第74話 ディアーネとのひととき
――コンコン
もう次の時間になっていたのか?
「ど、どうぞ。鍵なら開いてるよ」
「御方様、お邪魔致します」
部屋に入って来たディアーネの姿を見たオレは、目を大きく見開いて口も開いたまま固まっていたと思う。
確かディアーネでラストだと聞いてはいたのだが、まさか彼女が白いレースで作られたセクシーな下着の上に、シースルーネグリジェのみを纏っただけの、ほぼ裸で来るなんて聞いてなかったよね?
あと、何で枕まで持って来てるのか? その理由をディアーネに問いただす事によって、オレの身に新たなる危機を呼び込んでしまいそうな嵐の予感が閃く。
(理由を聞いたら負け、なんだろうな?)
ディアーネのセクシー過ぎる、ほぼ全裸と言っても過言ではない彼女の姿を直視出来なかったヘタレなオレだが、この状況を打開する方法について何か策はないかと思考を巡らせる。
「ディアーネは『吸血鬼の花嫁候補』だったな。なら今後の事でも話しておこうか?」
「はい、お伺いさせて頂きます」
普段はドレスに隠れていて見えないが、不死者の血を分け与えた時から彼女の下腹部にはオレの花嫁候補を示す紋様が浮かび上がっており、これは彼女が本心から身も心も捧げてくれると誓った証でもある。
儀式を始める前に、ディアーネが正面のソファーへ深々と腰を沈めてから、彼女の白い脚を組んで両手を膝の上に添える。
すると、ただでさえ大きく実った二つのたわわなアレが両腕に挟まれ、更に直視するのが憚られる大変な状態になっているが、これは気にしたら負けなのだろう。
(あれは絶対オレから見えるようにやってるな……)
たわわに実った二つのアレばかりがクローズアップされるディアーネだが、彼女が持つ二本の脚も十分に美しいラインをしてるとオレは常々から思っている。
その脚を敢えてゆっくりとした動作で組み替えると、ディアーネの白く艶かしい太ももの内側がチラリと一瞬だけ垣間見えたのだが、彼女が態々このような所作を行うのは、オレの弱点を熟知していると言うメッセージだろうか?
「ディアーネには、まだオレとお揃いの黒いマントを渡していなかったな?」
オレの影の中は異空間ポケットとなっており、様々な装備品やアイテム、それと万一の為の食料などが多数収められており、その中からオレがいつも好んで着ている黒いマントを引っ張り出して、ディアーネの肩に着せてやるべく、ソファーを立とうとしたら……。
「御方様、その黒いマントでしたら、既に我軍の標準装備としてショコラ様から城の皆様に配られてますが?」
そ、そうだったのか……そう言えばうちの者たちは黒っぽい服装が多いと思っていたんだ。
このコートは太陽光線を完全に遮断してくれるから、耐陽の腕輪を付けた状態よりも涼しいから皆にも配る事にしたんだっけ?
「ですが、御方様が袖を通されたマントを、自らの手で下賜して頂けると言う事でしたら喜んで頂きます!」
え、オレが着てるマントなんて中古だし、まだ洗ってないから、もしかしたら臭うかも知れないぞ?
いやいや、オレは極めて体臭が薄い方だから、獣人並に嗅覚が優れていなければ判らないとは思うが、そんなモノを貰っても同じマントが増えるだけだぞ?
もしかして、オレがいつも戦いと街造りに明け暮れて忙しそうにしてるから、洗濯してくれると言う事なら甘えさせて貰おうか。
と、とにかく今のミッションはディアーネに何か羽織らせるのが目的だから、彼女がオレのお古のマントでも良いと言ってくれるなら喜んで進呈しようじゃないか。
「それならこっちに来てくれ。そう、そのままオレの所へ来て、ここで入口の扉の方を向いて立っていてくれ、直ぐに着せてやるから……」
オレは、いつも着ている黒いマントを影の中から引っ張り出すと、ディアーネの肩から掛けてやる。
「御方様、ありがとうございます」
少し大きめのサイズだったのが幸いして、これで後ろから見るだけならギリギリセーフとなったが……彼女がこちらを向くと肩しか隠れておらず、ディアーネの白い首筋と鎖骨が鮮明に目に飛び込んで来た。
それに、たわわな胸の谷間とか、細く括れたウェストから腰骨にかけてのラインとか、いろいろと覆い隠して欲しかった部分は全て丸見えのまなので、マントの黒い生地との対比によって白い素肌がより強調される結果となった。
やっぱりマントではダメだったか……。
(何故か、ほぼ裸だったさっきの状態より更にエロく見えてしまうのは、作戦の失敗を意味するではないか?)
「御方様、私はもう『花嫁候補』では満足出来ませんので、更なる『契約』で正式な『花嫁』にして頂きたいのです! そして、お方様の……お子を……モニョモニョ……」
「お香?」
はて? オレたち吸血鬼の進化先に『おこぉ』の発音を含んだクラスなんて、あったっかな?
元居た世界で『お香』と言えば、葬式などで死者への餞に捧げられるモノだったと記憶してる。
なので、こちらの異世界にもそれに類する物があり、ショコラのくれた翻訳ピアスが誤変換したのだとしたら、それは異世界のみに存在する不死者か女性専用のクラスだと思われる。
また女性吸血鬼にも『カウント』などクラスを表す称号が付くのは男性と同じだが、これまで『吸血鬼の花嫁』を娶った経験が無いオレでは『花嫁』から先の進化ルートなど知る由もない。
恐らくだが『神の祝福』を受けた者のみが至れる進化ルートのその先に、『お香』に関係する未知の不死者が存在するに違いない。
とにかく『血の儀式』をする事だけは決まってるからベッドへ移動するが、赤いシーツが整えられたベッドを見たディアーネの呼吸と心拍数が荒くなったような気がする。
(赤いベッドを見て何かのスイッチが入ってしまったみたいだな……)
オレのマントを肩に纏ったディアーネが『ハァハァ!!』と粗い息を吐きながら、こちらに迫って来るかが、彼女のたわわに実った二つのアレがブラブラと揺れてもの凄い状況になってる。
「私にも御方様のお情けを頂きとう存じます♥」
お情け……とはオレたち吸血鬼の間では、心の準備が整ったので今から血を分けて欲しいと言う意味で合ってるはず。
オレに抱きついてきたディアーネの身体を横から抱き直して優しく寝かせてから、吸血しやすいように彼女の首筋に牙が届く態勢を取る為オレの身体を重ねるのだが、オレの体重が彼女の華奢な身体に重くのし掛かってしまわないよう慎重に左肘をついて上半身を支える。
そして肘から先の二の腕を彼女の首の下へ差し込み腕枕をしてやると、これから始まる儀式に備えてディアーネが静かに目を閉じる。
またユウの時のように、両脚で身体をガッチリ挟まれ動けなくなる
きを封じられては困るので、ディアーネの左側へ添い寝をしようとしていたら、オレの右足が彼女の両脚の間に挟み込まれてしまった。
この状態でもディアーネの首筋まで牙が届くので、吸血するだけなら問題は無い。
空いてる方の右手を使ってディアーネの左の首筋を、オレの方へ傾け白い素肌の匂いを確かめる。
微かに香るのは薔薇の香水だろうか? ディアーネの首すじに唇を這わせながら彼女の香りを楽しむ。
「これで、やっと夢が叶うのですね?」
「夢って?」
「御方様に愛シテ頂く事です」
『血の契約』なら、ディアーネの首の皮膚が麻痺すれば直ちに行うつもりだから心配は不要だ。
ディアーネを以前に吸血した時は敵対していた時だったので、オレの配下となってから吸血するのは今回が初めてだ。
「初めてだから優しくするから心配は要らない。もし痛かったら教えてくれ」
「はぅぁ!」
いつまでもディアーネの香りを嗅いでいては首の皮膚は麻痺しないから、彼女の願い叶えるためにも唇で触れていた部位に舌を這わせると、唾液に含まれる麻痺毒によって痛みを感じる神経が麻痺するまでの少しの間に牙の先で彼女の頸動脈がある位置を探る。
「ちょっとくすぐったいけど我慢してくれ」
オレはディアーネの白くて細い首すじに、深々と根本まで牙を突き沈めて行く。
「御方様、これ……ちが……うぅ……」
吸血鬼の花嫁となった者は、自分に血を分け与えてくれた上位者に対して愛情のような感情を抱くようになるが、それは血の契約による効果の一つで本当のそれでは無い。
オレはディアーネが不死者となる時、彼女の望みを聞いた事がある。
ディアーネがシンディやフェイと一緒に天使どもに捕らえられたのを目にした時、オレの中で何かが壊れるような思いがしたのは、オレが彼女の事を大切な相手だと思うようになっていたからだと思う。
だがディアーネが今想い描いてるような関係を彼女とだけ結ぶ訳にもいかないので、これまでは出来るだけ二人きりになるのを避け、また正面から彼女の想いに向き合わないようにしていた。
だが天使どもとの戦いによって、オレはまた大切な仲魔を失う事の意味を思い出した。あの時、オレは何かの縁で今共に居る皆に対して、後で後悔する事の無いように出来るだけ相手の望みを叶えてやろうと心に決めた。
だからディアーネが今夜オレの部屋へ来て、彼女が本当に望んでいる事についても知ってはいるが、早々に彼女を孕ませるのでは無く、彼女があの時望んだ『恋』から初めてみようと思ったのだ。
最初は恋人同士がするような優しいキスから、ただオレたち二人はお互いに吸血鬼だから人の営みとは少し違うがディアーネもそれは理解してくれるはずだ。だって彼女はとても頭が良い女性だから直ぐにオレの意図に気がついてくれると思う。
「くはぁ……」
ディアーネに添い寝をしながら、彼女の首すじに突き立てた牙から溢れ出る血液を啜りながら、彼女の目の前にオレの首を差し出すが、目蓋をきつく閉じたままのディアーネはまだそれに気づいていない。
ディアーネの血がオレの唇を潤すと同時に、鼻腔の奥の方にまで広がってきた彼女の血の香りがオレの吸血欲を更に高める。
(他の女性たちの血も美味いと思ったが、ディアーネの血はオレの好みにぴったり合うな。もしかしてこれが『血が合う』と言うことなのかも知れない)
ディアーネと契るこの行為は、ただ単に相手の血を貰うと言う意味ではなく、彼女の心と同じくらい彼女の身体も優しく愛撫しながら吸血を続ける。
ディアーネの血液がオレの中へ入って来て、身体の隅々にまで彼女の魔力の波長が行き渡る。身体の内側から伝わって来る温かな気持ち良さが、細胞の奥底にある不死因子を活性化させてくれる。ディアーネの血液には、彼女の意識が及ばない深いレベルで治癒の効果を秘めているみたいだ。
ディアーネの胸の奥にに秘められた深い愛情と情熱が、彼女の血に含まれる文字に出来ない情報としてオレに伝わり、それが二人の欲情を掻き立て意識が混ざり始める。
(このままディアの全てを飲み干したい気分だ)
オレはいつも不死者に性欲は無いと言ってきたが、ここで少しだけ訂正させて貰おう。
オレが血を別け『花嫁』に至った者からのアプローチについては、その限りでは無かったようだ。
その証拠に今オレが感じているこの想いは確実に欲情に類する感情だと思えるからで、今すぐにでも相手を自分だけのモノにしたいと言う人間みたいな気持ちが、少しだけ理解が出来るようになった。
それでも今はディアーネとの最初の逢瀬を楽しみたいと望み、彼女にもオレと同じ気持ちを抱いて欲しいと願うのは醜い我儘だろうか? オレの中へ入って来るディアーネの血を味わいながら、今度はオレの血を彼女の体中へ還して行く。
「ぁふぅ……」
既に不死の肉体に至っているとは言え、まだ二度目の吸血行為による悦楽の洪水みたいな感覚に対して、まだ耐性の無いディアーネが身体をよじるようにしてオレから逃れようと動く。だが、こで簡単に吸血してる相手を手離してしまうようでは吸血鬼の名が廃る。
オレはディアーネを傷つけないよう注意を払いながら、お互いの身体が離れてしまわないように抱きしめる腕に力を込める。
「あああぁぁぁぁぁ!!」
オレの血をディアーネの中いっぱいに注ぎ込みながら、それと同時に彼女の紅い血を喰らい続ける。
今オレとディアーネの血が通い合って二つの心臓が文字通り繋がっているのが解る。オレの不死因子がディアーネの脳と心臓を始めとした様々な臓器を巡ってから、再びオレの中へと戻って来るのが判る。
血が巡る度に血管の内側を流れる際の摩擦が快感として脳に伝わり、身体の奥底からジンジンと痺れるような快感が止まらない。
オレが感じる心地よさと気持ち良さはディアーネにも伝わっていて、精神感応を使用していないはずなのに、彼女の身体の中を駆け巡る交感神経の高まりが同調するような感覚に抵抗する事が出来ず、血液の奔流に意識を流されないように必死に保ち続ける。
そして、もうこれ以上はディアーネの意識が保たないと思い始めた頃、ふと彼女の唇にオレの首が触れてしまい、その瞬間ディアーネの牙がオレの頸動脈を刺し貫いた。
「ぐぅっ!!!」
今、呻き声を上げてしまったのはオレの方だ。
まだ吸血をした経験が無いディアーネなので、一度に吸い出しても良い血液の量と早さの加減が判らないらしく、このままだとオレの体内にある全ての血が彼女の喉へと吸い込まれてしまうだろう。
だが、ここでディアーネの行為を中断させて今の快感を失ってしまうのは少々勿体ない気がする。だからオレも彼女の吸血スピードに合わせて、吸われた分を取り返すように吸血のペースを早めると……。
先ほどとは違い、今度はお互いの牙で相手の首筋から血液を奪い合う、まるで殺し合いみたいな愛し方となったが、先ほどまでのようにオレの方から血を注ぐ必要が無くなり、その分だけ吸血するスピードを更に早める。そうしないと干物にされてしまう危険性があった。
つい先ほどまでは、もうこれ以上の快感は脳が耐えられないと思っていたはずなのに、更に早くなった血液の循環スピードによって、自我が掻き消え本能だけの交わりへと変化してゆく。
今オレが吸っているのはディアーネの血なのか、それとも……。
行為に没頭し続けた影響で脳が麻痺して来たのか、時間の感覚が徐々に薄れて時間の感覚を失ってしまい、もうどのくらいの時間をこうしていたのかすら思い出せなくなってゆく。
それでも、お互いの血を望む欲望の炎だけは消える事無く、それどころか更に勢いを増し続けて時間すら超越したような感覚を味わってゆく。
《やっと私の願いが叶ったのですね。この時を、いいえ、この瞬間をずっと待っていました》
(お前は誰だ? 何故ディアーネの血の記憶の中に潜んでいるんだ?)
《私もディアーネなのです、かつては貴方様からエルディアーネと呼ばれていた初代の聖女です》
(以前にディアーネを不死者にする際に彼女の記憶を見せて貰ったが、そこに初代聖女に関する記憶は無かったと思うが?)
《今のディアーネに私の記憶はありません。彼女が私の細胞を元に生み出された人工生命だと言う事はもうご存知ですよね?》
(それは知ってる。そしてお前の望みは何だ? それと、このタイミングでオレの前に現れた理由は?)
《私の望みは愛しい貴方様をこの腕に抱く事だったのですが、それはもう叶ってしまいました。今ではもうずいぶん昔の記憶となってしまいましたが、貴方を最後まで護る事が出来ず、あの女に貴方様を奪われてしまった過去の妄執が、今も私の魂を輪廻の輪へ旅立つ事を阻んでいるのです》
(それは嘘だ。オレがこの異世界へやって来たのはついこの間の事で、確かにオレが記憶を失ってしまう前は親しい仲魔たちと暮らしていたと思うが、それはオレが元居た世界での話だ。だからこの異世界に居たお前とは接点が無かったはずだが?)
《愛しい方。先ず最初に申し上げますが、私が貴方様に嘘を申し上げる理由が御座いません。信じて頂けないのは寂しい限りですが、だからと言って私の貴方様への想いが揺らぐ事もありえません。ですから貴方様のご記憶が戻られるその日まで、このような戯言を申していた亡霊が居た事を覚えていて下さるのなら、今まで待ち続けた甲斐があったと言うものです》
(まて、お前は……いやエルディアーネは、以前のオレの事を本当に知っているのか?)
《この世界に私より貴方様の事を深く存じている者など居ないと断言致します。ただし私と同じくらい貴方様の事を想ってる、あの女神なら心当たりは御座いますが……》
(それなら教えてくれ。お前とオレはどこで知り合ったんだ? それと女神とは一体誰の事だ?)
《愛しい方。私が貴方様と知り合ったのは、もう過ぎたる太古の昔の話です。貴方様を最後まで守り切れなかったばかりか、貴方様の花嫁となる夢も叶いませんでしたが、いつか必ず貴方様がここに戻って来られると信じてお待ちしておりました。それと非常に業腹ではありますが、あの女も既に貴方様のすぐ近くに気配を感じます。貴方様とあの女は最初は敵同士だったのですが、あの女が自分の生命を貴方様の為に捧げた事で貴方様の運命に深く関わるよになってしまったのです》
(なら教えてくれ、『あの女』とは、この城に居る誰かなのか?)
《愛しい方。貴方様のご記憶が戻っていない今、亡者の制約により、これ以上はお話する事は出来ません。私の事もあの女の事も、貴方様ならきっと思い出して頂けると信じていますので、記憶が戻るその日までご猶予を頂きたいと存じます》
(オレが失った過去について、他に何か教えて貰える事は無いか?)
《愛しい方、私は過去に貴方様の事を『サクヤ様』と呼ばせて頂いておりました。それが本当のお名前だったのかどうかまでは存じ上げていませんが、その名は私にとって唯一無二の御方を指し示すお名前です。二千年の想いが叶って私が自身にかけた呪いの力が弱まってきています、もう直接お会い出来る機会は無いかもしれません。そろそろ眠りにつく時が来てしまったようです》
(まて、まだ聞きたい事があるんだ……)
目を閉じたまま目蓋の裏に描き出される女性の姿は、オレが今抱き寄せて眠っているディアーネと瓜二つの姿をしていた。
記憶の中の彼女は薄絹の長衣が風にヒラヒラと煽られながら、オレの方を向いてただじっとこちらを見つめている。
もう実体を失い血の遺伝子の中に記録された過去の記憶でしかない彼女は、これからもディアーネの細胞の中で眠り続けるのだろう。
オレと彼女の間に過去の接点があったとは考えられないが、それでも彼女が嘘を言っているとも思えない今の気持ちをどう表現すれば良いのだろうか。
オレの口内に広がるディアーネの血の味と匂いが、そんなモヤモヤした感情ごとオレの事を癒やしてくれる気がした。
いつもオレに想いを寄せてくれるディアーネに対して、彼女の感情がオレの血を別けた副次効果によるものだと思い込み、これまで出来るだけ接触を避け距離を取るように心掛けていた。
ディアーネに過去の記憶は無いと聞いたが、無意識下に居るエルディアーネの魂の記憶が、再びオレと出会う為に運命のルートを探し続けていたのかも知れない。
シンディも、ショコラも、ディアも、三人とも最初からオレの仲間だったんだな。オレにはまだ最後に目覚めてから70年ほどの記憶しか戻ってないが、これからはもっと皆との関係を大切にして新たな絆を紡いで行こうと思う。
そして、いつの間にか眠ってしまったディアの首から口を離して彼女の顔を見つめる。
眦から涙が流れた跡が残るのはディアのものか、それともエルのものだろうか?
こうして改めて見てみるとディアが美人なのは置いておくとして、彼女の容貌に何処か懐かしさと安らぎを感じていた理由が少しだけ解った気がする。
まだ眠ったままのディアの頬に優しく口付けてから、彼女の目覚めを促すように目蓋にも続けてキスをする。
ディアが以前に言っていた彼女の望みについても、これから真面目に考えてみようと思うようになっている自分の気持ちに気づく。
(オレも、そこら辺に居るハーレム野郎どもと、何ら変わる事は無かったんだな……)
今夜と言ってももう昼前になるが、これで城に住む女性全員と改めて『血の契約』を更新したので、今朝目覚めてから存在進化を受け入れた者たちが新たな能力を手に入れてるはずだ。
「ディア、目が覚めたか?」
「御方様! 今何と申されましたか?」
「今日からお前の事は『ディア』と愛称で呼ばせて貰おうと思ったんだがダメか?」
「是非それでお願いしまsu!」
舌を噛むほど急いで返答しなくても、オレの想いは変わらないんだけどな。
「二人で一緒に吸血して、お互いの血が巡り合うのは初めての経験だったと思うが、実際どうだった?」
「あれは凄い経験でした。快感と同時に心が幸せで満たされる感じがして……最後まで意識を保つ事が出来ずに眠ってしまいました。すみません……」
「何でディアが謝るんだ? 気持ち良くさせて貰ったのはオレだって同じなんだぞ?」
「いえ、最後まで御方様と共に、あの痺れるような快感の渦の中に居続けたかったのです」
「またすればいいだろ? ディアはもうオレの花嫁なんだからお互いが望めばいつでも出来るじゃないか」
「はい、いつでも良いのですね?」
「それとディアの血を吸ってる時に過去の記憶が少し戻ったから、お前には教えておこうと思うんだ」
「何を教えて頂けるのですか?」
「オレの本当の名は『ロード』じゃない。あれは配下となった皆がオレのステータスにある『吸血鬼の君主』をそう呼んでいるだけなんだ。オレの名は『サクヤ』だったらしい、二人きりの時はそう呼んでくれ」
「サクヤ様、良いお名前と存じ上げます」
「それと、これを渡しておこう」
オレはディアの左手を取り彼女の左手の薬指に、オレの血を固めて造った宝玉の周りに小さなダイヤを散りばめたプラチナの結婚指輪を嵌めてやる。
「御方様、これは!」
「ああ、オレの花嫁になってくれた証だ」
「一生大切にします!!!」
ディアとは指輪の事も含めてまだ話していたいと思ったが、もうそろそろ誰かが呼びに来る時間だと思ったので彼女が自室へと戻る前に最後の抱擁を楽しむ。
お互いを抱き合いながら少しでも長く相手の存在を感じていたかったので、抱き合ったままの両腕に力を込めて今以上にピッタリ寄り添いたいと願った。
やっと主人公ロードくんが本名(?)を思い出し、本作のヒロインも明らかとなりました。この前の後書きにも書かせて頂きましたが今回のお話で一旦キリとさせて頂きます。これまで読んで頂きました多くの皆さまに感謝致します。またどこかで・・・。




