ふんぞり返って落っこちた
ある国は地位によって住む家の高さが違いました。そしてその地位はお金によって変わりました。お金をたくさん持っている人程高い階に住んでいました。
そのすぐ下にはお金持ちには程遠い人々がトタンや木の板を継ぎ接ぎして建てた狭い家に身を寄せ合って暮らしていました。
下の住人は間近にある高い家が倒れないように砂埃を纏った風に風化される土台を補修する毎日しかありませんでした。鉄で出来た壁に見つけたどんなに小さなひび割れだったとしてもすぐに溶接し、町中の人が手を繋いでも足りないほど大きな家の点検をするのです。
勿論それに対する給料等というものはありません。僅かな上の住人はそれがさも当然のように目が眩むような高さに鎮座しているのです。
もしかしたら上の住人は下の住人がそんなことをしていることすら知らないのかもしれません。
下の住人は自分達が毎日直すその建物に、どんな人が住んでいるのか分かりません。人が住んでいる証として、二日置きに大量の食糧が他国から運び込まれ、不定期に似顔絵と「この国を導く偉人が新しく決まった」とだけ書かれた大量の紙がばらまかれ、どこからともなくゴミが降ってきました。そして、風に乗って遠くまで飛んでいった紙を一枚たりとも残さず拾い集めるのも、運悪く降ってきたゴミに当たり死んでしまった人を弔い、その凶器を処理するのも下の住人達の仕事でした。
ある日、とてつもなく大きな力により、下の住人は殆ど死んでしまいました。上の住人がいる巨大な家は、整備が完璧だった為に無傷でまだ変わらず聳えていました。生き残った下の住人は助けに来た他の国の人と共にこの国を去っていきました。初めは住み慣れた国を去ることに躊躇い、渋っていた住人も、「もう、毎日巨大な建物の整備をしなくてもいいし、紙きれを拾いにさ迷わなくてもいいし、何より落ちてくるゴミで大切な人を亡くさないで済みます。」と言われ、死んでしまった人達をその地に移し、弔う事を条件に移り住む事を承諾しました。
それから時が過ぎ、もはやこの国で動く物は変わらず二日置きに食糧を運び込む他国の業者の人以外にありませんでした。その業者の人も仕事を済ませると、そそくさと我先にこの国を出て行きました。
ある日、凄まじい轟音と地響きがあり、今はもうあの天を貫くような家はありません。