ひねくれ天邪鬼たちの午後
俺達は恋人同士でもなければ、ましてや友達でもなかった。どちらかが「死にたい」と言えば「じゃあ死ねよ」と返すような関係で、だからといって憎んでいたわけではなく、そう言われることで生きることを選ぶ、極度にひねくれた天の邪鬼だった。
「生きたくても生きられない人がいるんだから自殺は贅沢だ、なんて言われると死にたくなるよな」
「じゃあ死になよ」
「なんつーか、感謝を押し付けるような感じが生きる気力を萎えさせるんだよ」
「だから死になさい」
「生きたくても生きられなかった人の中に自殺した人は入ってんのかな」
「死んで訊きに行けば?」
「嫌だね、生きる」
「はぁ、つまんないの」
「誰がお前に従ってやるかってんだ」
放課後、特に部活もやっていない俺達は校舎裏でだらけながら乾いた言葉を投げ合っていた。スカートを気にせず横たわる姿に何を感じることもなく、俺も同じように横たわった。
「出来る奴には出来る奴の苦悩があるんだよ」
「え、あんた悩んでんの?え、マジ?」
彼女は心底意外だと言うような表情を俺に向ける。
「あのなあ、俺を何だと思ってんだよ」
「チャーリーブラウン」
「あいつはそれが悩みなんじゃないか?」
「それ?」
「悩みがなさそうって言われること」
彼女は納得したのか、否か、あーそうかも、と流した。俺は思わずチャーリーの肩を持ったが、そうしたところで誰かに相談するような悩みは特に思いつかない。
「死にたい」
「死にたい」
しばしの沈黙の後、どちらからともなく同時に同じ言葉を発する。
「じゃあ、死ね」
「じゃあ、死ね」
飽くまでも無関心に。
「嫌だね、生きる」
「嫌だね、生きる」
そこまで言うと、また沈黙に戻る。こんな高校生は嫌だな、と俺は思う。
「…帰るか」
「あたしあそこのアイス食べたい。あんたの奢りで」
「あが多いな」
「あたしはチョコミントー」
彼女は勢いよく起き上がると、自分と俺の分のカバンを持って小走りに校舎を曲がる。
「おい、まだ認可してねえよ」
「早く早くー。勝手に財布の中身使っちゃうぞー」
「それは勘弁!」
財布死守の為、俺は急いで彼女の下へ走り出す。頭の片隅で、俺は何味にしようか、と考えながら。