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ソウル・カートリッジ  作者: 鶸十六度
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7


「で、薄情なお前は可愛い可愛い愛息子を病院に置き去りにしてきたと」

「人聞きの悪いこと言うな。面会時間が終わったんだよ。それに志異だってもう十六だし、お手手握りしめててやる年でもない。あんまり言うと奢ってあげないよ」

「それは困る」


 夜の八時を少し過ぎた頃、駅前の居酒屋には、和良と唐草の姿があった。


「っていうか良かったの? お見舞い来なくて」

「ううーん、なんと言うかねェ、どうせ今日明日で協会の奴らが行くだろ、事情聴取にさ。会いたくねえんだよなァ、あいつらめんどくせェから。お前はヤじゃねえの? ああも付き纏われて」

「……いや、嫌では無い、と言うかなんと言うか。一応志異の面倒も見てもらってることになるし。家も仕事もその他諸々、あの人たちがやってくれたんだ」

「へェ。お前も丸くなったなァ」


 唐草はビールの入ったジョッキを逆さまにするように煽り、テーブルに叩きつける。鼻で笑ったのを和良に睨め付けられ、下唇を出して肩をすくめた。


「昔だってそんなに私は酷くなかっただろ。……協会の人が来るのは明日、小野田さん……あの背の高い若い子と、その子といつも組んでる雲井っていう紫の女の子。午前中に来るって言ってたから、明日は折を見て行ってやったら? 仮にも父親代わりでしょ」


 空になったジョッキを眺めていた唐草が顔を上げると、耳のすぐ下で揃えた髪とピアスが揺れた。

 あーだのうーだのと釈然としない返事を繰り返していると、寝るなら帰るぞと和良が頭を小突く。


「いて。あーもう、わかったわかった、行ってやるから。ってェーか仮にもってなんだよ」

「いいじゃんか別に」


*


 春、とはいうもののまだ四月の初め。少し風が強く、まだ寒さを感じさせる頃だ。

 だというのに。


「父さん、それ寒くないの」

「別に。私は年中こんな格好だけど」

「見てる方が寒いって言ってんの!」


 結局小野田さんと雲井さんは菓子折りを持ってやってきて、謝罪の後清詠や母から聞いた話と同じような話をして帰っていった。

 小野田さんたちが帰った直後、ひょっこり病室に顔を出したのは父さんだった。

 ここは山だから気候自体もあまり優しくなく、四月の初めとあらば窓を開けるのも少し躊躇うくらいの気温なのに上着も着ずに肩も腹も出して、挙句にサンダルを履いている。明らかに季節を間違えている。


「マァ、良いじゃないか。お菓子とか沢山買ってきたから、見舞いに来た友達とかに配れよ」

「ああ、ありがと。心配かけてごめんね。よかったよ、よく見るフルーツ盛り合わせとかじゃなくて。切ったりとかもしねえくせに絶対誰かふざけて持ってくるから」

「そン時は連絡くれればありがたァく持って帰るよ。んで和良にでも調理させて食べる」


 聞くところによると彼女と母は大昔にそれは大層な喧嘩をして、最終的には河原で夕日をバックに語り合い拳をぶつけ合ったらしい。全部彼女が昔酒に酔ってベラベラ喋った話なので、どこまで本当かは定かではないが。未だに母と良く小競り合いのようなものをしているから、多分半分くらいは本当なのだろう。

 母と同じでいつまで経っても見た目が変わらないような気がする不思議な人だ。母と同じくらいの歳だとは思うが、随分と子供っぽいことをする人だから、小さい頃は一緒に遊ぶのが本当に楽しかったことをよく覚えている。


「さっき全国妖異なんちゃらの人たちが来てたよ。父さんも知ってるんでしょ、会わなかった?」

「すれ違ったよ、けど私はあんまり絡みがあるわけじゃねえから特に何も」

「ふーん、前庁舎の方まで行った時にはもう一人一緒にいたんだけどね、今日は二人だったんだ。見たと思うけど髪色ピンクと紫だったんだよ、俺も髪色自由なとこ就職したいな」

「良いじゃねえか、お前ンとこの高校も自由なんだし、染めちまえば」

「それがさぁ、母さんがあんま良い顔しないっていうかなんというか」

「そう言うのは事後報告でいいんだよ」

「ええー、父さんが言ったってことにしよっかなあ」

「おい」


 個室なのをいいことにきゃあきゃあ二人で騒いでいると、再度病室のドアが開く。


「元気? って、お取り込み中?」

「おー、入ってこいよ」

「なんだよお前、全然元気じゃんか」

「あ、しーちゃんのお父さん、こんにちは」


 心配して損した、だのと、石田たちは好き放題言いやがりながら入ってきた。

 俺を含めていつもの四人組、通称三馬鹿と石田。どうやら傍目には石田が飼い主のように見えているらしい。


「はい、これお見舞いの品な」

「おお、気にしなくていいのに。見ての通り全然元気だし。お菓子かあ、嬉しい」

「んで、ご覧の通り石田がまともな方向に走ったから俺は代わりにふざけたってわけ。はいこれ」

「いらねー! 何か代わりなんだよ馬鹿!」


 意気揚々と友野が差し出してきたのは噂のフルーツ盛り合わせ。後ろにはけて病室の外を眺めていた父が目を瞬かせてこちらをみている。


「でね、俺はヒロくんがそのカゴ買うの見てたから、本ね。暇かなあと思って」

「うわー、気がきく。さすがせーそだわ。……ちょっと待って、何で全部揃いも揃ってホラー小説?」

「好きでしょ? そういうの」

「好きだけどさあ、よりによって病院生活を強いられてる時にはさすがに怖いだろ」

「いーじゃん、スリルあって」


 よかねえんだよなあ、と心に思うにとどめて、ペラペラページをめくってみる。そうしたらこれが案外面白そうでひたすらページを捲っていると、不機嫌そうな声をした友野が俺から本を取り上げた。


「構えよ」

「構えってなんだよ。つかおい、せーそ、これ全部舞台病院じゃねえか馬鹿」


 俺から取り上げた本をサイドテーブルに積み上げて、腕を組む。


「まあ、そういうのはともかく。心配したんだからな、ほんとに。もっと怪我人らしくしてろよお前。清詠ちゃんから『志異が刺されて病院に運ばれた』って連絡貰った俺らの気持ち考えろって」

「それは……ごめん。でもなんだろう、びっくりするくらい元気だから今はあんまり実感なくて。時々痛むといえば痛むんだけど、めっちゃ痛いってワケでもないし」


 今は。そう、今は、だ。もちろんあの場では死んだ気でも殺した気でもいた。ところがどっこい、俺も生きているしあいつもどうやら死んでいない。今まであったこと全部夢だと思い込んだっておかしくないくらいには現実味がなかった。その分、と言ってはなんだが、小野田さんいわく俺が入院している間は協会の人が警備につくらしい。見慣れない彼らの制服を見てあれが現実に起こったことなのだと感じることになりそうで少し癪だ。

 こいつらに本当のことを話せないのは少し申し訳ないが、余計なことを言って混乱させるよりきっといい。幸いにも誰も俺に何があったのか詳しく聞こうとはしてこないし。三人はしばらく居座った後父に挨拶をして、休みの分の課題を差し出して帰って行った。


*


 一週間たって退院の日。三徳包丁で刺された傷ってこんなに早く塞がるのかなと思いながら病院を後にする。入院中、何度か協会の人が病室を訪ねてきたり、身内や友人が仕事帰りや学校帰りにふらふら寄ってくれて、暇することなく過ごした。傷跡もまだ残ってはいるし、傷口が突っ張るような感覚はあるが痛みはほとんど無い。人より頑丈みたいで何よりだ。

結局一度も冬夏さんは病室に現れることは無かった。本人も忙しくしているだろうし、入院期間も短かったから機会が無かったのだろうか。スマホの電源をつけるも、メッセージにも返事は無い。とりあえず心配だから本人にコンタクトをとろうと、彼女が働いている喫茶店に向かった。


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