第72話 プリンとのひととき
――コンコン
「開いてるよ」
「ロードしゃま、お邪魔するの」
黒のゴスロリ風ドレスに身を包んだプリンが、まるで精巧に作られたお人形さんのようにトコトコと可愛く歩いて入室してきた。
「プリンの希望は何? 今夜この部屋でオレとどうしたいんだ?」
「プ、プ、プリの希望?! そんなの決まってるの!」
ドロシーが退出した時のままソファーに座ってるオレの隣までプリンがやって来てチョコンと座る。
彼女もディアーネと同じ教会に所属していた元聖職者ではあるのだが、その幼い容姿と仕草から城のマスコット的なポジションとなって久しい。
本人は十五歳で一人前の女性のつもりらしいのだが、オレが元居た世界なら中学三年生くらいの年齢にしてはかなり幼く見えるし、尤もプリンの場合は身長も低く身体も成長前にしか見えないから、外見だけなら中一か小学六年生くらいが妥当なところだろうか?。
それでも生家が元貴族家という事もあって一人前のレディとして立ち振る舞っているようだが、先ほどでも述べた通り彼女の場合だと(良い意味で)人形のようにしか見えない。
オレの座るソファーの直ぐ隣に腰を落ち着けたプリンが下を向いたまま一言も話さなくなる。
「どうかしたのか?」
「な、なんでもないの」
「今日は神官服じゃないんだな? その黒いドレスはオレが元居た世界でも有名な物だったんだが、こっちの異世界にもあったんだな、知らなかったよ」
「こ、これはリンに教えて貰ってショコラと一緒に作ったの」
「プリンに良く似合ってるよ、よかったな」
「あ、ありがとなの」
それからオレたちはプリンが過去に教会でどう過ごしたとか、オレの元居た世界でのファッションの話しをして時間を過ごした……と、言っても話してるのはオレが九割だったが……。
「そろそろ帰るの、また来てもいいの?」
「もちろん、いつでも待ってるからな」
「わ、わかったの」
プリンが先ほどから『トコトコ』と音を立てながら歩いてるのは、彼女が足元まですっぽりと覆われたゴスロリスカートの中でまだ下ろしたばかりの真新しい厚底靴を履いてるからだろう。
踵だけじゃ無くて靴底全部がハイヒールみたいになってる、あのサンダルは何という名前だったっけ? もしかしてあれもリンの発案なのだとしたら、彼女にこの街で興るアパレル業のアドバイザーにすれば元居た世界の文化を形にしてくれそうだと思った。
「おやすみなの」
「ああ、おやすみ、プリン」
パタンと音を立てて扉が閉まる。
一番最初に吸血鬼の花嫁候補となったプリンだが、オレの中では年の離れた親戚の子みたいな感覚に近い。
下級貴族の生まれなのに教会で過ごした時間が長く、他者とのコミュニケーションが少し苦手なプリンがどの様な思いを持ち人間社会で生きて来たのか少しだけ判った気がする。
プリンの実家からはアイゼンが彼女付きの騎士として、陰ながら守って来たように大切な存在として扱われていたみたいで将来の聖女候補の一人に選ばれていたと聞いたが、そう言えばリンとディアーネに頼んだチンチクリンの娘とは顔見知りだろうか?
オレはこれから造る不死者の街の中で、プリンがゴスロリドレスを纏って大通りをトコトコと歩く姿を想像してニヤニヤしていたのだと思う。
壁の時計を見上げると、もうとっくに朝日が登ってる時間になっているが、この城の住人たちは太陽の光を苦手とする者が多いので耐閃光防御の結界によって護られているから自分で窓を開けない限り朝と昼の区別がつかないように造られている。




