第81話 謎生物除去手術
──ガチャリ!
オレがノックもせずいきなり扉を開けると、大きなキングサイズのベッド上でサッキュバスの女と何かの真っ最中らしいクロノの背中が見えた。
その瞬間、ヤツがこちらを振り向いて叫ぶ様に弁明を繰り返すが、ヤツラの下半身には黒いトランクスが履かれていたので事前か事後かまでは判らないが……。
「あ! ロード!! ち、違うんだ、コレはその……」
「外に居たサッキュバスに聞いたぞ? クロノは『アレ』の最中だってな」
「そう、これはアレだ、アレ。だから決して疚しい事じゃなくて……」
「疚しい気持ちが無いのなら何故エリーゼにそう言ってやらないんだ? それと困った事があるならオレに相談しろと言っておいただろ?」
……事の顛末はこうだった。
ある日の事、いつもの様にダンジョンの中で18禁な爛れた日々を送っていたクロノとエリーゼだったが、たまには雰囲気を変えて開放感のある外で致そうと思い立ったのだが、いざ外に出てみると大型魔獣に追われていた複数名のサッキュバスたちを助けてやったのだと言う。
だがこの時、美人揃いのサッキュバスたちを見たクロノの鼻の下が伸びてしまい、それを見たエリーゼが急に怒り出した。
ちなみにサッキュバスと言えば、あのエロっちいボディスーツが普段着だから、彼女たちのセクシーダイナマイツなボディを目にしたクロノがデレデレしてしまうのも判る気がする。
まぁ、大好きなクロノと初めての青カn……外の開放感溢れる場所で思い切りナニカを楽しもうと考えていたエリーゼだったのに、半裸のボディスーツを纏ったセクシー美女たちにデレデレし始めた彼氏の姿を見て急に怒りがこみ上げて来たのだろう。
実はこの時のサッキュバスたちは深刻な悩みを抱えていて、それは彼女たちのお腹の中にはオレが見た謎生物に寄生しており切実に誰かの助けを必要としていた事だ。
その謎生物に寄生されたサッキュバスたちは、精神と身体の両方で何者かの支配を受け続けており、その何者かから遠く離れる為に自分たちの街から遠く離れたこの地まで逃げて来て、ここでクロノたちと出会ったのだろう。
この出会いが何者かの意思であったのか、それともただの偶然だったのか今の段階で判断は出来ないが、どちらにせよサッキュバスたちの精神が支配されてる状態で彼女たちを地下迷宮の内部へと招き入れたおかげで、その何者かにクロノの情報を知られたのは間違いないと見ておくべきだろう。
そしてサッキュバスの国から遠く離れたこの場所まで逃れて来た事で、謎生物の主からの精神支配は脱してるようだが、彼女たちのお腹の中には今も謎生物が巣食っているから、その主に対して敵対する意思や行動を行ったと判断されれば宿主の内蔵が喰い破られて死に至ると言う仕掛けになっていた。
(ナーシャが『まだ逆らっていない』と言ってたのは、謎生物に対する弁明だったんだな)
勿論、自分で寄生しら生物の除去をしようと考えただけでもかなりの苦痛を伴うらしく、その結果第三者の助けを求めてここまで辿り付いたと言うのが今回の顛末らしい。
クロノは彼女たちの身体の様子を調べる為に、サッキュバスたちと逢瀬を重ねるフリをしながら彼女たちのアソコとか色々と調べていたみたいだが、この方法であればサッキュバスが他種族の男を誘惑してるように見えるせいか、その行為を『反抗』とは判断されなかったようだった。
そして次なる帰省先を見つけたと判断した謎生物が、男のブツに喰いつこうとした瞬間を捕まえて引き摺り出したと言う訳か。
方法はともかく、結果としてクロノはこの方法で既に3名のサッキュバスを助けていたが、謎生物には『反抗』の意思無しと判断されたこの救助行為は、恋人であるエリーゼの目には『犯行』にしか見えなかったんだろうな。
それに助けられたサッキュバスのたちがその後、執拗にクロノにアプローチを繰り返しているのも事実らしく、鼻の下が伸び切ったままエリーゼの誤解もなかなか解けない状況らしい。
例え事実をありのまま説明しても束縛欲求が強いエリーゼの目の前で、これまでそうしたようにクロノがエロっちい方法でサッキュバスたちの胎内から謎生物を引き摺り出すのは難題を極める。
なのでクロノの行為を認めたくないエリーゼと治療を望むサッキュバスたちの確執は根深く、また治療を終えたサッキュバスらが恩人のクロノに対して感謝以上の想いを寄せたとしても不思議は無いのだが、肝心のクロノがサッキュバスに毅然とした態度を取れない事が原因で、関係する皆が不幸せとなる状況を作り出していた。
「御方様、お待たせ致しました」
クロノの部屋の隅に設置したままの転送魔法陣に光が灯り、そこからディアが姿を現す。
「カイの所はもう済んだのか。あとドロシーとプリンは一緒じゃないのか?」
「ドロシー様とプリン様のお二人は城の医務室でショコラ様と一緒に、先ほど運ばれて来たサッキュバスの治療を行っておられます」
ここへ来る前に出会ったナーシャの身体は下腹部を内側から喰い破られて瀕死状態になっていたのだが、あの時はプリンの治癒魔法で何とか一命だけは取り留めたものの、失われた器官と血液まではどうする事も出来ず今も懸命の努力が続けられていると聞いた。
ショコラはオレが知る現代医学の知識を共有しており、ダンジョン内でなら治療に必要な機具を再現する事も可能なので、彼女たちに任せておけばナーシャの事は心配しなくても良いだろう。
いくら治癒魔法があると言っても、それだけで全てのケガや病気が治せるとは限らないと言う事だからオレも気を付けないといけないな。
オレはクロノに命じて、まだ治療を行っていないサッキュバスたち全員をここに集めさせてから、クロノの部屋の中の物を全て影の中に放り込み、ここを急造の診察室として使用する為にベッドのシーツを新品に交換して仮の診察台とした。
最初にリリアと呼ばれたサッキュバスの一人をそこに寝かせて診断するのだが、それには彼女が着ているボディスーツなどを全て脱がせて両足を大きく広げる必要があると言う事で、オレとクロノは廊下へ追い出されたのだが、オレがクロノと同じ扱いなのは何か納得がいかない。
診察中にあの謎生物が飛び出てディアに危害を加える可能性があるので、誰かが側で護衛する必要があったのだが、丁度このタイミングでリンとエリーゼの二人が到着してくれた。
そして部屋の中ではディアたちによる診察が今も続いているが、オレとクロノは相変わらず廊下のベンチに座ったり立ったりしながら待つ事にしたのだが、まるで出産中の妻の身を安じる夫みたいな気がしてきた。
「御方様、ある程度の事が解りましたのでご報告させて頂きます」
廊下へ出てきたディアの説明によると、サッキュバスの胎内に居る異物は胎内の血管から血と魔力を吸い続ける事で生きてると言う事だが、被害にあった女たちは口を揃えて異物に寄生された覚えが無いと言う。
だがクロノが助けた三人のサッキュバスたちは以前の記憶が戻っており、彼女たちの胎内にそれを仕込んだのはサッキュバスの街の地下迷宮に居たインキュバスだと聞く事が出来た。
この世界でのインキュバスとはサッキュバスが産み落とした男性型同族の事で、古くからの言い伝えでは『災いを齎す存在』だと伝えられており、もしインキュバスの赤子が産まれればダンジョンの奥深くへ遺棄されてきたのだと言う。
だが、過去に捨てられたインキュバスの子供が何らかの理由によって生き伸び、自分を捨てたサッキュバスたちに復讐しようとしているのだとしたら別におかしな話ではないが、何より女性ばかりのサッキュバスに対して女性の大切な胎内に謎生物を仕込んで相手を意のままに操り、その相手が反抗すれば腹を喰い破らせて殺してしまうなんて、かなり根深い恨みを持っているに違いない。
そして、この謎生物の処理方法だが、ナーシャが自分の腹を喰い破られる時『まだ裏切ってないのに』と言っていた事から分かるように、あの謎生物は宿主が反抗心を抱く以外のケースでも自分の判断で寄生を中断して胎内を喰い破って死に至らせる事が判っている。
それはオレがあの時ナーシャの仲間たちを脅して撤退させる為に、彼女の首筋に押し当てていた血爪を若干だが喰い込ませて(極少量だが)彼女の体内に侵入させたオレの血を嫌がって出てきたのだとしたら、それが問題解決の糸口になりそうだ。
もしサッキュバスたちの体内にオレの不死因子を持つ血液を侵入させて、血管を通じて胎内に潜む謎生物を死滅させる事ができれば治療方法は判明した事になるが、もし不死因子による生命の危機を察知した瞬間に宿主の腹わたを喰い破られては助からない者も出て来るだろう。
(そもそもクロノはどうやって、あの方法に辿り着いたんだ?)
謎生物の潜む場所がアレなので、女性たちの身体を傷付けずに処理する為には彼女たちのアソコから何らかの方法で引っ張り出すしか無さそうだが……これではエリーゼが怒るのも理解出来る気がする。
「御方様、この謎生物は闇属性の生物みたいなので、謎生物と同属性の暗黒系魔法であれば徐々に魔力に浸して茹でガエル状態にすれば、眠らせる事が可能だと判明致しました」
「睡眠状態にすれば引き摺り出せそうか?」
強力な暗黒系の睡眠魔法が通用するのなら是非その方法を試してみたいが、万一失敗した時の事を考えると安易に誰か一人を実験体に選ぶ事は出来ないし、そんな高レベルの暗黒系睡眠魔法など、ここに居るディア以外は誰も使えない。
ここにはディアと同じ属性魔法が使えるリンも居るが、最初チョロチョロ中パッパという風に非常に繊細な術式の操作が難しく、言って見れば『0』か『100』の二通りでしか魔力操作が出来ないリンは任せる事ができない。
「わ、私の身体で試して下さい!」
簡易診察台の上でシーツを一枚だけ纏ったサッキュバスが志願したのだが、こいつは先ほどのリリアと言う女性で頭の両側に生えている曲がった角の細さと長さから、彼女がまだ若いサッキュバスである事が判る。
「失敗すれば死ぬかもしれないが、本当にそれで良いのか?」
「死なせない為に治療方法を調べて下さるのですよね?」
「覚悟があるのなら、このまま治療に入らせて貰おう。ディア、手順の説明を頼む」
先ず最初に暗黒系睡眠魔法で謎生物を眠らせる必要があるのだが、最初はただ暗黒系の魔力のみを放出し患者の身体を包み込むようにする事で、謎生物にディアの魔力を警戒させない所から始めて、徐々に魔力を強めながら睡眠魔法を織り込んでゆく。
もし施術の最中に謎生物が自分への攻撃だと感知されれば、リリアのお腹が即座に喰い破られる可能性が高いので、宿主であるリリアごと睡眠魔法を掛けて麻酔の代用とし彼女が完全に眠りに落ちたのを確認してから謎生物の除去へと取り掛かる。
そして睡眠魔法を掛けられる本人に抵抗する意思が無かったおかげもあって、すんなりと寝入ってしまったリリアを救うべく次の施術へと移る。




