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異世界吸血鬼 ~前世も吸血鬼なんだが?~  作者: としょいいん


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第80話 ナーシャの異変

 ナーシャがオレの事を魔王か何かと勘違いしているようだが、今はそんな事より彼女の身体に起こった異変に対処するのが先だ。


 ナーシャが身に纏う青いドレスの腹部は大きく開いていて、普段から彼女の美しい縦長の臍と周りの白い肌を露出させてるのだが、突然下腹部の内側から何かが飛び出そうとしていた。


挿絵(By みてみん)


 それは白くて柔らかいお腹の皮膚が、内側から強い力で押し出されて限界まで引き伸ばされた揚げ句、皮下組織が筋肉と毛細血管ごと噛み千切られ破られてゆく様子が、まるでスローモーションの如くオレの目に映った。


「くぅっ、ま、まだ私は逆らってないのにっ!!」


 ナーシャが全身を『く』の字に曲げて、下腹部から飛び出そうとする『何か』を両手押さえながら必死に抵抗する。

 彼女の苦悶の表情には大粒の油汗が浮かび、美しく整えられていた髪を振り乱して激痛に耐える姿など見ていられたものではないが、このまま放っておく訳にもいくまい。

 次の瞬間、彼女の下腹部がとうとう内側から破裂し、血と臓物を辺りにぶち撒けて鮮血塗れの赤い肉塊の中から、白くて醜いミミズの様な魔物が飛び出して来た。


「た、助け……て……」


 ナーシャの腹が破裂する瞬間そいつが飛び出た時、咄嗟に伸ばした右腕の蒼い血爪で串刺しにしてやると……。


──Gyaaaaaash!!


 細長い身体を串刺しにしてやった白いミミズが牙だけの大口を開けて苦しがり、身体を捩って引き抜こうとするが、そんな簡単に逃がしてやるつもりは無い。


 こいつの体内に不死因子をドバっと流し込んで脳を支配してやろうと考えていたが、突然グッタリして動かなくなって細胞が自壊するように輪郭の端から滅びが始まり、爪の先からほろほろと風に浚われて消えてしまった。


(この消え方はダンジョン産の魔物に違いないが、何故それが地上で活動して彼女の腹の中に居たのかが問題だな)


 下腹部を喰い破られて大量の出血を伴い、地表目掛けて力なく墜落して行くナーシャの身体を素早く受け止める。

 ナーシャにこれ以上のダメージとショックを与えないように注意しながら、彼女の身体を優しく地面に横たえる。


 いくら強靭な身体を持つサッキュバスでも、このまま放っておけば、あと数分の生命だろう。

 先ほど彼女の体内へ送り込んだオレの血で、ポッカリと空いてしまった傷の止血を試みてはいるが、ケガの大きさに対してオレが注入した血の量が少なく、ここで完全に止血する事が出来そうに無い。


 緊急事態なので、このままナーシャの身体を不死者(イモータル)に変えても言い訳は立つと思うが、何ぶん出血量が尋常では無く臓器の一部が損壊してしまっているせいで、不死者(イモータル)へ完全変態する前に力尽きてしまう可能性が高い。

 まぁ、死んでしまってからも不死者(イモータル)には出来るが、不仲とは言えシンディの親族なので自我と記憶は保ったまま生かしてやりたいし、何より生者に不人気な黄泉平坂を歩かせる前に救ってやりたい。


「ショコラ聞こえてるか? 今すぐここへプリンを寄越してくれ」


《マスター、プリン様は既にそちらに……》


「ロードしゃま、プリはここに居るの」


「そ、そうか、そこに居たのか……それで、このサッキュバスのお腹を……」


「もうやってるの」


「そ、そうか、それなら安心だな、うん」


 さすがサッキュバスの生命力は凄いもので、腹の中を喰い破られたにも関わらずナーシャはまだ辛うじて生きていた。


「先ずは傷口周りの血管を収縮させて止血してから、脳と心臓と肺を結ぶ血管だけを先に動かして、身体の細胞が生きてるうちに損傷の少ない部位から治癒するの。無くなった細胞は周囲の遺伝子(DNA)情報を元に順次復元させていけば行けると思うの」


 プリンが治癒魔法を使えるのは知っていたが、まさかディアに匹敵するほど高度な技術を持ってるとは知らなかった。


「ロードしゃまゴメンなさいなの。今のプリの実力では、こんなに酷い傷だと完全に綺麗な肌には治せないの。でも生命に別状はないと思うから、それで許して欲しいの」


 許すに決まってる。とりあえず死ななければ、生きてさえいれば希望はある。


「この人サッキュバスなのに、もう二度と子供を授かれない身体になるなんて可愛そうなの」


 今は生命を取り留める事に注力して、後でディアにも診て貰って治せないか相談するしか無い。

 最悪の場合はドロシーに(実験と言う名の)新たな治療技術開発を頼むか、最悪はオレの血を分け与えて『花嫁』にすれば女性としての機能は取り戻せるはずだ。


 いつまでも意識が戻らないナーシャから今までの経緯を聞く訳にはいかなかったので、とりあえず彼女の身柄は城の医務室に運んで、そこで安静にして貰おう。


「ショコラ、ここに知り合いのサッキュバスが意識不明の重傷で倒れているから、ドロシーに転移魔法で城まで送って貰うように伝えてくれ。それとお前には彼女の看護を頼みたい」


《了解しました、すぐにドロシー様を派遣致します》


 ドロシーが到着するまでの間、エリーゼには皮膚を溶接したような傷痕の辺りを再度確認してるプリンの護衛を『命じて』おき、オレは先にクロノのダンジョンへ向かう事にした。


 あの日シンディを伴ってサッキュバスたちの街を出てから、まだそれほど長い日数は経っていないはずだが、彼女たちの国に何か恐ろしい異変が起こっているのは間違い無さそうだった。

 それに、先ほどナーシャのお腹を食い破って出てきたクリーチャーの姿は、どう考えてもこの異世界にそぐわない造形をしており、あれはこの異世界の生物というより別次元からやって来たエイリアンにしか見えなかった。


 ナーシャが先ほど言っていたように、サッキュバスの地下都市の奥に隠されたダンジョンが今回の事件の原因なら、そこで一体何があったのか調べておくべきだろう。


 オレはショコラをピアスから呼び出し、現在クロノの地下迷宮(ダンジョン)へ向かってるはずのユナとフェイリンの二人に進路を変更して、サッキュバスの街へ向かうように命じておいた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 それからクロノのダンジョンに到着し、あの薄暗い廃坑の中を進む。


 このダンジョンは現在60階層まであるが、10階層まで降りれば管理者用の転移魔法陣を設置してある隠し部屋を目指す。オレはこのダンジョンの上位管理者権限を持ってるから全ての通路と扉が使えるので、とにかく最短距離を進んだ。


 ダンジョン内の何処かで先ほどのサッキュバスたちが待ち構えているかと考えていたが、それは取越し苦労に終わり、こうして何事も無く最下層まで辿り着く事が出来た。


 確かクロノたちの居住区はこの辺りだったと記憶しているが、その前にこのダンジョンのコアであるシステム310の無事を確認しておきたかった。


「ミントは居るか?」


挿絵(By みてみん)


《アドミンさま、ようこそですぅ~。本日はどのようなご用向きですか?》


「クロノたちに何か異変があったとエリーゼに聞いて来たんだが、実際ここで何が起こってるのか説明してくれ」


 以前にクロノが自分と同じ悪魔族(デビリッシュ)だと勘違いして、サッキュバスの女たちをこのダンジョンの中へ連れて来たのは既に聞いている。


 最初は5人だったサッキュバスが今では30人くらいまで増えており、その全員がクロノとの接触を望んでいるらしい。


 あのバカはエリーゼと言う美人の恋人が居るのに、別の女にだらし無く鼻の下を伸ばしているから痴話喧嘩になり呆れた彼女が出て行ってしまったのだろう。

 その時点で直ぐにエリーゼの後を追いかけて謝れば良いものを、サッキュバスの女に絆されて謝るタイミング逸したのではないかと考えている。


 デスロードに生まれ変わったクロノにサッキュバスの魔眼は効かないから、それはアイツが敵に操られたのでは無く自分の意思でそれを行ったという事になるが、それでも最後の一線であるミントの存在をサッキュバスどもに知らせていないのは、まだ完全に相手に取り込まれた訳では無いと言う事か。


 サッキュバスたちはクロノを騙してダンジョンコアの場所を探し出し地下迷宮(ダンジョン)の奪取を狙っているのだろうが、クロノはそれに気づかないフリをしながら何か別の目的の為に動いてるのではないだろうか?


 クロノはアレでも元はオレと同じロードクラスの存在だから、もし仮にオレと同じように『死』だ差し迫った者たちの心の声を聞いたのだとすれば、ちょっとエロいだけで人の良いクロノの事だから、目の前のサッキュバスたちを救いたいなんて考ても別におかしくは無い。


 サッキュバスたちの身体を乗っ取った敵に気取られないように、彼女たちの誘惑に乗ったフリを続けながら相手の下腹部に潜むあの白いミミズのクリーチャーを排除する為に、彼女たちを安全な自分の個室へ連れ込んでお医者さんゴッコをしていたとすれば……話としては合ってるような気もする。


《クロノさまは今もお一人でガンバっておられるのです。どうかアドミンさま、私のマスターを助けて下さい!》


「ああ、任せておけ。あのバカを助けて、それからエリーゼとの仲も取り持ってやるからな」


 だが万一の状況を考慮するなら、ここにディアとプリンとドロシーの三人を集めておいた方が良さそうな気がするが、リンと一緒にカイの地下迷宮(ダンジョン)がある地上エリアへ向かったディアが城へ戻って来るまでにはまだ時間が掛かりそうだ。


《マスター、カイ様のダンジョン地上エリアにおいてリン様たちの勇者パーティが賊と戦いを開始したようです》


 おお、ナイスなタイミングで朗報が来た。


《敵の魔族は十数体ほどですが、既にその半数が接近する前にメイプル様によって狙撃されています》


 あれ? おかしいな。メイに出撃を許可した覚えは無いんだけどな……。


《メイプル様は試作した魔法銃(マジックライフル)の実射試験に出て行かれました》


 そう言えば、射撃の腕前ナンバーワンに輝いたメイには、今後も魔法銃(マジックライフル)の試験を頼んでいたのだが、動く標的を探していた彼女にショコラがリンたちの援護射撃を提案したそうだ。

 ま、貴重な実戦データについては帰ってから報告して貰うとしよう。


「ショコラ、今ドロシーが知人のサッキュバスを城まで送り届けたと思うから、ディアが戻って来たら彼女と一緒にクロノのダンジョンまで来るように伝えてくれ。あと、その途中でプリンとエリーゼの回収も頼む」


《了解です》


 そうと決まれば先にクロノの自室へ向かうが、万一の事故に備えてミントはコア・エリアに戻って貰ってた方が良いな。

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