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海底遺跡と森林限界  作者: 徒花案山子
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ずぶ濡れの羞恥心

池に落ちた。

あっけなく落ちた。藻が絡みつく。気持ち悪い。

乾いた中に濡れたままいるのは恥ずかしい。

頭の天辺すら出せない始末。帰れない。


雨を待ちわびて三日三晩。

走り出したい気持ちを抑えて帰路につく。

すれ違った男は云う。

あなた死んでますよ。

・・・嘘だあ。

だってあなた私に触れるじゃないですか。

男は譲らない。

どんな海女さんだって三日三晩も潜っていられないですよ。

じゃあ海女さんに出来なくてもあたしには出来たんです。

あたしは家に帰らなきゃならないんです。

あたししかいないのだからあたしが帰らなきゃ。

誰もいなくなってしまうじゃないの。


家に着くや否や早速濡れた服を脱ぎ捨て、熱いシャワーを浴びる。

冷え切った体。温まらない。

どんなに長く浴びようと温まらない。

湯船にお湯を張って全身を沈める。寒い。

湯気が視界を奪う。熱いはずなのに寒い。

風邪を引いたんだ。そうだ。

あんな冷たい池の中にいたんだから風邪位引く。

今日は早く寝よう。そうしよう。

明日はあの人と久しぶりのデートなんだ。

こじらせてはまずい。

タオルで体を拭き、服を着る。寒い。冷たい。服がみるみるうちに濡れていく。

雫が落ちる。

何度着替えても濡れる。雫が落ちる。

水溜りが出来る。すれ違った男の言葉が過る。

"あなた死んでますよ"

"どんな海女さんだって三日三晩も潜っていられないですよ"

布が絡みつく感触が気持ち悪い。絡みつく。気持ち悪い。


乾いている中を全力で走る。

あの池に行かなきゃ。そうだ。あそこに。

池の淵。その勢いで池の中へ歩み進める。

途端に重くなる。ざばざばと波が立つ。

あっ。

苔むした石を踏んで滑る。そのまま水の中へ倒れこんで、見た。いた。

藻に絡まってあたしがいた。

本当に死んでた。死んでたよ、あたし。


ところでどうして池なんかに来たんだろう。こんな汚い緑の池なんかに。

あ、あたしの下に誰かいる。あ、あれはあの人だ。あの人がいる。後ろからあたしを抱きしめている。

顔は藻が邪魔をしてよく見えない。でもあの腕時計はあの人がつけていた物。

なあんだ、デートは今日だったのね。危うくすっぽかすところだったわ。

さぁて、どこに行こうかしらね?

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