「もう、遅いよ」と言われたら、神に十二億円もらった。
僕は幼馴染に告白したが、「もう、遅いよ」と言われ、ふられてしまった。
落ち込む僕の頭に、神様から声が聞こえた。
なんでも幼馴染の彼氏を殺す力をくれるらしい。
※ざまぁ
「もう、遅いよ」
俺の告白に対し、彼女はこう返してきた。
今日は成人式だ。
俺は小さい頃から好きだった、幼馴染に告白した。
その結果がこのもう遅いという言葉だった。
この言葉を聞いて絶望した俺は、何かを言う彼女を置いて、家へと向かった。
……もう遅いという事は、彼女は俺の事を好きだったのだろう。
でも、俺はなかなか告白する事が出来なかった。
なかなか告白できなかったせいで、彼女には恋人が出来てしまったのだろう。
気付いたら、俺は近所の神社に来ていた。
たまたま俺以外には誰もいなかった。
「彼女が恋人と幸せになりますように……」
俺はそう言って神社に参拝し、家に帰ろうとした。
『ふむ、それは本音かね?』
「え?」
急に脳内に声が聞こえた。
「だ、誰だ?」
『儂はこの神社の神だ。お主の声が聞こえたのでな、答えてやったのだ』
「え、マジで?」
『脳内に話しかけているのが何よりの証拠だろう?』
「ま、まぁ、確かに普通の奴じゃない事はわかるけど……」
本当に神かはいざしらず、脳内に話しかけている時点で、普通の奴じゃないのは間違いない。
『ふむ、では改めて問おう。今の願い、お主の幼馴染が恋人と幸せになりますように、というのは』
「……」
『無言、という事はやはり本音ではないのだね』
「…………当たり前だろ」
『ほぅ……』
「本当は、こんな事言いたくない。でも、こう言うしかないじゃないか」
『彼女を奪った相手の男を、そして自分を選ばなかった幼馴染を恨んでいるかね?』
しばらく考えて、俺はその質問に答えた。
「許せない。けど、彼女には自分の恋人を選ぶ権利があるんだ。だから許せないけど怨んではいないよ。俺に魅力が足りないのが悪いんだから」
『ふむ、そうか。ならば力をやろう』
「……へ?」
『力をやろう、と言うのだ』
「……本当か?」
『無論だ。』
「じゃあ頼む!」
『その言葉を待っておったぞ!』
「で、どんな力をくれるんだ?」
そう言う俺の前に、一本の紙切れが落ちてきた。
その紙切れを見て、俺は驚いた。
「え?これって……」
『うむ、宝くじだ。ちなみに十二億円の当選券だ』
「また現実的な……」
『だが、わかりやすい魅力だろう?』
「いや、そりゃそうだけど、なんか特別な力とかアイテムをくれるんじゃないの?」
『そう言ったのを与えるより金の方がいいと思ってな』
「まぁ、いいけど」
そして、神の言葉が聞こえなくなった。
俺は神に感謝して、家に帰った。
数日後、当選番号が発表され、本当に十二億が当たった。
これを話したのは、家族と幼馴染だけだ。
当然皆大喜びだった。
「すごいね!さすが私の彼氏!!」
彼氏……か。
僕は彼女の事が好きだったが、こうまで手のひら返されると少し彼女に対して失望した。
だけど、僕はそれでも彼女が好きだったので、彼氏彼女の関係になって、嬉しかった。
こうして僕らは、恋人同士になった。
数年がたった。
俺と彼女は結婚の約束をして、結婚式も間近に控えていた。
「ここ二、三日会ってないんだけど、どこにいるか知らないか?」
俺は彼女の親友であるイケメン(女)に話しかけた。
最初は男と勘違いしていたが、今では女だと知っているし、俺の友人でもある。
「え、知らないけど。というか、私も会っていないから君に聞こうと思っていたんだけど……」
二人の間で重い空気が流れた。
「もしかして……」
嫌な予感がした。
俺は大急ぎで家に帰り、預金通帳を確認した。
俺の嫌な予感は、的中した。
まだかなり残っていた金が全て無くなっていた。
残高はゼロ円だった。
買った株も全て現金化され、下ろされていた。
「信じていたのに……」
銀行通帳があった所に、隠れるように手紙があった。
ごめんね。
バンドボーカル(超イケメンなの☆)に俺の女になれって言われちゃったから、彼の女になることにしました♡
私の事は忘れてね。
お金は全てもらっていきます。
私と付き合えたんだから、このくらいのお礼、当然だよね!
じゃぁね。もう二度と会う事はないけど。
ま、あんた金しか能が無いからさ、金が無くなった今じゃ、もうゴミ同然だし。
ゴミは廃棄処分するのが当然でしょ?
ま、今更能無しって事に気付いても、もう遅いけど。
これがその手紙の内容だった。
「嘘だ……」
俺はショックで力が抜けた。
それから数日が過ぎた。
俺は茫然自失のまま、日々を過ごした。
式場のキャンセル費用や、新居に掛かった金、しかも彼女は借金をしていたため、その金がのしかかった。
幸い俺や彼女の両親が何とかしてくれたので、俺は払わずに済んだが、俺は絶望し、仕事を辞め、実家に引きこもっていた。
数日後、引きこもっていた俺に、あのイケメン(女)が会いに来た。
俺は部屋の隅で体育座りしていた。
部屋の電気を消し、カーテン閉じているため、部屋にはわずかな光しか入ってこない。
だが、彼女は勝手に部屋に入って来た。
「何か用か?俺を笑いに来たのか?」
「そんな事言わないでよ。君を心配して……」
「ふん。口だけならいくらでも言えるさ」
そう、好きと言ってくれた彼女のように。
「私は君の友人だ。友人を助けるのは当たり前だろ?」
「なんとでも言えるさ……」
「せめて部屋から出たらどうだ?こんな電気もつけないでさ」
「暗いと落ち着くんだよ」
「ふぅ、しょうがないな」
そう言うと、彼女はポケットから何かを取り出した。
「なんだよそれ?パワーストーンか?」
「個々の近所に神社があるだろ?そこの神様からもらったんだ」
「なんだって!」
俺は驚いた。
近所の神社は一つしかない。
そこの神様からもらったなら、霊験あらたかだ。
「これは、幸福になる石らしい」
「幸福になる石?」
宝くじの次は幸福になる石か……
現実的な物から今度は怪しすぎる物に行ったものだ。
「ああ、でもこれは自分が動いた結果が少し良くなるものらしい。この石を君にあげるから、どうするかは君が決めるがいい」
彼女はそう言って石を俺に渡して、帰っていった。
「……」
俺は考えた。
俺をふったあの女の言う通り、俺は能無しだろう。
でも、あの女を見返してやりたい気持ちもある。
そして今、その為の神の力がある道具が俺の手にあるのだ。
「よし、やってやるぞ!」
そう言って俺は、数日ぶりに部屋から出た。
そして数年の月日が流れた。
俺は結婚した。
起業した俺を支えてくれた妻は、今や公私共に俺のパートナーだ。
今では会社も軌道に乗っている。
俺は幸せだ。
こう考えると、幼馴染にふられてよかったのかもしれない。
今日は休日で、俺は妻と一緒にテレビを見ている。
ドアホンが鳴ったので、来客を確認したところ、驚いた。
ドアを開けると、そこには幼馴染がいた。
だが、そこにいた幼馴染は、変わり果てていた。
服はボロボロだし、外見もとても俺と同い年とは思えなかった。
「やっと……会えた」
彼女はそう言うと、こちらが何も言っていないのに喋りだした。
曰く、新しい恋人はDV男だったという事。
しばらくすると金を持って逃げ出した事。
しかも男の借金を背負わされた事。
何とかしようとしたが、やり方が分からなかったため、借金を自分が払う羽目になった事。
その後は体を売って働いていた事。
言い終わると、彼女はこちらに笑って言った。
「私達、こんどこそ結婚しましょ。こんないい家に住んでるんだからお金もあるんでしょ?」
「ふざけないでよ」
そう言ったのは、僕の妻だった。
妻は俺の後ろにいたから、幼馴染は気づかなかったんだろう。
「え、なんであんたがいるの」
彼女が驚くのも無理はないだろう。
俺の妻は、彼女の親友である、イケメン(女)なのだから。
「妻が夫の家にいちゃいけない?」
「不倫したって事?!ひどいよ!!」
幼馴染は怒鳴ったが、俺の妻は冷静に言った。
「結婚直前で金持って逃げたあんたが何言ってるの?だいたいさ、あんたさっきから自分の事ばっかりで彼に対しての謝罪の言葉がないんだけど」
「あ……ごめんなさい」
そういった幼馴染に対し、妻はこう言ってドアを閉めた。
「もう、遅いよ」
お楽しみいただけましたでしょうか?
主人公だけじゃなくてヒロインにもクズになってもらいました。
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