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海底遺跡と森林限界  作者: 徒花案山子
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何が母たらしめる

あの子が生まれた時、お医者様から心臓に欠陥があると言われました。

移植するしかないらしく、このままの状態では十歳まで生きられるかどうか分からないと

言われ、目の前が真っ暗になりました。

あの時はずっと謝ってばかりだったと思います。

でも、日に日に大きくなっていくあの子を見て、とても愛おしく思えてきたのです。

諦め、とも似たようなものもあったと思います。

とにかく、どうせ死んでしまうのだから、せめて一緒にいられる間は精一杯愛してしまおう、そう思ったのです。

他の子と同じように走り回れないあの子が退屈しないように、本やおもちゃを買い集め、一緒に遊んで過ごしました。

勉強も不足のないようにと、教材を使って一つ一つ丁寧に教えました。

初めは躊躇っていた写真や動画も一枚、一つと増えていく度にむしろあの子が生きていた証を残したいと思うようになりました。

あの子の笑顔も泣き顔も、全部残しておきたい、と。


でも、あの子は十歳になっても、十一歳になっても、まだ生きていました。

初めはとても嬉しかったのです。

あの子が、十歳まで生きられるか分からないと言われたあの子が、目の前で生きている。

それ以上嬉しいことはなかった。

まだドナーは見つからなかったけれど、以前ほど不安はありませんでした。

もしかしたら、このまま大人になって、幸せな家庭を築いて、などと夢想したこともありました。


でも、ある時怖くなったのです。

十歳まで生きられるか分からないと言われたあの子が淡々と生きている。

よく笑う良い子に育ったあの子が生きている。

そんな幸せが突然終わってしまうのではないか、あの子がいなくなってしまうのではないか。

そう、思ったのです。

気が狂いそうでした。

ちょっとでも視界からあの子がいなくなると半狂乱で名前を呼んで、探しました。

もしかしたら、もう狂っていたのかもしれません。

終わりが分かっているのは辛い。

終わりが分からないのは怖い。


だから、あの子が死んでしまった時、悲しみよりも安堵が勝ってしまったのです。

本当に薄情な母親なんです、私は。


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