「もう、遅いよ」と言われたら、神に時を戻してもらってもう一度告白した。
僕は幼馴染に告白したが、「もう、遅いよ」と言われ、ふられてしまった。
落ち込む僕の頭に、神様から声が聞こえた。
なんでも時を戻してくれるらしい。
「もう、遅いよ」
俺の告白に対し、彼女はこう返してきた。
今日は成人式だ。
俺は小さい頃から好きだった、幼馴染に告白した。
その結果がこのもう遅いという言葉だった。
この言葉を聞いて絶望した俺は、何かを言う彼女を置いて、家へと向かった。
……もう遅いという事は、彼女は俺の事を好きだったのだろう。
でも、俺はなかなか告白する事が出来なかった。
なかなか告白できなかったせいで、彼女には恋人が出来てしまったのだろう。
気付いたら、俺は近所の神社に来ていた。
たまたま俺以外には誰もいなかった。
「彼女が恋人と幸せになりますように……」
俺はそう言って神社に参拝し、家に帰ろうとした。
『ふむ、それは本音かね?』
「え?」
急に脳内に声が聞こえた。
「だ、誰だ?」
『儂はこの神社の神だ。お主の声が聞こえたのでな、答えてやったのだ』
「え、マジで?」
『脳内に話しかけているのが何よりの証拠だろう?』
「ま、まぁ、確かに普通の奴じゃない事はわかるけど……」
本当に神かはいざしらず、脳内に話しかけている時点で、普通の奴じゃないのは間違いない。
『ふむ、では改めて問おう。今の願い、お主の幼馴染が恋人と幸せになりますように、というのは』
「……」
『無言、という事はやはり本音ではないのだね』
「…………当たり前だろ」
『ほぅ……』
「本当は、こんな事言いたくない。でも、こう言うしかないじゃないか」
『彼女を奪った相手の男を、そして自分を選ばなかった幼馴染を恨んでいるかね?』
しばらく考えて、俺はその質問に答えた。
「……こんな事になったのは、俺が告白出来なかったからだ。だから、怨んじゃいないよ。もし怨むとしたら、告白できなかった自分自身だ」
『ふむ、そうか。では、時間を戻してやろう』
「……へ?」
『一年前に戻してやろう、と言うのだ。もちろん外見年齢は一年前の姿になるぞ。まぁ、一年程度では大して変わらんと思うがな』
「……本当か?本当に出来るのか?」
『無論だ』
「じゃあ頼む!」
『その言葉を待っておったぞ!』
その言葉を聞いた途端、俺は急に眠くなった。
目が覚めると、俺は自宅で眠っていた。
自宅を向てみると、成人式に行く前の部屋とは少し違う。
大慌てでスマホのカレンダーアプリを見ると、一年前の日付だった。
「よっしゃー!」
俺はそう叫ぶと、大急ぎで着替え、何があったかと驚く家族を尻目に隣に住む幼馴染の家に行き、彼女を呼び鈴で呼び出し、彼女が現れると、
「ずっと前から好きでした!」
と、告白した。
彼女は驚いたようだが、しばらくすると、
「もう、遅いよ」
その言葉を聞いて、俺はすぐに逃げ出した。
彼女から、そして現実から。
そして俺は、再びあの神社に向かった。
「神様、お願いです!もう一度タイムスリップしてください!!」
『ほう、もう一度かね』
あの神の声が聞こえた。
よかった、と俺は喜んだ。
俺はどこにいるかもわからない神に土下座した。
「はい、お願いです。僕をもっと過去に戻してください」
『よかろう、さらに一年後に戻してやろう』
「ありがとうございます」
俺が涙を流して感謝した途端、僕は急に眠くなり、一年後にタイムスリップした。
「もう、遅いよ」
だけど、再びふられた。
「もう一度、お願いします!!!」
『ふむ、まぁ乗り掛かった舟だ。お主が満足するまで何度でも戻してやろうではないか』
そして、俺は更に一年後に戻った。
「もう、遅いよ」
でも、またふられた。
「もう一度!」
「もう、遅いよ」
「もう一回!」
「もう、遅いよ」
「次こそ!」
「もう、遅いよ」
「今度こそ!」
「もう、遅いよ」
そして、俺はどんどん過去に戻っていった。
高校、中学と戻っていった。
そして、俺は、いや、僕と言った方がいいか……小学生になった。
年齢もついに一桁、九歳になった。
「もう、遅いよ」
今回もふられた。
僕はもう疲れていた。
肉体的ではなく、精神的に。
限界だった。
もう、彼女と現実から逃げるのも疲れた。
だから、今まで聞けなかった事を聞いた。
「ねぇ、好きな人って誰なの?」
誰なんだろう。
九歳から成人式になるまでずっと付き合うのだろうか?
「え、私はあなたの事が好きなんだけど?」
「……え?」
「言ったじゃん。もう、遅いよって。告白されるの、待ってたんだからね!友達も男子と恋人になってるのいるのに!遠足とか恋人同士になって行きたかったんだからね!!」
「へ?」
「私、本当は自分から告白したかったんだよね。けど、告白されるのすごく憧れてたから、いつまでも待つつもりだったんだよね。でもよかった。何とか十歳になる前に告白された!」
「は、ははは……」
僕は笑うしかなかった。
って事はあれか?
最初の成人式の後に言われた「もう、遅いよ」も、勘違いだったのか?
それともあの頃にはもうあきらめて別の彼氏がいたのだろうか?
分からない。
僕はあまりのショックに倒れてしまった。
「もしもし、大丈夫ですか?」
「あれ……?」
気付くと僕は、あの神社に倒れていた。
「えーっと……」
「大丈夫ですか?救急車お呼びしましょうか?」
「あ、大丈夫です」
そう助けてくれた人に言った後、僕は大事なことに気づいた。
「あの、今何年ですか?」
「え、今は……」
その人が言った年は、僕が成人式を行った年だった。
「ありがとうございます。僕は用がありますので」
僕は助けてくれた人にお礼を言うと、大急ぎで彼女の家に向かった。
彼女の家に着き、彼女を呼び鈴で呼び出し、彼女が現れると、
「あの……」
告白した件だけど、と言おうとして、固まった。
もし、本当に別に好きな男がいたら……
そんな事を思うと、言い出せなかった。
「もう、どうしたのよ。あの告白した勇気はどこに行ったのよ」
「え、じゃぁ、僕の告……」
「僕って何なのよ?小学生の頃みたいね」
そういって彼女は笑うと、僕、いや俺に顔を近づけた。
「あなたは私の彼氏なんだからね!これから色々な所に一緒に行ったりしましょ」
「う、うん」
俺は涙した。
俺は馬鹿だった。
告白の緊張で、彼女が言った内容だけ気にして、彼氏がいると勘違いしたりして。
本当に馬鹿だ。
もっと強くなろう。
彼女の彼氏として、相応しくなるために。
「絶対にいい彼氏になるからね!二人でいい思い出を作ろう!!」
彼女はその言葉を聞くと、笑ってこう言った。
「もう、遅いよ」
お楽しみいただけましたでしょうか?
最初はこのストーリーのみのつもりだったのですが、色々パターンを考えて、そのストーリを捨てるのがもったいないと思ってパラレルワールド形式にしました。