鏡に映るのは
とある二つの国にそれぞれ美しい妃がいました。
二人は顔は違えど、好みや考え方はまるで鏡か生き写しのように似ていました。
隣国とはいえ、妃である以上頻繁に行き来できないため二人はよく手紙のやりとりをしていました。
それは決して仲が良いわけではなく、むしろ互いをライバル視していました。
それでも不正を嫌う二人は同じ方法で優劣をつけることを約束しました。
知性も、乗馬も、歌も、詩も、己の美しさも同じ方法で比べていきました。
しかし今のところはっきりと優劣がついたことはありませんでした。
ある時、一人の妃が美しさを保つにはうら若き乙女の生き血を肌に塗るといい、という噂を耳にしました。
早速もう一人の妃に手紙を書きました。そして二人はその方法を試すことにしました。
乙女を城へ呼んでは殺し、その血を肌へ塗り込んでいきました。
それから幾年経った頃、一人の妃の美しさに翳りが見えてきました。
美しかった肌は荒れ始め、皺も増えてきました。
それでも同じ年の女から見れば美しくありましたが、確かにあの時と比べれば老いていました。
妃は焦り始めました。
そして一層若い乙女の血を、幼い子供の血を、求めました。
しかし若さは戻らず、妃は老い続けました。
そんな妃の耳に隣国の妃の噂が聞こえてきました。
「隣国の妃はいつまでも若く、美しい」
妃はすぐさま手紙を書きました。
"あなたは私を裏切りましたね。私に黙って違う方法で若さを保つだなんて。
早くその方法を私にも教えなさい。"
数日後、手紙の返事がきました。
"いいえ、私はあなたを裏切ってはいません。あなたは生き血の主に恐怖と苦痛を与えているでしょう。
それらは血を劣化させるのです。だからあなたは醜く老いているのですよ。"
その手紙を読んだ妃は怒り狂いました。
あの妃を殺したいとさえ思いましたが、美しいままで死なせたくない、自分も醜いままで死にたくないという思いが妃を踏みとどまらせました。
しかし、だとしても妃に出来ることはありませんでした。
最早妃のいる城に近づく女はいなくなっていましたし、無理矢理連れてきては元も子もないからでした。
事実、妃は手紙に書いてあった、恐怖と苦痛を与えていました。
手紙の言葉は紛れもない説得力を持っていて、妃の中でその言葉が反芻され、後悔と羨望が渦巻いていました。
それからまた幾年が経ち、一人の妃が流行り病に倒れ、熱に苦しんだ末に命を落としてしまいました。
そしてそれからすぐにもう一人の妃も後を追うようにひっそりと眠るように死んでしまいました。