第76話 クロノのやらかしと、その後のカイたち
「クロノ居るか?」
「ロ、ロ、ロ、ロードさん、ど、ど、どうしてここに?!!!」
だから転移魔法陣をプライベートルームに設置するなと、あれほど言っておいたのにオレの言う事を聞かなかったクロノが、突然姿を現したオレの姿を見てものすご~く慌てているのが見える。
何故かって?
それはヤリたい盛りの元高校男子が異世界へやって来て、理想の恋人を手に入れて毎日18禁な爛れた日々を送っているからで、今ヤツが飛び起きたベッドの上にある膨らんだ毛布の中には、きっと生まれたままの姿で息を殺したエリーゼが隠れている事だろう。
「この前の天使どもとの戦いで助けに来てくれたお礼に来たんだが、また今度にした方が良さそうだな?」
「そ、そうしてくれると助かるよ……」
お礼に来たのにタイミングが悪かったせいで、返って相手に気を使わせてしまう結果となったのだが、それはオレのせいでは無いと思いたい。
「やっぱり転送魔方陣は自室意外の何処かに移しておくよう、ドロシーにもう一度頼んでおこう。あとそこで隠れてるエリーゼにも宜しく言っておいてくれ、またな」
オレが再び虹色に輝く転送魔方陣を踏もうとすると、背後からエリーゼでは無い別の女の声が聞こえてきた。
「クロノ様! エリーゼ様とは終わられたと仰られていたのはウソだったのですか?」
「いや、ウソじゃない! エリーは俺を置いて出て行ってしまったんだから……」
ベッドの毛布の中から顔を覗かせたのはオレが知らない若い魔族の女性で、クロノの恋人ではなかった。
大方のところ……浮気がバレて怒って出ていってしまったエリーゼを探しに行く事もせず、また別の女の子に手を出してるヤツの姿には若干の嫌悪感を抱くが、自分が昨夜行った事を思い出して何も言えなくなったオレは、無言のまま転送魔法陣の上からそっと姿を消した。
ヤツの今の現状は、一歩でも間違えばオレの未来でもある。
一夫多妻制が普通に認められているこちらの異世界ではあるが、相手の女性たちの心の在りようは元居た世界のそれと余り大差は無く、一方的な振舞いのツケは最終的に全て自分へと返って来るのだろう。
「ショコラ、これからカイのダンジョンへ行こうと思うんだが、向こうに居るミルクに事前連絡を取って、これから伺っても良いか先に聞いてくれないか?」
普段なら呪いの妖精鎧のカイはうちのダンジョンの20階層のボスキャラとして、たまにやって来る冒険者を適度に痛めつけてはギリギリ生かして追い返すという職人仕事を請け負って貰っているのだが、天使どもとの戦いの後、故郷の村を失ったエルフたちの住処を造ってる最中は忙しかったので、日頃から来場者の少ない地下迷宮の入口を閉鎖して長期休暇にしていた。
元勇者のカイとその彼女であるゲルダは自分たち本来の肉体が既に滅んでしまっており、それぞれ呪いの妖精鎧と炎の亡霊に生まれ変わっていたのだが、カイはオレの配下となった時にショコラとドロシーに頼んで、ホムンクルス生成技術によって彼の遺体に残っていた細胞からDNAを培養した新しい義体にを手に入れており、オレの血によって不死者の肉体を手に入れたゲルダと仲睦まじい生活を送っている。
なのでオレがまた不用意に尋ねてしまい、何かの真っ最中では無い事を先に確認しておきたかったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「改まっての礼など不要だ、そもそも俺たちはお前の眷属なんだからな。それよりわざわざ来てくれたのは嬉しいから、ゆっくりとこれからの事でも話しをしようじゃないか」
カイのダンジョンにある奥まった一室が応接室に改装されており、オレとショコラはそこで饗される事になった。
事前に普段から見慣れたくすんだ青い鎧姿では無く、今日の昼食会に合わたやや古めのデザインの青い貴族服を纏ったカイが、明るい赤色のシンプルなパーティドレスに着替えたゲルダをエスコートして入室して来ると聞き、オレとショコラも急いでそれっぽい貴族の衣装へと着替える事にした。
オレたち不死者は食事を必要としない身体を持つため、普段からこういったパーティを催す慣習は無いが、カイとゲルダは元人間だったと言う事もあり、時々こうして二人で食事を楽しんでいるそうだ。
オレとパートナーのショコラが相向かいに座り、カイとゲルダもオレたちの隣に腰掛けたタイミングで、ここのダンジョンのコアであるミルクがメイド服姿でワインを乗せたワゴンを押しながら部屋へと入って来る。
「いらっしゃいませです、アドミンさま」
ミルクはショコラを高校生くらいまで若返らせた感じの少女で、狐人族のDNAを取り込んで生成された少女型アバターとなっており、正式名称は確か『System309』だったと思う。
そして彼女にも命名するようにお願いされたオレは、真っ白な髪と尻尾それに『309』を捩って『ミルク』と名付けたんだっけな。
目の前でワイングラスに注がれる紅い液体は、まるで血液のように美味そうな深い赤色をしていた。
「これ美味いな?!」
「気に入って貰えたのなら嬉しい」
このワインはゲルダの両親が生きていた頃からこの街の特産品だったらしく、その当時の者たちがカイの呪いによって今もこのダンジョンの地下深くで奴隷の様に働かされており、その頃の生活を再現する事で復刻するに至った一品だと言う。
「これほどの品質なら、オレの街に住んでるエルフたちが欲しがるんじゃないかな?」
「マスター、このワインは今ではもう失われてしまった製法によって造られていますから、私たちの街以外でも高値で売れると思います!」
この後に出てきた肉料理との相性も良く本当に美味いワインだと感じたが、吸血鬼の味覚が生者たちのそれとは異なっている事を加味しても、かなりの上物だと思ったのは確かだ。
「ワインだけじゃ無く、この料理も旨いじゃないか」
まるで牛肉のような食感と味がする素材となったのは、このダンジョンの付近に群れを持つ魔獣の一種だと聞いた。
遥か昔にカイがこの地に住む人間たちを全て呪い殺した事で、今も人の手で汚されていない自然がそのまま残っており、野生動物を始め植物等についても他の地域では見られなくなった品種が今もこの地域でのみ生き残っているという事だった。
その中には高価なハイポーションの素材となる薬草の群生地があるのだが、時々そこを訪れる人間たちによって乱獲されるのが悩みだそうだ。
その乱獲者どもは人間のスカウトや盗賊たちで、カイたち不死者の能力に制限が掛かる正午過ぎに決まってやって来ると言う。
「それなら後でリンたちに頼んで、駆除して貰おうか」
自然の植物に所有権など在りはしないが、それらの素材を乱獲される事でカイたちの地下迷宮の運営に少なからぬ影響が出るのであれば、裁判所等の司法制度が存在しないこの異世界で力による解決方法が選ばれるのは普通の事だ。
ワイン以外にもこの街の特産品として、薬品類や加工肉など多くの品物を作ってると言う事だったので、うちの城で買い取れる分を決めて毎月二回程度の交易を行う契約を結んでおいた。
交易と言っても、ボックス系魔法が使える者を転送魔法陣で送るだけの『なんちゃって交易』だが、手間と時間と安全性においては、元居た世界の発達した物流網を上回る便利さだろう。
毎日エッチな事ばかりに夢中で、地下迷宮の運営や街の発展には興味が無さそうなクロノの所はともかくとして、カイたちの所とはお互いにWin&Winの関係になれそうだ。
うちの地下迷宮だが地上にある城郭部分はともかくとして、地下部分は以前のまま手を入れてない状態だが、今は地上に造ったエルフたちの街を発展させるべく全力を注いでいる最中なので、普段カイたちに働いて貰っている地下迷宮のも、まだ暫くの間は休業すると伝えてからシルヴァニア城へと戻った。
挿絵は後で追加すると思います。




