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海底遺跡と森林限界  作者: 徒花案山子
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風越しの恋

―追いつけなかったら殺してね―


そう言われたのはいつだったか。あれからずっとその背中を追い続けている。

風を切るように走るその背中は届きそうで届かない距離を保っている。

決して振り向かないアンタは追いかけるアタシを受け入れもせず、拒みもしない。


「なあミリカ、双子の片割れに恋をしたら、ナルシストってことになんのか?」

おしゃれなカフェテリアでの一時。片方は紅茶で、片方はブラックコーヒー。

片方は小説を読み、片方は窓の外を見る。片方はウェーブのかかったロング、片方はストレートのショートカット。

片方は少女、片方は男もどき。正反対と言うには振り切れぬ歪。

「でもその方は自分にないものに恋をしたのでしょう?」

ならナルシストではないわ、と優しく微笑む彼女が自分と同じなのだとにわかには信じ難く、その揺るぎない事実に失望した。


太陽の光を反射して黄金色に輝くショートカットが元気に跳ねる。

その髪が長かったら疾うに届いていたのに。

素直になれない男の子のするはた迷惑な意思表示のような本音。


「おい、どうしたんだよその髪」

腰辺りまであったミリカの髪はアタシと同じように襟足まで切り落とされていた。

「チリカ、私、失恋してしまったの」

泣きはらしたのであろうその目は赤く、若干涙声が残っていた。

「っ、は?」

知らない間に誰かに恋焦がれていた。誰とも分からない誰かに。

ミリカを振った男への怒り、僅かでも心を奪った嫉妬、叶わなかった安堵が入りまじり、出せたのはほとんど呼吸音だった。

「これは、厄落としよ。・・・いいえ、もしかしたら諦めきれない未練の表れかしら」

ミリカは自嘲的な笑みで自分の髪を撫でる。元々くせっ毛のためか所々毛先がはねている。

「それは、どこの誰だ。アタシがぶっ飛ばしてやる」

「いいの。いいのよ、チリカ。そんなこと、私が望まないわ」

アタシは、両腕にしがみ付いて弱々しく懇願するミリカを突き放すようなことは出来なかった。


―追い付けなかったら殺してね―

その意味が分からず、アタシはまだその背中を追い続けている。


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