」


 化け物は好き放題暴れ回っているようで、既に国王まで殺したとのこと。ただ、報告を聞く限り、美姫マリアまでは手にかけられていないようで、俺は心のどこかで安心していた。


「それに......どうやらこちら側に向かってきているようですね」

「すぐに襲われる訳では無いですし、大丈夫でしょう」


 化け物はこちらに向かってきているようで、馬車と化け物が出会うのも時間の問題だった。


 どんな謎が出されるかは不明だが、俺は心のどこかでなんとかなるだろうと安心し切っていた。


 そこから馬車の中は、御者とロックウェルさんにより、緊迫した雰囲気になった。俺は緊張と、一抹の不安を覚え始めた。




 それから10分経った頃、俺が乗る馬車はようやく、化け物と遭遇することになった。


 その化け物は、全長がゆうに40メートルはあり、容姿はライオンのようだった。金髪の鬣に、鋭く生えた牙。毛並みは美しい豹色で、対峙した俺はその存在感に圧倒されていた。


 そんな化け物が、口を開く。


『汝らに問う。過去、現在、未来の全てを知ることが出来る者がいる。その者は、全知か?』


 脳に直接響く重い声で、俺やロックウェルさんに質問を投げ掛けた。


 頭を捻って考える問題だった。そして俺には、聖王国の人々がこの問いに答えられない理由が分かった。


 ここで語られている、「過去、現在、未来の全てを知ることが出来る者」とは、聖域に居る神のことだろう。聖王国民は皆、神を信仰し、神の恩恵を授かって生きている。だから、この問いには肯定でしか答えられない。


 これさえ推定出来れば、答えが否定なことは明瞭だが、その理由を考える必要がある。


 ちらと横を見ると、唸りながら頭を使っているロックウェルさんの姿があった。どうやら中々答えは思いつかないようだ。


 この問題は、きっと全知に対する矛盾点を見つけることで解決出来る。


 何か、矛盾が発生すること。全知であるが故の矛盾────


 俺は頭を捻るが、中々答えが出ない。もう少しで出そうなのに、中々出ない。


俺は当たりを見渡す。右隣にはロックウェルさんが、後ろには馬車と御者さんが、前には化け物が、上には空が、そして下には...石があった。


「そうか」

「エディさん、閃いたのですか?」


 路傍の石を見て、俺は全知の矛盾点に気づいた。


『答えを聞こう』


 化け物は、ドスの効いた声で答えを催促した。


「全知の者は、存在しない」


『ほう、理由を聞く』


「全知ならば、誰にも持ち上げることの出来ない石の作り方を知っている。そして全知ならば同時に、その石の持ち上げ方を知っている」


 これは、矛盾だ。


 全知の者が誰にも持上げることの出来ない石を作った。だが、全知の者はその石の持ち上げ方を知っているから、その石は誰かが持ち上げることができる石になってしまう。


そしてその答えに化け物は気に入ったようで


『素晴らしい。素晴らしいぞ!我が求めていた答えにようやく辿り着いた。人間、名を聞こう!』


 先程までのドスの効いた声はどこへやら、高揚した声でそう言った。


「エディです」


『エディか、その名、覚えておこう』


 化け物退治は、いとも容易く終わった。


 化け物はその場に倒れ伏し、一件落着となった。巨体が倒れたせいで大量の砂埃が舞い上がったが、ロックウェルさんが直ぐに俺を庇ってくれたおかげで、怪我をすることは無かった。


「それでは、リアスティアの宮廷に向かいましょう」


 俺はそう提案した。





────




 宮廷に着くと、出迎えてくれたのは美姫マリアと、王子であるブルースだった。


「ロゼーズからの使者殿、此度はどのように感謝をして良いものか」


 事の顛末を話すと、ブルースとマリアは俺たちに頭を下げ、礼を言った。


「それにしても、エディ殿は智者なのですね」


 ブルースとマリアは俺をそう言っておだてるが、多くのリアスティア民の犠牲があり、その上で運が良かったから正解にたどりつけただけだと言うと、「はは」と笑われてしまった。


「王無き今、謎を解決された智者であるエディ殿に、この国を継いで頂きたいのです」


 宣告していた通り、ブルースからは申し出を受けた。断る理由はなかったが、一応ロックウェルさんに確認をすると、問題ないとの事だったので、俺はその提案を受けることにした。これでロゼーズとリアスティアの繋がりはより強固なものになり、対外的にも力を増したことになる。


「夫を亡くした身ですが、良ければ娶ってくださいませ」


 そして、マリアと結婚することになった。王が俺になったとは言え、王女はマリアのままであるからだ。ブルースは現国王との血の繋がりが無いため、王子としての資格はなく、宰相という立ち位置で収まることになった。


 被害を受けた街は数多くあったが、民が皆殺しにされている訳では無いから、復旧は不可能ではない。政の才能を授かっているエディとしては、この程度の些事など、問題にもならなかったのである。


 それにブルースは大変優秀で、エディとブルースの2人であればどんな困難をも乗り越えられるとまで言われていた。国王と宰相の2人は、これからこの国を前以上に発展させるだろうとして、期待されていた。


 俺は救国の英雄としても祀られた。英雄と美姫の夫婦は、カルデラの時よりも数倍は評判が良かった。嫉妬による暗殺計画なんかが行われることは勿論なく、民にも好かれる王へとなっていった。




 それから数年、俺とマリアは3人の子供を授かっていた。

 男児が2人と、女児が1人だ。長男はカンタン、次男はテレンス、長女はソフィアと名付けた。3人とも優秀で、継がせても良き王となることは見えていた。


 マリアは何人もを出産しているにもかかわらず、その美しさは落ち着くことがなかった。故に、1人、また1人と子供が増えていくのだった。


 その頃はかつての被害の復旧作業も終わっており、リアスティアは今まで以上の発展の道を歩んでいた。




 更に数年が経った。マリアの美しさは然ることながら、エディも男らしさを増してきていた。


 その頃、リアスティアの各地では不作が相次いでいた。不作の原因は不明で、国内は飢餓に苦しんでいた。


 同盟国であるロゼーズもまた苦しい状況にあるようで、目立った支援を受けることは出来ず、リアスティアの食糧状況は底を尽きようとしていた。このままでは民が死んでしまうと考えたエディとブルースは多くの手を打つも、どれも空回りに終わった。


 意を決して、ブルースは神託を受けに聖域へと足を運ぶことにした。神の元へ行き、これからの国の行く末を教えてもらおうと思ったのだ。





────





「神よ。どうか我が国の行く末をお教え下さい」


 ブルースはその場に膝をつき、目の前にいる神に縋った。


「不作の原因は────穢れだよ」


 穢れという言葉に、ブルースは反応した。


 穢れとは、禁忌を犯した人間に降かかる厄災のことである。親殺し、強姦、そういった人としての根源悪を犯した者が王であったりすると、国が不作になったり、大災害に見舞われたりするのだ。


「穢れ、ですか?」

「うん、近親婚の穢れだよ」


 神が言うことには、国王であるエディと王女であるマリアは血が繋がっていたというのだ。年齢的に、エディはマリアの息子、もしくは弟ということになる。


 ブルースは兄弟が居ることを知らない。だから、エディはマリアの弟だろうと思っていた。


「帰ったら、マリアに伝えなさい。エディの本当の名前は────」


 エディの本当の名前を聞いても聞き覚えのないブルースにはさっぱり分からなかったが、神の言う通り、国に帰ってからマリアとエディにこれを素直に伝えようと決意した。





────





 この場には、エディ、ブルース、マリアの3人のみがいる。神託を受けたブルースの報告を聞くために集まったのだ。


「ブルース、神託の内容を」

「はい、エディ王。神託にて────エディ王の本名がエイルだということをお聞きしました」

「──っ!」


 俺からしてみると、俺の本名の話が何の関係があるのだろうという感じであったが、隣に座っているマリアはそうでも無いらしく、何やら大きなショックを受けていた。


「そんなことって────」

「マリア、どうした?」


 マリアが衝撃を受けている理由が分からず、俺はマリアに質問する。


「エイルは────私の息子の名前です。昔、リズ村に追放された。ブルース、貴方の兄に当たります」

「なっ───!」

「嘘......」


 知らなかった。俺も、ブルースも知らなかった。


 小さな頃から農家の息子、エディとして育てられてきたのだ。


 とは言え、これが嘘だとは言えない。神が神託で言ったことならば、人間に嘘はつかないからだ。全知では無い存在にしろ、神託で嘘をつくことは無いし、事実を誤認したりはしない。


「ごめんなさい、エディ、ブルース。私は気分が優れないので、部屋に戻っています」


 マリアのその一言で、その場は解散になった。



















翌日、マリアは自室から身を投げ、自殺した。

腹に宿った新たな生命諸共、命を落とした。



















────





 もしも、もしも愛する人が死んだら、どうするだろうか?



 俺にはとても、彼女と共に死ぬ権利などありはしなかった。元はと言えば、聖王国に行くなと言う神託の通りにしていれば、こんな悲劇は産まなかった。



 ブルースは優秀だ。化け物の謎にも、答えることが出来ただろう。俺があそこで聖王国に行くことを決意したのは────マリアという美しい女性を娶れる可能性があることを知った、下心からだ。



 神は決して全知では無い。ただ、神は間違ってもいない。


 俺は化け物との謎解きで、神が全知では無いということで、自分の行動を正当化しただけだった。



 とは言え、俺には彼女の分まで生きる権利もない。そんな立派な口は叩けたものでは無い。


「だから────」


 俺がいる部屋には、今は誰も居ない。誰も、俺を止める人はいない。


「────こうするしか無かった」


 贖罪の為には、こうするしか無かった。



















 俺は、自分の目を抉り取り、身を国外に追放した。






お読みくださりありがとうございます。


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追記:短編の日間ランクインありがとうございます。お手数ですが、ポチッと評価していただけると嬉しいです。

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[良い点] 綺麗に10000字に纏められてて読みやすいです。 [一言] オイディプスだ!
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