名前
土手に寝転がって雲を見ていた。
日が沈みかけ、空はうっすらと紫がかっている。
ふと顔に影がかかり、顎を少し上げると彼の足が見えた。
上体を起こしてちゃんと目をやると彼も無言で空を見上げていた。
「隣に来なよ」
何となく声をかけた。
彼は視線をこっちに移し、優しく笑うと無言で頷いた。
彼が隣に座るのを見てからまた寝転がる。
彼も真似をして寝転がる。
「もう少しすると星が見えるよ」
「うん」
「ここは高い建物がないからよく見える」
「僕も見えるかな」
「どこら辺?」
「ちょうどあの辺、かな」
そう言って彼は目の前の空を指差した。
「今日は雲もないし、星日和だ」
空は紺色とオレンジがせめぎ合い、その中に小さな白い点が徐々に顔を出してくる。
「ほら、あれが僕だよ」
一際小さな点を示す彼はどこか寂しそうだ。
「思ったより小さいね」
「うん、もうすぐ終わってしまうから」
「…そっか」
「うん」
「じゃあもう会えないのかー」
「寂しい?」
「今はここにいるからそうでもないけど、多分明日から寂しくなると思う」
「そっか」
彼はおもむろに立ち上がると、土手を上がっていく。
「ねえ、名前は?」
「付けられる前に消えちゃうから」
もう影としか見えない彼は、多分笑っていた。
既に日が暮れた土手で一人考える。
次はどこの誰にお別れを言いに行くんだろう。
今から宇宙船に乗っても彼には追いつけないだろうな。